OKAMOTO’Sオカモトショウ連載『月刊オカモトショウ』
ラッパーは生き様が漫画的? オカモトショウ×『スーパースターを唄って。』薄場圭 特別対談

ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回は特別編として、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載中の『スーパースターを唄って。』の作者、薄場圭との対談が実現!

本作のメインキャラクターは、親が残した借金のため、薬の売人を生業としている少年・大路雪人と、彼の親友・益田メイジ。亡くなった雪人の姉・桜子から譲り受けたサンプラーを使ってビートメイクをはじめるメイジ。そして、メイジからもらった曲をきっかけにラッパーへの道を歩み始める雪人……というのが物語の始まりだ。
ヒップホップに対する深い造詣と愛情、あまりにも生々しい貧困と格差の情景に裏打ちされた本作は、芸人の千原ジュニア、漫画家の真造圭伍や堀越耕平、小説家の小川洋子、アーティストのSKY-HIやamazarashiの秋田ひろむ、薄場自身が影響を受けたというANARCHYなどに絶賛され、確実に注目度を高めている。
本作の制作の背景、漫画というアートフォームの魅力、表現を生業にすることなど。両者のフリートークを存分に味わってほしい。
オカモトショウと薄場圭の意外な接点
——薄場さんとショウさんは今日が初対面ですよね?
薄場圭:じつは“初めまして”じゃないんですよ。
オカモトショウ:えっ?
薄場:確かVENT(表参道のクラブ・VENT Tokyo)だったと思うんですけど、お会いしたことがあって。自分はTAPPEIさん(タトゥアーティスト)やHIMAWARIさん(セレクトショップ「カンナビス」オーナー)とかと一緒で。
オカモト:あ、何かのイベントのときだ。そのとき、漫画の話とかしてましたっけ?
薄場:してないです。「弟さんの知り合いで」みたいな話をして。
オカモト:思い出してきた(笑)。僕の弟、ハミーって言ってベース弾いてるんですけど、信じられないくらい顔が広いんですよ。
薄場:知り合いがハミーさんと友達で。誕生日会とかやりました。
ショウ:マジですか? あいつ、やべえな……。ラッパーの友達も多いんですか?
薄場:いや、友達と言えるような関係性の人はあまりいないです。Peterparker69
のY(Y ohtrixpointnever)とかは友達ですけど。
ショウ:Peterparker69、Yとは面識ないけどJeterは知ってる。
薄場:あと、ギロチン(GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE/現代美術家)が大学の同期なんですよ。男子が3〜4人しかいなくて。自分は途中で辞めたんですけど、めっちゃ浮いてました。
ショウ:あ、そうなんだ。
薄場:で、あいつが現代アーティストとしてワーッとなって、「獣」(じゅう)って言うプロジェクトをはじめて。
ショウ:「獣」のイベントもWWW Xで観ました。Peterparker69も出てた。
薄場:そうそう。ギロチンとは普段からつるんでいるわけじゃないんですけど、イベントがあるとたまに呼ばれたり。そういう感じですね。
ショウ:なるほど、理解しました。『スーパースターを唄って。』は手触りがめちゃくちゃリアルですけど、(薄場自身も)そういう場所にいるから描けるんだろうなって。SIMI LABのビジュアルをやってるMA1LLちゃんみたいに、どこかのクルーの一員だったのかなと思ってたんですよ。

