「少年マンガを正面からやってる」 オカモトショウが話題作『違国日記』と『パラショッパーズ』の魅力を語る

オカモトショウが語る『違国日記』ほか

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回は『違国日記』(ヤマシタトモコ/祥伝社)、『パラショッパーズ』(福地翼/小学館)のまったくタイプが異なる2作をピックアップします!

※以下、『違国日記』『パラショッパーズ』の内容に触れる部分があります。未読の方はご注意ください。

『違国日記』が描く「今」の自然なリアリティ

——『違国日記』(ヤマシタトモコ)は「FEEL YOUNG」で2017年から2023年まで連載。2024年に新垣結衣主演で実写映画化され、今年1月からはアニメ版の放送がスタートしたヒット作です。

『違国日記』(ヤマシタトモコ/祥伝社)

 普段はあまり読まないタイプのマンガなんですけど、とにかく内容がめちゃくちゃ良くて。あらすじとしては、30代の女性の小説家(高代槙生)と中学生の姪(田汲朝)が共同生活するお話で。朝の両親が交通事故で亡くなって、そのお葬式で朝が親戚からたらい回しにされそうになってる様子を見た槙生が、勢いで朝を引き取ると言い出して……というような感じ。槙生はもともとコミュ障というか、他人とうまく暮らしていけるタイプじゃないんですよ。いわゆる社会常識には欠けるところがあるんだけど、人として大事なことはすごく分かっているという女性で。もう完結しているので言ってもいいと思うんだけど、最後のほうに槙生が詩を書くんだけど、それが本当に素晴らしくて。泣きそうになりました。

——槙生と朝の関係性がストーリーの軸になるわけですね。

 朝は物語が始まってすぐ高校生になるんですけど、クラスの雰囲気とか同級生たちとの人間関係の描き方がめちゃくちゃリアルで。「こういうこと言ってくるやついるよな」というエピソードもあるし、朝が不用意に発した言葉で相手を傷つけることもあって。学生時代のことを思い出して、心がグラグラしてしまう人もいると思います。

——LGBTQの友達とか、ミックスルーツのクラスメイトも登場するとか。

 それも自然なんですよね。体裁だけ整えた「ゲイの親友がいて、ビッチのアジア系の女がいて」みたいな感じではなくて、「今ってホントにこんな感じだよね」というリアリティがあって。LGBTQの女の子も、ストーリーの途中で「好きな女の子がいる」みたいな話になるんです。そのあと「“なんで彼氏作らないの?”って聞かれて傷ついた」という会話もあるんですけど、その描き方もナチュラルで。一方で朝は、槙生との関係、つまり(家族とは別の)大人の世界にも属していて。その二つの世界を行ったり来たりするのが、『違国日記』の良さなんだろうなと思います。

——槙生にとって朝は、交通事故で死んだ姉の娘ですからね。

 しかも槙生とお姉さんは、かみ合わせが悪かったというか、あまりいい関係ではなかったんです。朝のことは「ほっとけない」と思って引き取ったんだけど、一緒に暮らしていくなかで、朝のなかに姉の片鱗みたいなものが見えたりするんですよ。槙生には「ただ安心させるためだけに“愛してる”と言いたくない」という気持ちもある。実際、朝に“愛してるよ”とか“大事に思ってる”とは言わないんですよ。しかも最初のほうではっきり「あなたと私は別の人間なの」と告げるシーンもあって。1人の人間として扱っているということでもあるんだけど、朝は両親がいきなり亡くなって、砂漠に放り出されたような状態じゃないですか。普段は明るく暮らしてるんだけど、心のなかでは「此処にいていいんだよ」と言ってほしいんですよね。

——確かに朝にとっては辛い状況ですよね。

 そうなんですよね。朝は最初、悲しみがあまり沸いてこないんです。少しずつ「自分だけが不幸だ」と思ったり、勝手に死んだ親が悪いんだと怒ったり。そういう心境の変化の描き方もすごいんですよ。槙生も変わっていくというか、人として成長するんですよ。読者の年齢によって朝に共感したり、槙生に共感したり、いろんな読み方ができるんじゃないかな。俺もあまり人とコミュニケーションを取るのが得意じゃなかったから、グッとくる場面がいろいろありました。こういうタイプのマンガをあまり読まない人にもおすすめです。

『パラショッパーズ』はちょっと前の少年像をイメージしている?

