ハリポタ×進撃の巨人? 2025年本屋大賞の翻訳部門大賞『フォース・ウィング』が圧倒的に支持される理由

『フォース・ウィング』が支持される理由

 そこに絡んでくるロマンスの要素が、ヴァイオレットと同じくらいか少し下の年齢層にある読者の心をかきたてる。ヴァイオレットの幼なじみで学年は1つ上の2年生、性格は優しく正義感にも溢れているディン・エートスが一方に立ち、ナヴァールに対して反乱を起こして処刑された指導者の子どもで、ヴァイオレットの母親も含むナヴァールの軍人に恨みを抱いていそうな3年生のゼイデン・リオーソンが対極に立つ。ディンが王子様でゼイデンが悪党といった立ち位置だが、そこに様々な思惑が混ざって変化が生じ、ヴァイオレットの心も揺れ動く。一筋縄にいかないロマンスが読者をドキドキハラハラさせて、行く末を見届けたいという気にさせるのだ。

 竜との絆を深くし、自分に対する悪意にも立ち向かい、恋もしながら成長していくヴァイオレットの境遇が、巻末で激変してしまうところも意外で異例で、1度掴んだファンの関心を離さない。驚きとしか言い様がない展開が繰り出された先、4月23日に刊行される待望の続編『フォース・ウィング2 ―鉄炎の竜たち―(上・下)』(原島文世訳、早川書房)はいったいどのような物語になるのかが見えず、激しく関心を誘われる。早川書房のサイトによれば、ヴァイオレットは2年生になり、3年生だったゼイデンは前線に派遣されることにあるという。

 そして、「仲間にも大きな秘密を抱えて悩む彼女を待ち受ける試練の数々……。彼女の選択に大陸全体の運命がかかっていた!」とあって、『第四竜騎団の戦姫』の巻末に繰り出された状況が続いていることが示唆されている。訓練が続くだけでなく深まる策謀があり、ロマンスもあって生き死にがかかったスリリングな戦いもあって楽しませてくれそうだ。

 ヴァイオレットという女性が自分で道を切り開く強さを描いたストーリーが引きつけた女性の読者に加え、大ヒットドラマとなった『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作で、ジョージ・R・R・マーティンが書いた『氷と炎の歌』シリーズが持つような竜の物語もあって、ファンタジー好きの男性読者も引きつけそう。そんな『鉄炎の竜たち』の刊行で、本格的な『フォース・ウィング』ブームが日本を席巻しそうだ。

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