超能力を持つ一族の戦前から現代へと至る歴史を活写するーー実石沙枝子『扇谷家の不思議な家じまい』評

ちなみに恵美子を主人公にしたパートは、1986年5月という時間軸に注目する必要がある。というのもその一ヶ月前の4月に、男女機会均等法が施行されているのだ。扇谷家の金の力によって恋人は去り、望まない結婚を強いられる。この時代設定により、一族のために個人の自由を押し潰す一族の在り方が、鮮やかに表現されているのだ。また、立夏のパートでは、ちょっと嫌な人物に見えた恵美子の印象が、この話によって変わっていく。多角的な人物の描き方も、本書の魅力になっているのだ。
その他にも、同性の友人とその娘と三人暮らしをしている、時子の孫で同じ予言の能力を美雲など、さまざまな人物の生き方が、それぞれのパートで示される。時子の発言の真相と、立夏と話す死者の正体は、早い段階で明らかにされるが、物語への興味が減じることはない。明治から始まった扇谷一族の歴史は、時子の死や屋敷の寄付によって、大きな節目を迎える。まさに一族の〝家じまい〟である。だが、家じまいをした後も、人々は生きていき、一族の血は続くのだ。ひとつの時代の終わりは、新たな時代の始まり。一抹の切なさを湛えながら、未来へと開かれたラストに、清々しい気持ちになるのである。

