薄場:そういう感じではなかったですね。ヒップホップのなかのこともわかってないし、いろいろ人に聞きながら。自分はどっちかというと、スケーターとか。
ショウ:でも、そういうカルチャーを体験しているのはデカい気がする。ヒップホップとかバンドを題材にした漫画って、たまに「全然違う」みたいになっちゃう場合もあるじゃないですか。それはそれで全然いいんだけど、あまりにも違うと「空想が過ぎるぞ」と思うことがあって。映画もそう。クラブのシーンが下手だと、「この監督、クラブで遊んだことないだろうな」と。
薄場:めっちゃわかります。
ショウ:『スーパースターを唄って。』はそれが全然なくて。僕もラッパーの世界をすごく知ってるわけではないけど、匂い立つようなリアルがあるなと思って読ませてもらってます。
薄場:ありがたいです。
『スーパースターを唄って。』を“リアル”と感じる要因は?
ショウ:これはいちファンとして感じてることなんですけど、きついことばかりの日常だとか、仲間との関係を描いて、それを全部持ってライブのシーンにいくのがめっちゃ気持ちよくて。それって、自分が思っているラップのリリックの良さと同じなんですよね。話がどんどん飛んでいくように思えるんだけど、韻を踏みながらつながってて、最後にパッチワークが完成するように大きい輪郭が浮かび上がってくるっていう。それを漫画でやってる感じがする。
——『スーパースターを唄って。』のストーリー自体が、ラップのリリックみたいだと。
ショウ:そうそう。もう一つはヒップホップの現場のヤバさですよね。僕も同級生がKANDYTOWNになったり、ヒップホップ直撃世代だから周りでいろんな話を聞いたりするんだけど、けっこうな修羅場もあるみたいで。それをくぐり抜けて上がっていく感じもすごくリアルだなと。
薄場:めっちゃ漫画的だなと思ってたんですよね、ラッパーは。自分の生い立ちとかもめっちゃ話すし、パーソナリティで勝負している部分が大きいので。1曲の名曲を作るよりも、その人自身がずっと面白いほうが評価されるというか。外から見ているとそういう感じがあったし、不良じゃなかったとしても、どれだけキャラが立ってるかが大事っていう。
ショウ:そうですね。
薄場:しかもそのキャラクターを自分で突き通そうとすると、極論になっていくじゃないですか。それも漫画的だなと。ラッパーって本当に色んな人がいるので。

ショウ:確かに。その人のキャラ自体が作品で、曲はそれを彩るエッセンスみたいな。あと「漫画を読んで漫画を描いてみたい」という人には、『スーパースターを唄って。』みたいな漫画は描けないんじゃないかなと思って。
薄場:あー、確かに。
ショウ:どんな形のアウトプットであっても、『スーパースターを唄って。』の核にあるものを表現したんだろうなと。
作者の考えとは違うことが起こるのも漫画の醍醐味
——表現したいことがあって漫画という手段を選んだのか、先に「漫画を描く」があって題材を選んだのか。ということですか?
ショウ:そうそう。
薄場:もともとの順番だと、たぶん言いたいことが先にあったんだと思います。でも、漫画がいちばん好きだったし、めちゃくちゃ読んでたんですよ。それこそラッパーになるとか音楽をやるとか、やり方はいろいろあったかもしれないけど、自分としては「絶対に漫画だ」と思ってました。自分が言いたいことはたぶん、漫画じゃないと難しいだろうなと。

ショウ:「いつか漫画を描くんだろうな」とどっかで思ってたんですか?
薄場:そうですね。「物語を作るだろうな」というか。
ショウ:自分で物語を生み出しはじめたのは、漫画を描くようになってからですか?
薄場:ずっと自分のなかで想像してたんですよね。自分が生まれ育った場所にはいろんな人がいて、イヤなことが割と多かったんですけど、相手にストーリーを付けて自分を納得させてて。たとえばめっちゃイヤな先生とか。
ショウ:「こいつはこういう育ち方をしたから、こうなってんだな」とか?
薄場:そうです。あと「何か事情がある」とか。なので物語を逃避に使ってたんだと思います。
ショウ:そうなんですね。OKAMOTO'Sもロックオペラをテーマにしたアルバム(「OPERA」)を作ったことがあって。物語を描くのが下手過ぎて、めっちゃ大変だったんですよ。アルバムの出来は大満足なんですけど、物語を作る人ってすげえなって思いました。
——『スーパースターを唄って。』は、すべてのキャラクターの物語が絡み合っていて。一人ひとりの掘り下げ方もすごいなと。
薄場:責任逃れしやすいんですよね。
ショウ:責任逃れ?
薄場:「このキャラが言ってることは、俺の意見じゃない」みたいな。
ショウ:あーなるほど。
薄場:アーティストはそうじゃないからすごいですよね。
ショウ:確かにアーティストの場合、「この歌詞は架空の人のことです」と言ったところで、その人の声で歌えば「この人のことなんだろうな」と思われますからね。

