「神と人間」「天才と凡人」ーーオカモトショウが『アフターゴッド』と『伍と碁』を読み解く

オカモトショウが『アフターゴッド』を語る

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回取り上げるのは、『アフターゴッド』(江野朱美/小学館)、『伍と碁』(原作:蓮尾トウト、作画:仲里はるな/講談社)の2作。神殺しをテーマにしたポストアポカリプス作品『アフターゴッド』、囲碁の天才たちに挑む高校生を描いた『伍と碁』の魅力を独自の視点で語ります!

独特な神様の捉え方が日本的な『アフターゴッド』

※以下、『アフターゴッド』コミックス9巻までの内容に触れる部分があります。未読の方はご注意ください。

『アフターゴッド』(江野朱美/小学館)

——まずは『アフターゴッド』。「マンガワン」および「裏サンデー」で2021年から連載されています。

 『アフターゴッド』を読んだのは、つい最近なんですよ。今年インスタを始めたんですけど、「好きなマンガは?」と聞いたら、みんながいろいろ送ってくれて、そのなかに『アフターゴッド』があって。「マンガワン」で一気に読んだんですけど、まず、ネット連載の特性がしっかり活かされているなと。展開が早くてずっとドキドキさせられるし、「え、こっちに行くの?」っていい意味で予想を裏切られる感じがあって。単に刺激を与えるだけじゃないし、風呂敷を広げまくってるわけでもなくて、最初の設定自体に伏線が含まれていたり、それが回収されていくのも気持ちよくて。最初からちゃんと構築したうえで連載を始めている気がするのも今っぽいなと思います。昔のマンガって、「その場で考えたんだろうな」という展開もいっぱいあったじゃないですか(笑)。そういう面白さもあるんだけど、最近はきちんと構築されて、戦略を練っている作品が多い印象があるし、『アフターゴッド』もそういうマンガなのかなと。

——『アフターゴッド』は、“神”または“IPO”(Idolatry Prohibited Organism/偶像崇拝禁止生命体の略)と呼ばれる巨大生物によって侵攻された日本が舞台。日本の半分が危険区域になっていて、友達に会うために上京してきた女子高生・神蔵和花と、IPOの対策機関“対神科学研究所”の職員・時永倖行の出会いからストーリーが始まります。

 ポストアポカリプスでファンタジー寄り、若干SFの要素もある、みたいな感じですね。“神”がなぜか日本だけを攻めてきて、研究・対策するための機関があって、そこで働く男と、特殊な力を持った女の子が巻き込まれていく……というのはけっこう普通の展開だったりんするんですよ。ウルトラマンとかもそうですけど、何かの理由ですごい能力を持ってしまったり、すごい力を持った存在にパワーを与えてもらって、国の機関に利用されながら侵略者と戦うストーリーはたくさんあるので。たぶん『アフターゴッド』の作者・江野朱美さんは、あえてありきたりな設定を使って、それをひっくり返そうとしたんじゃないかなと。個人的にグッとくるポイントを挙げると、まずは神の描写ですね。侵略して人間を殺戮している時点で、やってることが悪魔じゃないですか。そういう存在を“神”と呼ぶところが日本っぽいなと。

——悪い神様も遍在している日本的な世界観というか。

 目が合ったら硬直するとか、息を吹きかけられたら水になるっていうのも、神道っぽさがあって。日本の土臭さがちゃんとあるし、海外でもウケそうだなと思います。日本における神様って、みんな普通にお参りに行くし、お供えものとかして「いいことをしてほしい」と思ってるけど、恐ろしい災害とかを起こす神様もいて。要は人の心がぜんぜんわからないのが日本の神様なんだけど、『アフターゴッド』はその感じがすごく出ていると思います。とにかく神が強くて、人間はまったく敵わないんですよ。いろいろ研究して、努力もして“神より強い人間”を探してるんだけど、今のところ可能性がありそうなのは和花だけで。かと思えば、妙に人間っぽいところがあるんですよね。人の身体を使ってる神は「好きなヤツと一緒にいられなくなるのは寂しいから、食べちゃう」みたいな感じもあって。それは神様の正体とも関係しているんですけどね、じつは。

——設定もストーリーもかなり複雑ですよね。

 緻密に作られてますからね。ここはちょっとネタバレになっちゃいますけど、和花のなかにはIPOがいて、時永に取り入ろうとしてたんですよ。時永はじつはタイムリーパーで、時空を行き来していて、その代償として体にダメージを受けていて、それもストーリーの大事な要素になっているんですよね。神の正体はわりと早い段階で明かされるんだけど、古代生物とか人類の歴史も絡んでいて、そこもかなり混みあっていて。バタフライエフェクトみたいな話でもあるし、死生観がめちゃくちゃ深く描かれているのもいいなと思います。さっきも言いましたけど、たぶん全体を構築してから連載を始めてると思うので、この先の展開も楽しみですね。

