杉江松恋の新鋭作家ハンティング 暴走族が自慢する「ガチで半端ねえ機械」とは? 天沢時生『すべての原付の光』

言葉が叩きつけられる感じは「すべての原付の光」よりも増している。物事はすべて突然現れ、重大な事件を引き起こす。突然の出来事ゆえ読者は一瞬何が起きたのかわからずに戸惑うだろう。その時に生じる心の隙が真空状態を引き起こし、イメージの絶え間ない流通を促す。スタッカート演奏のような切れ切れの形で文章が綴られるのでテンポのなせる業かと錯覚しそうになるが、既存の言葉を単に切り刻んだだけではこうはいかない。言葉の欠落をわざと作り出し、読者の想像力を加速装置に利用しているのだ。作者に操られるようにページを繰ってしまう。
この二篇だけで十分読むに値するのでぜひお読みいただきたい。2018年発表の2作と天沢時生名義になってからの作品とでは言葉の切れもかなり違うので、一冊の中で比較してみることもお薦めする。おそらくは今でもまだ変化、進化の過程にある書き手であり、次に出会ったときはどんなことになっているのか想像もつかない。もしかすると無茶苦茶重厚な文章をぶつけられるかもしれない。何が来ようと大歓迎である。
SF的にはもっと説明のしようがあると思うのだが、門外漢ゆえあえて表現のありようのみに着目して紹介させてもらった。SFファン以外の読者、ストレンジ・フィクションのファンにもぜひお薦めしたい。小説って変なことができるんだなあ、と感心してもらいたいのだ。