薄場:そうですよね。漫画だったら、自分のアレが乗っちゃったセリフも「自分の意見じゃないんで」と言えるので。キャラ同士が口ゲンカして、全然自分の思いとは違うほうが勝っちゃったりもするし。
ショウ:それも漫画の面白いところですよね。作者の考えとは違うことが起きないとつまらなくなるだろうし。「やべ、こっちに話が進んじゃった!」みたいなことも起こり得ますよね。
薄場:ありますね。(キャラに対して)「すごい感じ悪いな、こいつら」と思ったりもするので。人に対する態度が酷かったり、苛烈だったり。
『スーパースターを唄って。』はヌルっと売れるタイプの作品?
ショウ:ちなみに「こいつ、自分じゃん」というキャラも出てます?
薄場:それはたぶんメイジですね。中学生とか高校くらいのときの自分を今振り返ってみると、「めちゃくちゃ感じが悪いじゃん」というのがあって。まあ、メイジも(漫画のストーリーのなかで)変わっていくと思うんですけど。
ショウ:成長するでしょうからね。
——メイジは寝食を忘れてトラックメイクにのめり込みますが、薄場さんも同じような経験がありますか?
薄場:あんまりないです(笑)。切羽詰まってるときは同じようなマインドかもしれないけど、メイジはずっと“かかってる”から。
ショウ:10代後半だからね。ストレスが原動力になってガンガン進むというか。僕らも10代後半の頃はかかってたというか、ウザかったと思います。「世界を取る」とかじゃなくて、もう世界を取ったと思ってたから(笑)。
——雪人、メイジ、リリーたちのクルーは徐々に注目度を高めていきます。その過程のなかで様々な出来事が起きる、というのが現在の展開ですね。
ショウ:めっちゃ気になります。最新刊の6巻では、デカいフェスに出られそうというところまで来たところで、雪人の過去のことが表沙汰になりかけてて。きっとここから「売れたときの苦悩」も描かれるのかなと勝手に思ってるんですけど、どこまで想定してたりするんですか?

薄場:たぶん折り返しぐらいだと思います。当初は6巻で終わらせる予定だったから、この先もどうなるかわかないんですけど。
ショウ:初連載だから、余計にわかんないですよね。
薄場:そうですね。あと、本来なら1、2巻でめちゃくちゃ売れると思ってたんですよ。「そしたら主人公が売れた話も描けるな」と思ってたんですけど、漫画が思ったほど売れなくて。
ショウ:「想定よりは」ってことですね(笑)。
薄場:いろんな人から「お前の場合、売れるとしてもバーン!とはいかない。ヌルッと売れるから」って言われて。スターになった人の気持ちはわからないけど、なかなか売れなくて焦る感じはわかる気がします。
ショウ:確かに雪人って、エミネムみたいに一気に有名になれる可能性もあったと思うんだけど、そうじゃないですからね。
漫画は「めちゃくちゃカッコいいことやってるのに食えてない」という人がいない
——「漫画をヒットさせるために、こうしたほうがいいんじゃないか?」ということも考えますか?
薄場:それはたぶん、わりとやってると思います。
ショウ:自分のなかで「これはドカン!でしょう」という感じで。
薄場:ですね。漫画って、他の媒体よりもそれが受け入れられやすいと思ってるんですよ。漫画ばっかり読んでる高校生みたいな意見ですけど、面白くなくて売れてる漫画があったとしても、めちゃくちゃ面白いのに売れてない漫画をあまり見たことがなくて。
ショウ:わかる。それはたぶん、日本だからだと思う。
薄場:そうですよね。
ショウ:そもそも漫画は日本発祥だし、批評性というか、審美眼みたいなものも読者に行き届いていて。面白いものは絶対に届くし、売れるんですよね。