——独特な作画、バトルシーンの迫力も魅力的ですよね。ショウさんはよく“神の描き方”について言及しますよね。西洋と日本における神の在り方の違いだったり。

 興味があるんですよね。この前、M.I.A(タミル系スリランカ人のアーティスト)のインタビューを聴いてたら、“なぜヒンドゥー教からキリスト教に改宗したのか?”という話をしていて。幼少期はスリランカで暮らして、その後、ロンドンに移り住んで、今はLAで暮らしている人なんですけど、スリランカにいた頃は、多神教のヒンドゥー教がしっくり来ていたと。いろんな神様が混在しているカオスな状態がよかったんだけど、LAにいると“神と悪魔が戦って、どちらも勝てなかった世界が続いている”というキリスト教的な世界観のほうに共感できる、みたいな話をしていて。自分は日本にいるのでよくわからない部分もあるんだけど、さっきも話したように、日本にも独特な神様の捉え方があるじゃないですか。無宗教の国って言われるけど、そんなことはないと思うし。その独特な感じは『アフターゴッド』にも出ているんじゃないかなと。そこまで理屈っぽく考えなくても、展開の面白さでどんどん読めちゃうと思いますけどね(笑)。

『伍と碁』は精神の取り扱い方がテーマ?

『伍と碁』(原作:蓮尾トウト・作画:仲里はるな/講談社)

ーー続いては『伍と碁』。高校生の男子が囲碁の天才たちに挑む物語です。

 世代的に『ヒカルの碁』(原作:ほったゆみ・漫画:小畑健/集英社)がめっちゃ流行ってたんですよ。自分もそうなんですけど、囲碁教室の体験に行ったり(笑)、子どもたちが囲碁にすごく興味を持っていた時期があって。あれから20年くらい経って、また碁のマンガが出てきたんだなという。

——作者も『ヒカルの碁』には影響を受けているみたいですね。

 たぶんそうだと思います。『伍と碁』は始まり方がすごくよくて。何でも器用にこなせるタイプの小学生(主人公・秋山恒星)が、野球でもサッカーでも活躍して「次は囲碁だ」みたいな感じで囲碁クラブに行く。「自分は何でもできる」と思ってるから自信もあるし、しっかり準備や勉強をして臨むんだけど、クラブのメンバーにボロボロに負かされて、自信を失っちゃうんですよ。で、「自分は大したことないんだな」って卑下したような生活を送るんだけど、高校になって、囲碁クラブのメンバーたちがすごい才能を持った人たちだったことに気づいて。「あいつら、天才だったんだ」とわかって、今度は自分の自信を取り戻すために、もう一度挑戦するという、囲碁のことを知ってても知らなくてもグッとのめりこめるし、誰でも楽しめるような構成になっているんですよね。

——小学生のときに負かされた相手と対決していくストーリーもわかりやすいですよね。

 しかもストーリーのテンポが良いんですよね。簡単に言うと、主人公が努力してがんばって強くなっていくんだけど、囲碁のテクニックというより、自分自身の精神の取り扱い方みたいなことがテーマになっていて。自分が歌詞を書いているときも感じるんですけど、テクニックだけではダメなんですよね。もちろんそれも必要なんだけど、自分のこころのなかにある障壁、〈これは自分には出来ない〉〈苦手〉という思い込みやコンプレックスをひとつひとつ超えていかないと望んでいる結果は得られない。『伍と碁』はそういう部分がしっかり描かれているし、どんな人も共感できるんだと思います。主人公が自分の弱点やコンプレックスに立ち向かっていくのもいいんですよ。ヒーロー過ぎないというか、「眩しすぎてイヤだ」みたいな感じではなく、しっかり強い主人公を描くのが上手いなと。

——ショウさんも「すごい奴ばっかりだ」と自信を失った経験ってありますか?

 あんまりないかも(笑)。何でも上手いってことじゃなくて、「これじゃないな」ということもたくさんありましたけどね。小学校高学年になると、「俺はゲームしているだけだけど、みんな週末にスポーツとかやってるらしい」って気づいて(笑)。野球とか水泳とか、一通りやってみたんですよ。箸にも棒にも……という感じではないけど、上手い奴ってどこにでもいるし、飛びぬけて何かが出来たわけではなかったですね。スポーツチャンバラで東京都2位になったことあるけど、あれは競技人口が少なかったからで(笑)。でも、初めてドラムを叩いたときに8ビートを叩けたんですよ。やっぱり音楽が向いてたんだと思いますね。

『アフターゴッド』を読みながら聴きたい曲

ROSALIA『LUX』  スペイン出身のアーティスト。伝統的なフラメンコを学んでいて、オペラ的な歌唱も出来る人なんですけど、新しいアルバム『LUX』はロンドン交響楽団が参加していて、ミュージカルみたいなんですよ。失恋の曲が多いんですけど、信仰や女性の神秘も描いているし、すごいスケールで。13か国語で歌っているのもすごいです。

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