——続いては『パラショッパーズ』(福地翼)。「週刊少年サンデー」で連載中の能力バトルものです。

『パラショッパーズ』(福地翼/小学館)

 福地翼さんの『うえきの法則』は自分よりも少し下くらいが直撃世代で。弟と一緒によく読んでたんですけど、けっこう好きだったんですよ。『パラショッパーズ』にも00年代前半の少年マンガっぽさがあって。ちょっと前の少年像をイメージしているんじゃないかな? という感じもあるし、めっちゃくすぐられますね。

——「パラショップ」という謎のスマホアプリで特殊能力を売買し、それを使って戦うというストーリーも、今っぽいと言えば今っぽいのかなと。

 アプリがきっかけになった物語が進むマンガっていくつかあるんですけど、ちょっとワザとらしくなることが多いんですよ。比較的新しい要素ではあるんだけど、アプリは今や当たり前のものだし、奇抜な目新しさはないので。そこも『パラショッパーズ』は巧いんですよね。気が付いたら主人公(高校生の天良木光定)のスマホにアプリが入ってて、なんだこれ? というところからサラッとストーリーが始まるので。

——主人公の天良木が手にするのは「藁を1本動かす能力」。役に立たなそうな能力なんだけど、どうにか頭を使いながらそれを武器にして戦っていくという。

 公園で拾った木の棒を「これは伝説の剣だ!」って振り回しているような状況ですよね(笑)。1本の藁を分裂させて、何本か同時に使ったりするんだけど、そんなの「1本じゃなくない?」って話じゃないですか。でも、そういう細かいことはどっちでもよくて、「藁1本でこんなすごいことができるんだ?!」というほうが大事なんですよね、このマンガでは。

——これこそ少年マンガ! ですね

 そうそう。ここ数年はカウンターカルチャー的な要素を押し出したり、「これを少年誌でやるんだ?」というマンガがヒットしてますけど、そんな時代にあえて、かつての少年マンガを正面からやってるというか。本当に無邪気だし、すごくいいなと思いますね。裏の裏を読まないといけないマンガ、ときどき疲れるじゃないですか(笑)。『パラショッパーズ』はすごく明るいし、読んでて楽しいので。あと、平成っぽい雰囲気もあるかも。ORANGE RANGEの「イケナイ太陽」が平成ネタ満載のMVでリバイバルヒットしたじゃないですか。今に比べると底抜けに明るい時代だったし、このマンガにもそういう雰囲気があるような気がします。

——ストーリーとしては、いろんな能力を持った敵と戦っていくんですか?

 そうです。「こんな能力があるんだ?」みたいな面白さもあるし、だんだん仲間も出来てくるんですよ。主人公はモノの見方が独特で、他の人の短所を長所として捉えるのが上手いんですよ。なので「お前の能力はここがいい」って褒めたり、「こんな活かし方ができるぞ」と頭脳戦に持ち込んだり。

——励まし合いながら成長するというか。そこも少年マンガですね。

 ただ、どうならまだ明かされていない秘密とか、どんでん返しもありそうで。「もしかして、この世界全体がリアリティ・ショー?」という描写もあるので、今後の展開が楽しみです。

——最後にショウさんも審査に参加している「マンガ大賞2026」のことを少し。今回のノミネート作は『妹は知っている 』(雁木万里/講談社)、『おかえり水平線』(渡部大羊/集英社)、『怪獣を解剖する』(サイトウマド/KADOKAWA)、『サンキューピッチ』(住吉九/集英社)、『邪神の弁当屋さん』(イシコ/講談社)、『「壇蜜」』(清野とおる/講談社)、『友達だった人 絹田みや作品集』(絹田みや/光文社)、『人喰いマンションと大家のメゾン』(田中空・あきま/集英社)、『本なら売るほど』(児島青/KADOKAWA)、『魔男のイチ』(宇佐崎しろ・西修/集英社)、『RIOT』(塚田ゆうた/小学館)、『路傍のフジイ』(鍋倉夫/小学館)※五十音順。ショウさんがこの連載で紹介した『路傍のフジイ』も入ってますね。

 はい。個人的には「2025年といえばコレ」みたいな大ヒット作はなかった気がするんですけど、面白いマンガはたくさんあって。審査もしっかりやらせてもらいます!

『違国日記』を読みながら聞きたい音楽

LOLOET『環境音』

LOLOET『環響音』

 朝と槙生のやり取りの中で、「違う国の人みたいになる」と朝が思う場面が何度もあり、LOLOETのアルバムに流れるムードの中にそれとぴったりくるものがあるように思います。人が1人の人間として他の人と関わる時、別の人同士が互いを知ろうとする時、違う国の人と話すような気持ちになる時がありますよね。

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