書店が苦境の今、“シェア型書店”に注目が集まるのはなぜ? 小説家・藤野ふじの × 佐鳥理 対談

“シェア型書店”に注目が集まるのはなぜ?
『待ち合わせは〈本の庭〉で 吉祥寺・シェア型書店の小さな謎』(藤野ふじの/ことのは文庫)

 書店の減少が続く今、新しい形として広がりつつあるのが「シェア型書店」。店内の棚を「棚主」に貸し出し、それぞれが選んだ本が並べて販売されるため、個性豊かな選書が集まるのが特徴だ。

 オトナ女子のための文芸レーベル「ことのは文庫」(マイクロマガジン社)からは、藤野ふじの(『待ち合わせは〈本の庭〉で 吉祥寺・シェア型書店の小さな謎』)、佐鳥理(『書棚の本と猫日和』)らがシェア型書店を題材に物語を紡いでおり、作家からも注目されていることが窺える。

 並べられる側でもある二人から見て、シェア型書店の魅力とはどんなところにあるのだろうか? 『待ち合わせは〈本の庭〉で』の舞台となった吉祥寺で語り合ってもらった(編集部)
※撮影協力=招文堂


シェア型書店との出会い

──お二人はZINEを共作されるなど親交が深いですが、仲良くなったきっかけは何だったのですか?

藤野ふじの(以下、藤野):私が棚主をしていた吉祥寺のシェア型書店「ブックマンション」に佐鳥さんが遊びに来てくれたのがきっかけです。

『書棚の本と猫日和』(佐鳥理/ことのは文庫)

佐鳥理(以下、佐鳥):藤野さんのことはずっと気になっていたんです。「藤野ふじの(ふじのふじの)」「佐鳥理(さとりさとり)」って名前も似ているし、文学フリマにも出たり、棚主もやっていたりと共通点も多い。「どんな方なんだろう?」と思っていたので、藤野さんが棚主をやられていると告知していた日に会いに行きました。

藤野:そうなんです。シェア型書店で出会いました。

──今日の対談にぴったりな出会い方ですね。お二人ともシェア型書店の棚主をやられているというのも共通点だということですが、そもそもお二人がそれぞれ棚主を始めたのはどうしてなのでしょうか?

藤野:「面白い本屋さんがある」と聞いて、ブックマンションに遊びに行ったんです。そのときに初めてシェア型書店というものを見て。「私もやってみたいな」と思ったのがきっかけです。

佐鳥:私は自分でZINEを作っていたので、それを置いてもらう場所を探していたときに、ネットでシェア型書店を知って。気がついたら申し込みしていました。

──ご自身のZINEを置くためだったんですね。

佐鳥:はい。でも最初の3カ月くらいは全然売れなくて。そこから「どうやったら売れるんだろう」と研究するようになりました。

藤野:その研究結果が『書棚の本と猫日和』なんだね。

佐鳥:そうそう。

──藤野さんの『待ち合わせは〈本の庭〉で 吉祥寺・シェア型書店の小さな謎』、佐鳥さんの『書棚の本と猫日和』は共に、来店するお客さんと本との出会いだけでなく、棚主同士のコミュニケーションも描かれていますが、実際、店主をやられていると、他の棚主さんとの交流はあるのでしょうか?

藤野:私は結構ありましたね。棚主のLINEグループがあって。

藤野ふじの

──まさに『待ち合わせは〈本の庭〉で』のような!

藤野:そうなんです。「ボードゲーム大会をしたいのですが、誰か遊びに来られる人いますか?」とか「コーヒーを習っていて、コーヒーを淹れるので、近くにいる人、興味があったら飲みに来てください」と声を掛け合って。交流は結構盛んでした。

佐鳥:私はそこまでの交流はないです。だから『待ち合わせは〈本の庭〉で』を読んだときに「この作品のシェア型書店はコミュニティの側面が強いんだ」と思いました。私のところは店番のときにすれ違うので少し話したり、補充にきたときに話したりするくらいです。

シェア型書店は物語が生まれやすい場所

──お店によっても違うんですね。では、それぞれの作品にも反映されているかもしれませんが、棚主をやっていて特に印象的だった出来事を教えてください。

藤野:一番はやはり佐鳥さんが遊びに来てくれたこと! それと、佐鳥さんの『書棚の本と猫日和』にもありましたけど、シェア型書店にお客さんとして来てくださっていた方が、地元でシェア型書店を開かれた、ということが実際にありました。私が店番をしているときに、オーナーに挨拶に来てくださって。それは印象的でしたね。

佐鳥:私は……何だろう? 長いことやっているからか、いろいろなことがあって選べないな〜。

佐鳥理

──売れる棚を研究されていたとのことなので、売れるようになってうれしかったときのことなどは?

