『無気力探偵』「小市民」シリーズ『その意図は見えなくて』……高校生が主役のミステリ×青春小説3選

『無気力探偵』他、青春ミステリ小説3選

もう二度と名探偵面はしないと決めたはずが……!?「小市民」シリーズ (創元推理文庫)

『春期限定いちごタルト事件』(米澤穂信/創元推理文庫)

 進んで推理はしないスタンスだが、いざ謎を目の前にすると……? という探偵役といえば、アニメ第2期が絶賛放送中の米澤穂信「小市民」シリーズの小鳩君を連想した人も多いはず。

 「小市民」シリーズは、かつて名探偵として推理力を披露したことで苦い経験をした小鳩君が、彼と似たような経験を持つ小佐内さんと互恵関係を結び、共に清く慎ましい小市民をめざす物語だ。二人の身の回りでは頻繁に謎が起こり、もう二度と名探偵面などしたくないはずの小鳩君は謎を解く必要性に見舞われてしまう。謎を解きたがる小鳩君を白い目で見る小佐内さんだが、大の甘党である彼女も内なる自分を完全に抑えられているかというと、案外そうでもなく……。

 1巻の『春期限定いちごタルト事件』が出たのは2004年のことだが、この物語に出会ったときの新鮮な驚きを忘れられない読者も多いだろう。小鳩君と小佐内さんの互恵関係と、二人の願望と本性とがせめぎあう揺らぎが実にユニークな「小市民」シリーズは、唯一無二の面白さで多くの読者を魅了し続けている。

 小佐内さんが溺愛するスイーツがおいしそうであればあるほど、青春のほろ苦さと「黒歴史」持ちの二人の本性が持つ苛烈さが引き立つように感じられるのも癖になるポイントだ。

 もし未読なら、試しに一冊だけ読んでみてほしい。そうすれば、一度ハマると抜け出せない魅力を持つ「小市民」シリーズにあっという間に引き込まれてしまうはず。

推理の先にあるビターさが尾を引く青春群像劇『その意図は見えなくて』(双葉文庫)

『その意図は見えなくて』(藤つかさ/双葉文庫)

 最後に、藤つかさ『その意図は見えなくて』を紹介したい。

 『無気力探偵』と同じく著者のデビュー作である本作は、とある高校を舞台にした連作短編集だ。生徒会長選挙で不自然に多い白票、何者かに荒らされた陸上部の部室、部活の合宿から成績の悪い生徒が消えた理由、トイレに捨てられたキーホルダー、文化祭実行委員会室から消えたパンフレット……。いずれも日常に起こる謎がどこかビターな味わいなのは、本作が推理の先にある人間関係や感情にフォーカスされているからだ。

 ミステリでは探偵役が事件を解決すれば物語が収束することが多いが、現実ではそうもいかない。推理で真相は導き出せても、必ずしも問題が解決するわけではないこともある。本作は、高校生たちの現実が推理の先にも続いていくことを忘れようとはしない。

 解決というよりは「落としどころ」を探っていくスタイルのミステリは、推理の先で変わる人間関係や揺らぐ人の感情を鬱屈を持て余した自意識のひりつき、特別ではない自分を知っているからこそ特別と見做した存在に感じる眩しさを生々しく描き出す。

 『その意図は見えなくて』は、きらきらとして輝かしいばかりでないからこそ青春のほろ苦さや痛みがもたらす余韻が光る、忘れがたい青春ミステリだ。本書が面白かった人は、同じ高校の文化祭を描いた『まだ終わらないで、文化祭』も続けて読むことをおすすめしたい。

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