薄場:少なくとも漫画で生活できるところまでは絶対にいけるんですよ。音楽の友達とか、他のことをやってる人と話をしていると、「めちゃくちゃカッコいいことやってるのに食えてない」という人がめっちゃいて。漫画はそういう人がいないから、ある意味、異常な世界だなと思います。たまに若手の漫画家で集まったりするんですけど、「売れるために描いてねえから」みたいな奴も、好きな漫画が『ピンポン』(松本大洋/小学館)だったりするんですよ。めっちゃ売れてるやんって(笑)。
ショウ:(笑)。音楽で例えたらスピッツ級だよね。教科書にも載ってるみたいな。
薄場:そうなんですよ。これは極論で暴論ですけど、「おまえが売れてないのは、『ピンポン』みたいな漫画を描いてないからで、全部おまえのせい」という話にもなるんですよね。どれだけ自分で「カッコいい漫画を描いてる」と思ってても、『ピンポン』のカッコよさには至ってないわけで。
ショウ:売れるためのマニュアルみたいなものをやらなくても、カッコいい漫画だったら売れるっていう。
薄場:だから自分が面白いと思ってるものだけを描こうと思ってます。そうすれば生活はできるはずだという仮説を立ててるんですけど、もしかしたら3年後くらいに「間違ってたな」と思ってるかもしれない(笑)。
ショウ:イヤイヤ(笑)。夢があるメディアだと思いますよ、漫画は。
6巻では描きたかったことが描けた
ーー最新刊の6巻もさらにエモーショナルな展開になっています。
薄場:自分も気に入ってます。描きたかったことが描けた感じがあるんですよね。雪人がコージーに詰められるところとか。
ショウ:すごくよかったです。コージーと雪人は境遇が似ていて、そこもグッとくるんですよね。クルーが話し合う場面もリアルで。
薄場:お互いが主張し合って、何も解決せずに霧散するみたいな状況、わりと好きですね。結論を出すことにビビってるのかもしれないけど。

ショウ:実際、そうですからね。バンドでもそうだけど、みんながやりたいと思ってても、上手くかみ合わなくて何も進まないこともあるし。あと、巻末にあるエッセイ(「あの日、小川洋子先生の作品を読んで」)もすごくいい。
薄場:小川先生の小説、ヘンな人がいっぱい出てくるんですよ。というかほぼヤバい奴しか出てこないんですけど、「こいつはこうだから」みたいなことは何もなく、ただ目の前を通っていく感じがあって。大阪にいたとき、学校がめっちゃ苦手だったし、勉強もダメで。家ない系のおじさんたちもめっちゃいたんですけど、「自分もああなる」って確信してたんですよ。小川先生の小説を読むと、本当に人に対してフラットだから、どういう状態になっても悲観しないで済むような気がしていたんですよね。
ショウ:僕も中島らもの小説を読んで、同じようなことを思いました。大人になると「この人、よくここまで生きてきたな」というヤバい人に会ったりするけど、学生のときはそんな人知らないし、「まともに学校とか行ってる奴以外は、社会から落ちていくだけ」としか思えないからね。
——『スーパースターを唄って。』に出てくる人たちも、一般的な社会の規範からはかなり外れてますからね。今後の展開もめちゃくちゃ楽しみです。
薄場:1巻で、いろいろなところに行きながら、最終的にカッコいいライブに着地するという感じで描いて。あれは「全体を通して、こういう感じですよ」というメッセージでもあったんですよ。めちゃくちゃ寄り道しながら、最後はでっかいところに向かうつもりで描いているので。
ショウ:やっぱり雪人とメイジがどうなるかがいちばん気になるところですね。サクセスするにしても、どういう形なのか。とにかく本当に面白いので、今日話せてめっちゃうれしいし、みんなに読んでほしい。日本で一番売れてる漫画になったらいいと思います。
薄場:ありがとうございます。自分も金持ちになりたくて漫画描いているんで。
ショウ:最高です。ラッパーのマインドですね。
薄場:それが言える業種だから、言ってかなきゃダメだなって。さっきも言いましたけど、カッコよければ売れるので。自分の思想とかを曲げずに金持ちになれる、一番の職業じゃないかなと。尾田栄一郎先生だって、何かに寄せてる感じしないじゃないですか。
ショウ:まったくしない。めちゃくちゃ自分を出してますよね。
薄場:『ONE PIECE』ってかなり異質な漫画ですからね。
ショウ:そもそもルフィがめちゃくちゃだから(笑)。でも何か惹かれるっていう。
薄場:そうですよね。
ショウ:じゃあお互いに売れてお金持ちになったら、また対談しましょう(笑)。