佐鳥:そもそも、売れたらうれしいのかな?

──別にそういうわけではないんですか?

佐鳥:わからないですけど……売れるようになってからの方が考えるようになりました。ただいっぱい売れればいいとも思っていなくて。

藤野:うんうん。

佐鳥:必要な人に届けばそれでいいのかなと思いました。そもそも私自身が、薄くて目立たない本を買うのが好きなんですよ。平置きされているものよりも、棚に差さっている本のほうが好きだし。だからたぶん私が書くものを好きな方も、棚差しの、1冊しかない本が好きだったりするのかなと思って、そういう置き方をしたりしています。

──なるほど。そしてお二人共がシェア型書店を舞台にした小説を作られました。実際に店主をされているお二人が小説にするということはシェア型書店に面白さやロマンが詰まっているということなんだと思いますが、実際にシェア型書店を題材にした小説を書こうと思ったのはどういうきっかけだったのでしょうか?

藤野:シェア型書店って物語が生まれやすい場所なんですよ。店にもよりますが、棚主が日替わりでお店番をしているところだと、お客さんも日によって違うから、組み合わせが異なるだけで毎日違うお店みたいになる。つまり、それだけで物語がいくつもできるということで。実際に店番をやっているときに思っていたことを、小説にしたという感じです。

──『待ち合わせは〈本の庭〉で』に書かれているようなことが実際にも起こる?

藤野:もちろん創作も入っていますが、結構、実際に起こったことが多いです。

──ちなみに棚主を始めたのは、シェア型書店を舞台にした小説を書こうと思ったからですか?

藤野:そんなことはないです。実際に棚主を始めて、店番をして、いろいろな人に出会ったことで、普通の本屋さんとは違う物語が生まれるなと思ってから、小説にすることにしました。

佐鳥:面白いよね。

藤野:面白い。

佐鳥:私が棚主をやっているお店は、割とお客さんと話せるので、「何でその本を買ったんですか?」とか「どうしてこのお店に来たんですか?」と聞くんです。そうするといろんなドラマがあって。

──普通の書店だとなかなかそういう話まではできないですもんね。

佐鳥:そう思います。だからそういう話を聞いているうちに、人と本の出会いにはドラマがあるんだと気づいて、小説にしようと思いました。実際に、私も普段は小説の棚しか行かないけど、シェア型書店だと普段手に取らないような本が目に止まって。そこから自分の見聞が広がっていく感じも面白いし。

二人で共作したZINE『ネコとめぐる宇宙人のおいしい地球旅行』。装画は布施月子が担当している。

人が住む街としての「新宿」

──『待ち合わせは〈本の庭〉で』は吉祥寺、『書棚の本と猫日和』は新宿が舞台ですが、それぞれその街を舞台に選んだ理由は何ですか?

藤野:この作品を書く際、いろいろな人が集まる場所を舞台にしたいと思いました。そう思ったときに吉祥寺はいろいろな年代の方がふらっと歩いて来てもおかしくない街で、面白い交流が生まれやすい場所なのかなと思ったというのはあります。

佐鳥:私は昔、新宿に住んでいたことがあって。だけど、意外とみんな人が住む街としての新宿を知らないんですよね。

藤野:知らない!

佐鳥:新宿に住んでいると言うと、だいたい「どこに住むの?」とか「昔悪かったんだ」と言われるんですよ(笑)。だからまずは人が住む街としての新宿を知ってもらおうと思って舞台に選びました。それから、最後の章にも入れましたけど街は変わっていっていて。昔の新宿の文化や街並みを書いて残しておけたらいいなという気持ちも込めました。

──なるほど。

佐鳥:新宿も吉祥寺のように、いろいろな人がいる街で。どんな人がいても別に気にならないんですよね。そういった意味では特殊な街だなとは思っていたので、それもあわせて新宿を舞台にしたら面白いなと思いました。

──ここまでのお話しでも、すでにお互いの本の話が飛び交っていますが、お互いの作品の、「すごいな」と思ったところや「これはやられたな」と思った表現などを教えてください。

佐鳥:藤野さんはいろいろなジャンルの作品を書かれているので、「今回はエンタメなんだ?!」というところにまず驚きました。ストーリーも面白いんですけど、特にすごいなと思ったのが3章の「結末を探す本棚」。書店で起きた出来事なのに、なんかふわふわした感じがするなと思いながら読んでいたら、ある一文で「これは計算されているんだ」と気づいて。書かれている謎以上に謎がある本でした。この本は2回読みましたけど、そういう意味ではまだ読み取れていない部分があるんじゃないかなと思いますし、深さのある、いろんな謎の詰まった本だなと思いました。

