『トワイライト・ウォリアーズ』なぜ日本でもヒット? 原作『九龍城砦Ⅰ 囲城』に漂う”ヤンキー漫画”の香り

2024年に制作され広東語映画作品としてNO.1大ヒットを記録した香港映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』。かつて香港に実在した巨大スラム街、九龍城砦を舞台に裏社会の勢力争いが描いた本映画は、2025年1月に日本でも公開され話題となった。
その原作となったのが、『九龍城砦Ⅰ 囲城』(早川書房)である。作家・余兒(ユーイー)が2008年に刊行した、長編小説デビュー作《九龍城砦》シリーズの開幕篇。『北斗の拳』や『SLAM DUNK』などの少年漫画に育てられたという著者の筆致は、戦闘、友情、恋、そして熱々の飯の描写に至るまで、“あの頃”夢中になったマンガの世界そのもの。
効果音や雄叫びが並ぶテンポの良い文体が、まるで漫画を読むような臨場感を生み出している。1980年代の香港を舞台にしたこの物語が、日本の読者の心を掴むのも、ある意味で必然だったのかもしれない。
陳洛軍(チャン・ロッグワン)は、仲間のピンチに駆けつけ、借金を肩代わりする。まさに人情に厚く義に生きる男である。しかし、ある日、仲間であったはずの〈暴力團〉の組長・大ボスから突然命を狙われてしまう。
家族や仲間を傷つけられた洛軍は、復讐を胸に秘め、大ボスですら手を出せない街──九龍城砦へと足を踏み入れ、過酷な修練の日々に身を投じることになる。
物語の舞台となった九龍城砦はかつて、行政の目も届かず、数万人がひしめき合いながら独自の生活圏を築いていた“要塞都市”。医療、飲食、賭博、そしてあらゆる闇ビジネスが入り乱れ、一種の自治国家のような存在であった。1990年代に解体されたものの、香港社会の変遷を体現した都市として今なお人々の記憶に深く刻まれている。
本作に描かれる九龍城砦は、1960年代の最盛期を過ぎ、賭博以外の違法ビジネスはほぼ姿を消しているが、それでもかつてのイメージは払拭されることなく黒社会の人々が暮らす要塞都市として畏れられる場所だ。そこで暮らす人びとは〈龍城幇〉の頭目・龍捲風(ロンギュンフォン)を中心に、かつてと変わらぬ独自の秩序を保っている。解体される日が近づいていることを知る警察は九龍城砦で起こっている争いには関与しようとすることもない。
(*「幇」の字は正しくは封に白に巾)
解体前から何度も目にし、リサーチを重ねたという余兒の描く九龍城砦は非常に詳細で、そこで暮らす人々の生活が生き生きと描かれている。
〈ダン──ダン──ダンッ──〉
カンフーを駆使して街中や賭博場で繰り広げられる洛軍たちの戦いは、香港アクション映画の迫力そのもの。一方で、暴力の中に垣間見える仲間との絆、修練によって強くなっていく姿、そして少し甘酸っぱい恋の行方など、どこか“ヤンキー漫画”のような懐かしさも漂わせる。
大ボスとの戦いに備えてランニングをする洛軍と仲間たち。ラジカセからは『ロッキーのテーマ』が流れ、名作映画のワンシーンが再現される。九龍城砦のいただきまで走り切った洛軍は拳を高く振り上げる。
洛軍とともに大ボスと戦うことになる仲間たちは、ただ旅先でであった犬や猿、雉のような存在ではない。全員に強い信念があり、義心がある。
信一(ソンヤッ)、十二少(サップイーシウ)、四仔(セイジャイ)、吉祥(ガッチョン)。家族のように硬い絆で結ばれる仲間たちとの出会いや、最強のボスを倒すために修練を積む物語は、ある意味では想定内の展開ではあるものの、それが私たちの求めいている成長物語そのものである気持ちの良さとも言えるだろう。
シリーズはこの後、第2部『龍頭』(2018)、第3部『終章』(2024)、外伝『信一傳』(2025)と続き、さらに日本でも『龍頭』の刊行が決定している。洛軍と仲間たちの物語は、これからどこへ向かうのか。今後の展開からも目が離せない。
【画像】『トワイライト・ウォリアーズ』 人気漫画家たちが描いたファンアート






















