爆死する力士、頭のない前頭、伝説の黒力士……“あらすじ”だけで話題騒然『大相撲殺人事件』はただの奇書ではない?

先日、とある小説のあらすじがX(旧Twitter)上で話題となっていた。いわく、この内容である。
「ひょんなことから相撲部屋に入門したアメリカの青年マークは、将来有望な力士としてデビュー。しかし、彼を待っていたのは角界に吹き荒れる殺戮の嵐だった! 立ち合いの瞬間、爆死する力士、頭のない前頭、密室状態の土俵で殺された行司……本格ミステリと相撲、その伝統と格式が奇跡的に融合した伝説の奇書」
どうだろうか。面白そうすぎないだろうか。今回バズった他、過去に何度かSNSで話題となったこともあるこの連続短編集こそが、小森健太朗の『大相撲殺人事件』である。
恐ろしいことに、この小説のあらすじは全く嘘やホラではない。狂言回しとして登場するのは、日本の大学に入学しようとして来日したアメリカ人青年のマーク・ハイダウェー。彼は「センダイガク」とも読める千代楽部屋を日本の大学と勘違いし、間違えて入門してしまう。暁大陸という大関こそ一人いるものの、それ以外の力士は伸び悩んで経済的に苦しい千代楽部屋は、体格のいいマークを手放さず、彼はそのまま千代楽部屋の力士として修行を進めることになってしまう。
一方で、千代楽部屋は過去のある事件が原因でとある力士とその家族から恨みを買っており、暁大陸宛の殺害予告が届く。そんなことも知らず、国技館での取り組みに臨んだ暁大陸。しかし相手力士と暁大陸が土俵で組み合った瞬間、土俵の上で大爆発が発生! この爆発事件をきっかけに、千代楽部屋の力士たち、そしてマークと千代楽親方の娘である聡子は、角界を揺るがす殺人事件の数々に巻き込まれていく……。
インターネットのオタクが適当に書いたヨタ話ではなく、作者の小森氏は史上最年少の16歳で第28回江戸川乱歩賞最終候補作に残り、1989年に東京大学文学部哲学科を卒業。2008年には『探偵小説の論理学』で第8回本格ミステリ大賞評論・研究部門賞をとったという、この道30年のベテランミステリ作家である。そんな人物が書いているだけあって、実は本作は短編一本ごとにちゃんとミステリの定番的趣向を押さえている。
導入があり、不可解な事件が起こり、トリックがあり、探偵役がそれを解き、真犯人が明らかになる……。そういった一連の段取りが、「ちゃんとしすぎてません?」と思うくらいちゃんとしているのが、『大相撲殺人事件』の特徴だ。ちょっと違うのは、全要素に相撲が関係していることだけである。力士同士が立ち合いでぶつかった瞬間に爆発するし、殺人が行われた密室は相撲部屋の風呂場だし、土俵の上で行事が死んだりするところがちょっと異常なだけで、それ以外は本格ミステリのフォームを驚くほどきっちりなぞっている。





















