メンヘラ大学生、赤裸々に語る恋愛観 「恋の終わりから始まるものもきっとある」 

メンヘラ大学生が恋愛観を赤裸々に語る
『トラウマも君を好きだった輝き』(メンヘラ大学生/双葉社)

 『君に選ばれたい人生だった』(KADOKAWA)はじめ、共感必至の恋愛小説を手掛け若者中心に多くの支持を集める小説家のメンヘラ大学生が、新刊『トラウマも君を好きだった輝き』を上梓した。双葉社のライト文芸レーベル「パステルNOVEL」から刊行された本作は、恋愛の最も美しいところから人の心の残酷までもが瑞々しい筆致で綴られた全5編の“失恋短編集”だ。

 「リアルサウンド ブック」では著者・メンヘラ大学生へキャリア初となるインタビューを実施。自身の恋愛観から創作への想いまで赤裸々に語ってもらった。(編集部)

情けない男を書くのが好き

――『トラウマも君を好きだった輝き』は「恋の終わり」をモチーフにした切ない恋の短編集です。

メンヘラ大学生:好きな人にふりむいてほしい。この思いが成就してほしい。それは、恋する人なら誰でも願うことだし、僕自身、自分の恋に終わりが来てほしいなんて思ったことはないけど、未完成の美しさ、みたいなものにも惹かれてしまうんですよね。だから、映画やドラマでも、叶わない、ままならない恋を描いたものが好き。自分で書く小説も、どうしてもそっちに向かってしまうんです。

――収録されている短編は、フォロワーから募った実体験をもとにしているんですよね。

メンヘラ大学生:はい。これまで以上に、リアリティを追及してみたくて。とっかかりをいただいたという感じなので、シチュエーション以外はほとんどフィクションなのですが、強い想いだけではコントロールしきれない恋のもどかしさを描けたのは、やっぱり、ベースに実体験の強さがあったからですね。

――収録されている5編、それぞれにほろ苦さがありますよね。たとえば「クラゲみたいな君」。高校卒業後、夢を叶えるため上京した彼女との遠距離恋愛を描いたお話ですが、キラキラしている彼女が好きだったのに、会えないさみしさとコンプレックスが膨らんでだめになっていく過程がリアルでした。

メンヘラ大学生:基本的に、情けない男を書くのが好きなんですよ(笑)。彼女のことを信じて、どんと構えていられたらカッコいいし、そのほうが物語のヒーローらしくもあるけれど、実際はそんな理想的にはふるまえない。そもそも恋をすると、みんな理性を優先できなくなって、ふだんなら考えられない言動をしてしまうもの。あとから「なんであんなことしたんだろう」「なんであんなにも恋に浮かされていたんだろう」と自分でも呆れてしまうけど、そういう恋の方がやっぱり素敵だなと思うんです。

――それでいうと「ピアスは、ずっとそこにある」で主人公が片思いしている男友達は、恋人に対してだけは情けなくなりますよね。自分のためにはそうなってくれない、という切なさもあるよなあと思いました。

メンヘラ大学生:そうなんですよね。その情けなさのせいで破局してしまうことはあるけど、他の誰にも見せないような顔、自分でも知らなかったような一面を引き出されるのが恋の醍醐味でもあって。恋をすると、心がゆるんでどうしても甘えが出てしまう。その瞬間も大事に描くようにしています。だから僕、女の子を書くときは、ふりまわし系のほうが好きなんですよ。「一生パーカーを洗えない」で、主人公が出会ったマッチングアプリの相手とか。

――最後まで読むと、ふりまわしレベルが高すぎてびっくりしました(笑)。でも、不思議と憎めないんですよね。主人公が惹かれるのもわかるし、きっと一生、忘れられないんだろうなと。