作家ならではの読みの深さが見てとれた。

藤野:すごい読み込んでくれていてありがたい。私は、自分自身がシェア型書店をきっかけに色んな人と出会った経験もあるので、『書棚の本と猫日和』の後半でいろんな人が繋がっていくのが良いなと思いました。「これ、私がやりたかった〜!」って思いました(笑)。しかも一つのお店の中ではなく岡山までつながっていくが良いですよね。シェア型書店を通じて一歩踏み出せば誰でもできることだと思うので、それを掬い取ってくれたのは最高でした。

佐鳥:遠くから来てくれた方が、シェア型書店に来てくれて、そこで本と出会ってくれたり、交流用のノートにその思いを書いてくれたりすると、「本って物質なのに、このSNS時代に遠くまで繋がっていくんだ」と感動するんですよ。SNSとはまた違う届き方がするというか……紙って面白いなと思う。

一冊しか読んだことがなくても「好きなものは本です」って言っていい

──『待ち合わせは〈本の庭〉で』『書棚の本と猫日和』ではお二人とも本や小説を題材にされましたが、本や小説を題材にした小説を書く面白さもしくは難しさはどのように感じましたか?

佐鳥:難しいよね。

藤野:難しかったです。どこまで入れようかバランスも悩みましたし。その結果、参考図書が多くなってしまって(笑)。本の読み方は人それぞれなので「この作品はこういう本だ」という解釈は入れずに、あくまでも登場人物が読んだ感想のひとつとして取り入れるようにしました。

佐鳥:本を読む人ってみんなすごく本を読んでいるじゃないですか。そんな中で私が本の話を書いていいのかという気持ちはありました。人によって読み方も違うし。書き方によっては、別の解釈をした人を傷つけてしまうかもしれない。そこは難しかったですね。

藤野:あと、出てくる人がみんな本を好きすぎても現実離れしてしまうかなと思って、私は最初の登場人物はあまり本を読まない人にして。

佐鳥:私もそうかも。本の中で「誰でも好きっていい」と書いたんですけど、それはちょっと自分に向けて書いたところもあって。読んだ量に関係なく好きって言ってほしいなと思って。

藤野:たった一冊しか読んだことがなくても「好きなものは本です」って言っていいと思うし。

「誰でも好きっていい」という言葉にはその場にいた全員が頷いていた。

佐鳥:そうそう。だけど自分は何だか言えない。みんなそうなのかもしれないと思って、書きました。

──それで言うと、両作品とも、本に出会う喜びや、本を読んで解釈が変わっていく面白さが描かれていて、普段から読書を楽しんでいる私は共感しました。そういう、本と出会う喜びや本の面白さみたいなものを伝えたいという気持ちもあったのでしょうか?

藤野:そうですね。それが伝わってくれたらうれしいなと思って書きました。

佐鳥:人によって読み方が違うのはもちろん、読む時期でも変わりますしね。そういうのも書けたらいいなという気持ちはありましたね。

藤野:書店に行くとか、本を読むということに対してハードルを感じすぎず、自分なりの楽しさを見つけてもらえたらうれしいなというもところはありますね。読者さんから「5年ぶりに本を読みました」という感想をもらったのですが、それがすごくうれしくて。5年ぶりなんてその人にとっては大きなことだし、1冊読んだら、次は3年ぶり、2年ぶり……と1冊を手に取るペースが少しずつ短くなっていくかもしれない。そのきっかけの1つになれたらうれしいなと思います。

佐鳥:その方はきっと今、次の本を読んでるよ。

藤野:そうだったらうれしいですね。

──では最後に、今後お二人が書いてみたいテーマや題材を教えてください。

佐鳥:聞きたい! 藤野さん、何書きたいの?

藤野:“音”の小説。音楽やラジオを題材にしたものを書きたいなと思っています。

佐鳥:それは読みたいぞ! 私は、テーマはずっと同じなんですよ。それを違う題材で書いているというか。そのうえで、見たことない小説、読んだことない小説を書きたいということをずっと考えています。だからニッチな題材がいいなと思っています。

藤野:また猫も出してくださいね。

佐鳥:ネコ科の動物は書きたいですね。ヒョウとかライオンとか。生き物が好きなので、気がつくと生き物を書いているんですよね。それはもう仕方がないことなので(笑)。きっとこの先も変わらないと思います。

藤野ふじの【左】、佐鳥理【右】

■招文堂
住所:〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-33-10 2F スモールノジッケン内
営業時間:12:00〜17:00
HP:https://yamaoritei.com/shobundojinshi
※2026年1月31日をもって実店舗は閉店となります。


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