『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』庵野秀明がやりたかったことは? 初期プロットから読み解くifの物語

※本稿は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』入場者プレゼント第8弾のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
公開から52日間で興収30億円突破、観客動員数が200万人に迫ろうとしている『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』。その入場者プレゼント第8弾「『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』 ANNO SCENARIO & DESIGN WORKS 2」が、15日から配布されている。
「ANNO SCENARIO & DESIGN WORKS 2」は、本作の冊子型特典第二弾。A4・24ページで、庵野秀明が作成した『Biginning』前半パートの初期プロットおよびブラッシュアップ版の脚本、そしてメカの設定原案やキャラクターのデザインが収録された、豪華な内容となっている。
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キーになるのは『機動戦士ガンダム』からのパロディ要素
ということで、自分も15日の初回上映でもらってきた。やはり注目すべきは、庵野秀明による初期プロットと第二次ソロモン戦に関して内容を膨らませたブラッシュアップ版脚本だろう。基本的に「サイド7にシャアが突入しガンダムを強奪、一年戦争の流れが大きく変わる」「連邦はルナツーを囮にしてグラナダへソロモンを落とそうとするが、シャアの部隊が殴り込みをかけ、最後はシャアが行方不明になる」という大筋は上映されたものと共通しているが、それ以外の細部がかなり異なる。
初期プロットと上映された本編を見比べてまず気がつくのは、本編の方が圧倒的にテンポがよくなっているところである。初期プロットでは、シャアはあくまで偵察を目的にサイド7に侵入、ガンダムの鹵獲を試みてから戦闘という流れだ。しかし完成した本編ではまず連邦のモビルスーツの破壊にかかり、ガンダムの鹵獲にかかるのはその後。これによって「ガンダム捕獲RTA」的なスピード感が生まれており、『GQuuuuuuX』版シャアの異常な思い切りの良さと行動の速さが印象づけられている。
また、初期プロットではドズルが早い段階で登場し、地球で駆け落ちし行方不明になっているガルマの捜索をシャアに頼み込むシーンもある。本編ではガルマについては「軍を離れている」とセリフのみで説明されており、ここまでみっちりした説明はなかった。さらにギレンによるモビルアーマーの増産命令や、ソロモンで「悲しいけどこれ、戦争なのよね」の名ゼリフをちゃんと口にするスレッガー中尉、鹵獲されたガンダムを連邦が破壊する決断をした際に無線で繰り返される「ガンダム破壊命令」のセリフなど、本筋に関係が薄い枝葉の部分や、元ネタの『機動戦士ガンダム』を意識した部分が多い。
このあたりは本編ではばっさりと刈り込まれており、シャアを軸にしたシャリア・ブルに関する描写や、シャアとニュータイプに関する説明に軸足が移されたことがわかる。初期プロットから何を削り、上映された『Beginning』で何を増やしたのかを見ると、『GQuuuuuuX』がやりたいのは「パラレルな『機動戦士ガンダム』の物語を語る」ことではなく、あくまで「ニュータイプに関する物語」であることが見えてくる。
第二次ソロモン戦に関するブラッシュアップ版脚本も、上映されたバージョンとはかなり異なる内容だ。特に「こ、これは映像で見たかった……」という気持ちになったのが、ソドンおよびキャメル艦隊がソロモンへと突入していくくだりである。本編では各艦が陣形を組んで突入していったが、ブラッシュアップ版脚本では3隻のムサイがソドンの後方でデルタ状に連結。ブースターとしてソドンを加速させることで、グラナダへのソロモン落下前に突入するというプランが描かれている。なにそれ。めちゃくちゃかっこいい……!
もうひとつ「こ、これは見たかった……」となったのが、シャアの艦隊の突入を防ぐためにペガサス級2番艦「ホワイトベース」が攻撃を仕掛け、ソドンとホワイトベースというペガサス級同士の戦闘が行われるというくだりである。最終決戦のど真ん中での同型艦による激戦……。み、見たかった……。
さらに突入したソロモン内部で、シャアのガンダムがセイラさんの乗ったトリコロールの軽キャノンと戦い、限界阻止点を超えたソロモンの内部でシャアが自爆してグラナダを救おうとするという、本編には全く存在しなかったシーンも書かれている。宇宙要塞内でのシャアとガンダムの直接対決が盛り込まれているあたりからは、『機動戦士ガンダム』最終話「脱出」のパロディをやりたかったという意図も感じる。