メンヘラ大学生:よかったです。なるべく無邪気さが伝わるように書きました(笑)。あと、恋をするって、けっきょく傷つくことと傷つけられることの繰り返しだと思うんですよね。まあ、恋に限った話ではないんだけれど、人の感情って思うようには伝わらないし、どんなに誠実に対応していたつもりでも、相手の求めていたものと違えば傷つけてしまうことだってある。そういう残酷さも、僕が小説で書きたいことの一つです。

――残酷さでいえば、主人公は元カノのことを本当の意味では好きになれず、ずっと重たく感じていたじゃないですか。でも、自分が恋をして初めて、元カノの気持ちを理解し、その尊さに気づく。別れたあとのほうが、元カノのことを一生懸命考えている、というのもリアルでした。

メンヘラ大学生:ああ、確かにそうですね。そこもやっぱりままならない、けど、相手のことを思いやれるようになる、というのも恋の効用だと思うんです。恋愛ってどうしても、つきあったり結婚したりするのがゴールで、失恋は失敗と思われがち。でも絶対、そんなことはないって僕は信じているんですよ。努力だけではどうにもならない感情の揺れに向き合って、今より少しでも素敵な人になれるように成長していく。その過程こそが尊いんだと思うから。

若者ではない大人にも届く響く恋の物語

――「艶を持ったリップの先端が妖しく光る」は、主人公の成長がいちばん感じられた作品でした。恋と同じくらい、女友達との友情が大事なものとして描かれていて、恋を失っても彼女たちがいるから生きていける、というテイストがとても好きでした。

メンヘラ大学生:この人のいない人生なんて意味がない、ふりむいてもらえなかったら人生終わり、と好きの気持ちが重たいほど思いつめてしまう。だからこそ、それだけじゃないんだっていう救いをしっかり書いておきたかったんです。……といいつつ、もともとは、こんなに友情パートが濃くなると思っていなかったんですよ。今作ではどの短編も最初にモチーフとなるアイテムを決めていて、「艶を~」の場合はリップだったわけですが、好きな人に可愛く見られたいという気持ちだけじゃなく、女の子同士でおしゃべりするようなイメージも同時に湧いたんですよね。

――まじめな主人公が恋を知って初めて、恋をしている友達のことが理解できる、というのもよかったです。今作のどれもが、初恋がテーマでもあると思うんですけど、恋を知る前とあととでは世界の色づきがまるで違うのだということが、「艶を~」ではいちばん表現されていて。

メンヘラ大学生:恋をすることで、これまでかたくなに守ろうとしてきた何かが、ふっとほどけることってありますよね。先ほど、恋をすると理性的ではいられなくなる、と言いましたが、自分が体感しないうちは、恋している誰かに対しても、どこか冷めた目で見てしまったりする。もちろん恋をしたからって校則違反をしていいわけじゃないけれど「ああ、こういう気持ちだったのか」と理解するだけで寄り添えるものはあると思うんです。そういう、枠の外に飛び出していく感覚を恋は与えてくれるんですよね。

メンヘラ大学生

――きっと、リアルタイムで恋をしている若者は共感すると思うのですが、すでにその感覚を通り過ぎてしまった大人たちにも、この物語は響くだろうなと思いました。こんな時代が自分にもあった、とみずみずしさを取り戻せる気がする。

メンヘラ大学生:こんなペンネームなのに、けっこう爽やかでいい話を書くじゃん、ってよく言われます(笑)。

――それは、思いました(笑)。もっとドロドロした、執着にまみれた小説を書かれるのかと思いきや、恋愛のいちばん美しくて大事なところを、透き通ったかたちで掬いあげてくれるんだな、と。

メンヘラ大学生:もともとは大学時代、当時の恋人との日々をつぶやくためにXを始めたんです。で、僕自身の恋愛スタンスが、わりとメンヘラぎみだった(笑)。彼女のことで頭がいっぱいで、いなくなったら生きていけないと思っていたし、サークルの集まりや友達からの誘いを断ってでも、彼女を優先していた。その重たさのせいで破局したり、あきらめきれずに復縁したり……。

