オカモトショウがジョン・レノンを聞きながら読みたい漫画は? 『図書館の大魔術師』「BLUE GIANT」を語り尽くす

ジョン・レノンを聞きながら読みたい漫画は

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。

 今回取り上げるのは、“異世界×ビブリオファンタジー”の『図書館の大魔術師』(泉光/講談社)、ジャズ漫画の金字塔と名高い「BLUE GIANT」シリーズ(石塚真一/小学館)※。普段以上にエモーショナルな“マンガ愛”に溢れたショウのトークをお楽しみください!
※第2部『BLUE GIANT SUPREME』の連載途中より、NUMBER 8も「story director」もしくは「story」としてクレジットされている。

『図書館の大魔術師』には「物語で一つになろうよ」というメッセージが込められている

——『図書館の大魔術師』は、本をテーマにしたファンタジー作品。「マンガ大賞2025」のノミネート作品ですが、ショウさんは審査の段階でこのマンガと出会ったとか。

『図書館の大魔術師』(泉光/講談社)

 そうなんですよ。「ファンタジーは好きじゃない」みたいな方もいらっしゃると思うし、『図書館の大魔術師』の表紙を見て「自分には合わないかもな」という人もいるかもしれないけど、そんな人たちにも絶対に読んでほしくて。ジャンルの壁を余裕で超えてくるマンガだし、ファンタジーという仕掛けを使って、今、この世の中に必要なメッセージを送り届けてくれる作品だと思っているし、音楽を作っている立場としても「ここまで熱い想いを持って表現できたらいいな」と感じていますね。

——おお! すごい評価ですね。

 本当にいいマンガだと思います。ファンタジーなので実際の歴史とは全然違うんだけど、設定がしっかり作り込まれていて、自分たちが生きている世界とすごくリンクしているんですよ。基本的な世界観としては、戦乱の時代を経て、一応、平和が訪れていて。そのなかで「これは現実の中東の話みたいだな」とか、「日本に近い文化を持っている人たちなのかな」みたいなことが描かれているし、自分事としてかなりリアルに読めるんですよね。大国と大国に挟まれてるんだけど、キャスティングボートを握っている国家が出てきたり、「これってアレじゃない?」とどんどん考察できるのがすごく面白い。

——話を聞くだけでワクワクしてきますね……。

 そうでしょ? そのなかで図書館が大事な役割を果たしているんです。貸し出している本は検閲されていて、それが正義の力として働いているんですよ。物語というのは、太古の時代からいろんな種族の人たちが書き残してきたわけじゃないですか。そこには歴史や文化が書かれてるんだけど、もちろん立場によって捉え方は違うし、物語を通して、他の種族を羨んだり、蔑むこともあって。でも、いろいろな物語をポジティブに共有できれば、自分たちとは違う立場の人たちの気持ちを知ることができるし、違いを乗り越えることもできるかもしれない。マンガのなかで、あるキャラクターにこう言わせているんですよ。「最初の書は人が作ったかもしれない。けれどすぐにその立場は逆になった。書が人を造り、書が世界を創っているんだ。」と。

——作者の歴史観や物語に対する思いが込められたセリフですね。

 このマンガの物語は、もちろん作者の方が作ってるわけですけど、ご本人が物語の力というのものを信じているんですよね。それは本当にすごいことだし、今の時代に必要なことかもしれないなと思います。今って、世界中で分断が進んでるじゃないですか。もっと良くしたいという気持ちより、それぞれの不満みたいなものが強くて、どんどん亀裂が大きくなってる。そういう時代だからこそ、『図書館の大魔術師』から感じられる、物語で一つになろうよというメッセージはめちゃくちゃいいなって。本当に深いテーマだし、読むたびに泣きそうになってます。

——主人公は、耳が長いという身体的な特徴によってイジめられていて、貧しくて村の図書館を使うことができない、本好きな少年・シオ=フミス。ある日、差別が存在しない本の都・アフツァックの図書館で働く司書と出会い……というのが冒頭のストーリーです。

 主人公は異端の種族の出身で、見た目が回りと少し違うから、ちょっと仲間外れにされていて。そのなかで救われる瞬間というのが、図書館で本を読むことなんです。なかなか入れてもらえなかったりするんですけど、逆にこっそり入れてくれる人もいて、そのうちに「図書館を守る人になりたい」と思うようになる。このマンガのなかで司書は女性がなる職業で、男の子が目指すのは珍しいんですよ。しかも試験が難しくて狭き門だから、女性たちから「なんで女の仕事を取ろうとするのか?」みたいなことを言われたり。

——昨今のジェンダー差別につながる話ですね、それは。

 そうなんですよ。ちょっと大きい話になっちゃうけど、生まれ育つ環境は人によって違うし、ぜんぜん平等ではなくて。生まれてきた国だったり、貧しい家なのか裕福な家なのかによって、得られる自由がまったく違うんですよ。そういう問題に対する理解もめっちゃ深いんですよ、このマンガは。主人公もある意味、虐げられているんだけど、ぜんぜんめげないんですよ。苦しい思いをしてきたのは事実なんだけど、“お互いを知れば、いがみ合う必要はなくなる”と強く思っていて。痛みを知っている人が、他の人の痛みに対して温かく接する姿を描いてくれると、やっぱり勇気をもらえますね。人には優しく接したほうがいいよねって、小学校の道徳みたいなレベルですけど(笑)、大事なことなんで。

——ストーリー的なダイナミズムもあるんでしょうか?

 すごくありますね。戦火を退けて世界を守った7人の大魔術師がいるんですけど、それから100年近くが経って、1人、また1人と死んでいなくなってしまう。つまり、「当時、何があったか」を知る人が少なくなり、後継者のなかでも派閥争いがあって、このままだとまた争いが生まれてしまうという状況で。それもまさに“戦後80年”という今の日本と重なりますよね。

——確かに……。

 「そのとき何があったか?」を経験した人が少なくなって、だんだん危うさが増して。そこにも作者の意図を感じます。あとね、表現の仕方がすごくフラットなんですよ。「そんなところまで触れるの?」というくらい深いんだけど、いろんな立場の人の気持ちがリアルに表現されているし、どこにも加担してないというか。だからこそ「いちばん必要なのはみんなで話し合うことだよね」というところに集約されるし、そのためにも物語が大事だというところに着地できるんだと思います。最初にも言いましたけど、ファンタジーが好きじゃない人にこそ読んでほしいマンガですね!

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