『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』で再注目 45年前の小説版『機動戦士ガンダム』で描かれた驚きの展開とは?

小説版『機動戦士ガンダム』は何を描いた?

 『機動戦士ガンダム』シリーズに連なる最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の放送が決まり、劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』も公開されて、ガンダムファンもそうでない人も興奮のまっただ中にいる。2022年に登場した完全新作の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』とはまた違った驚きが繰り出されたからで、そこからシリーズの生みの親、富野由悠季監督が執筆した小説版『機動戦士ガンダム』に熱い注目が集まっている。なぜか?

TVアニメとは違うストーリーを歩んだ、小説版『機動戦士ガンダム』

 1979年11月から1981年3月にかけ、ソノラマ文庫から全3巻で刊行された小説版『機動戦士ガンダム』は、ネットが存在せずアニメの情報には雑誌くらいでしか触れられなかった状況で、作品に迫れる最重要アイテムだった。1979年4月から1980年1月まで放送されたTVアニメの人気が、ジワジワと広がっていたこともあり、物語を確かめたり追体験したりするために、手に取る人も多かった。

 第1巻は特に、美形で美声のキャラと評判のシャア・アズナブルが表紙に描かれていて、グッズとしての役割も果たしていた。『ガンダム』でキャラクターデザインなどを務めた安彦良和が表紙やイラストを描いていた高千穂遙の『クラッシャージョウ』シリーズと並んで、ソノラマ文庫の看板になっていた。

 そんな小説版の第1巻を読み始めて、「おや」と首をかしげたTVアニメのファンもきっと多かっただろう。以下は、角川スニーカー文庫で再刊された小説版からの引用だが、冒頭でいきなり「アムロ・レイ曹長、シアン・クランク曹長、ハヤト・コバヤシ曹長の三機のコア・ファイターが出た」といった描写が登場する。直前にはリュウ・ホセイ曹長、カイ・シデン曹長といった名前も見える。

 アムロもカイもハヤトも最初から軍人だったのだ。TVアニメでは、サイド7をシャア・アズナブルの部隊に襲撃され、混乱の中でハヤトやカイは入港していたホワイトベースに逃げ込み、アムロも、偶然に乗り込むことになって動かすことができたガンダムともどもホワイトベースに搭乗する。そのままガンダムを一番うまく扱えるパイロットとして活躍し、ニュータイプとして覚醒し、戦績をあげてジオンを降伏にまで追い込んでいく。

 まったくのシロウトだった少年が最先端のメカをいきなり動かし、宇宙規模の戦争の行方を決定づけてしまう展開はヒーロー好きの心をくすぐるが、現実的かと言われると難しい。アムロが元から軍人として搭乗したのは、乗り込むまでの流れに説得力を持たせて、リアリティの水準を上げようとしたからなのかもしれない。

 シャアの襲撃をかわしてサイド7を出てからも、小説版はTVアニメとはズレたストーリーを歩んでいく。そもそも乗り込んだのがホワイトベースではなく「ペガサス」で、シャアの追撃を逃れ地球へと向かうことなく、宇宙に留まったまま戦い続ける。そして、ガルマ・ザビの攻撃を退け戦死に追いやり、そのまま一気にララァ・スンとのアムロの邂逅にまで行ってしまう。TVアニメなら終盤に登場するエピソードが、小説版では第1巻の段階で描かれてしまうのだ。

 小説版の第1巻が刊行された79年11月の時点で、TVアニメにはようやくララァが登場して来て、アムロの覚醒に重要な役割を果たしていく。『機動戦士ガンダム』のシリーズにとって中心に位置するとも言えそうなキャラが、小説版ではどこか通過点に過ぎないというのも驚きだった。

 さらに第2巻からクスコ・アルというやはりニュータイプの女性パイロットが登場し、ララァ以上にアムロと絡んでくる。ヒロインをすげ替えたのか? そうとも言えるが、アムロには別に、“金髪さん”ことセイラ・マスとも濃密な関係を持つようになっていく。これが、TVアニメで『機動戦士ガンダム』に興味を持った中高生を刺激した。

 男と女がいれば起こりえることを、子供も対象のアニメや小説だからといって決して省かないところが富野監督らしい。同人誌『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会』で富野監督にインタビューした庵野秀明も、「セックスを連想させてくれるのは、富野さんのアニメだけなんですよ!」と指摘している。小説版では連想どころか直接的な行為が仄めかされて興奮を誘う。

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