――じゃあ、小説で描いてる恋のままならなさというのは、ご自身の体感でもあるんですね。

メンヘラ大学生:そうですね。すべての恋がうまくいったわけじゃないからこそ、最終的にどうなったかより、その過程で自分が何を得たか、相手のためにどんな行動ができて、どう成長できたかが大事だよなと思うんです。大学卒業後、就職のために上京し、「ここしかない」と思い込んでいた世界の外にも、広がっている景色がたくさんあるんだと僕自身が気づけたように、恋の終わりから始まるものもきっとあるんだということも描きたかった。

自分にとっての「運命」も相手にとって大した意味はないかもしれない

――個人的には最終話「俺とサッカーと、君との三年間」にあった〈夢を叶えるためには、大切な何かを諦めなきゃいけないから。あのときの私たちにとっては、それが恋だったんだよ〉というセリフが好きでした。

メンヘラ大学生:「クラゲみたいな君」もそうですが、恋も夢も全部手に入れられたら、それは素敵だと思うんです。でも物事にはタイミングがあって、どうしても両立できない瞬間、どちらかを手放さなきゃどっちもうまくいかなくなる、ということもある。もちろん最初から全部、上手に手に入れられる人もいるとは思うけど、たいていの人は、失恋や後悔を重ねた先でようやく「こうすればよかったんだ」ということを知って、前に進めるんじゃないかなと。そういうものを小説にこめられたらいいなと思っています。

――メンヘラ大学生さんは、絶対に、都合のいい展開を書かないですよね。ずっと忘れられなかった人に再会しても、たいてい、その人にはすでに相手がいるし、「運命かも!」と思える瞬間があっても、それは自分にとってだけで、相手にとって大した意味はないという残酷さを突きつけてきたり……。

メンヘラ大学生:そういうもんだよなあって思うから(笑)。ただ、もしかしたらうまくいくかもしれない、という希望は読者にゆだねて、曖昧に描いているところもあります。絶対にうまくいかないとも思っていないし、世の中には奇跡のような瞬間が訪れることもあるから。ただ、むりやりハッピーエンドに導くような物語はあんまり好きじゃないというか……現実の恋と照らして「そんなことあるわけないじゃん」って置いてけぼりをくらったような気持ちになると、さみしいじゃないですか。こうあってほしい、という願いをあまり物語には託しすぎないようにしています。

――だからきっと、多くの人の心に刺さるんだと思います。それに、登場人物はみんな、優しいですよね。相手のことを好きだからって、その気持ちを押しつけようとしない。

メンヘラ大学生:たぶん根っこに「嫌われたくない」と言う気持ちがあるからだと思います。好かれたい、とぐいぐい行くより、嫌われたくないし関係を壊したくもないけど、気持ちが溢れだしちゃって、どうにか勇気をふりしぼる。そういう瞬間こそが尊いと感じるから。これからも、そういう瞬間を集めて小説を書いていきたいです。

――今作で、小説は四作目。手ごたえとしてはいかがですか。

メンヘラ大学生:少しずつ、技術も学べているんじゃないかな……とは思います。もともと本を読むのは好きだったけど、書きたいと思ったことはなくて。寺田健吾さんという方と一緒に同人誌的に出した『祈りのゆくえ』という作品をきっかけに、言葉だけで表現していくおもしろさを知ったんです。相手の気持ちを想像するしかない恋を、読んでいる人にイメージさせるような言葉で、言葉を重ねていく。その結果、いろんな人に「よかった」と褒めてもらえるのが、とても嬉しい。今後は、もう少しドロドロした作品にも挑戦してみたいけど、変わらず、みなさんの心に届くようなものを書いていきたいです。

■書誌情報
『トラウマも君を好きだった輝き』
著者: メンヘラ大学生価格:1,760円(税込)発売日:2025年12月17日出版社:双葉社
特設サイト:https://fr.futabasha.co.jp/special/trauma_shine/

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