『ドラゴン桜』三田紀房が語る、「アジア甲子園」への熱い想い「ジャパンオリジナルで、圧倒的な魅力を持つコンテンツ」

三田紀房が語る、アジア甲子園への熱い想い

 インドネシアのジャカルタで、アジア甲子園という野球大会が2025年12月13日から20日にかけ開催される。インドネシア、マレーシア、シンガポールに住む14歳から18歳の中高生で構成された14チームがトーナメント方式で優勝を争う、文字通り、アジアの甲子園大会だ。今回で第2回となるこのアジア甲子園は、漫画『ドラゴン桜』『インベスターZ』(ともに講談社)の作者として知られる三田紀房さんの発案で、運営にも深く関わっている。『クロカン』(日本文芸社)や『砂の栄冠』(講談社)など野球漫画も手掛け、熱心な高校野球ファンでもある三田さんに、アジア甲子園に対する思いを聞いた。

「甲子園」というネーミングが大事

ーー漫画家である三田紀房さんが、アジア甲子園の運営に関わるきっかけは、どういうものだったのでしょうか?

三田:もともとは2021年の春ぐらいに、懇意にしているスポーツライターの田尻賢誉さんから、元読売ジャイアンツの選手で、引退後にコンサルタントをしている柴田章吾さんを紹介されたんです。柴田さんはフィリピンで子どもたちに野球を教える活動をしていたんですが、それが2020年のコロナ禍で活動が止まってしまった。その後、アジアで野球を広めるには、野球教室を開くだけでは限界がある。なにかもっといいアイデアはありませんかと、相談を受けたんです。

 そのときに大会をやったらどうかと言ったんです。野球をやるとしても、子どもたちが実力を試す場がないとモチベーションが続かない。日本の野球がなんで発展したかというと、高校野球、甲子園があったから。目標があるから、みんな頑張れたし、選手も増えたんです。そういう場を用意したらどうか、名前も「アジア甲子園」にしたらどうかという話をしました。

ーーただのアジア大会ではなく、ということですね。

三田:アジア大会では個性が感じられないので、甲子園という名前をつけることで、ブランド価値が高まる仕掛けをしたほうがいいという話をしました。ただ、そのときはそれが実現するイメージがなかなか湧かなかったんです。私も夢を語ったようなところがあったので、その後はしばらく忘れていたんですが、その年の秋に柴田さんから大会をやりたいと言われて。一瞬、驚いたんですけど、あらためて相談して、2人でスタートすることになりました。

右手に見えるユニフォームは……

ーー前例のないことです。いろいろと苦労があったと思います。

三田:最初は国の力を借りられないかと考えて、JICAに働きかけたんです。実はアフリカ甲子園という、野球を通じて人材育成を行っているプロジェクトが既にあって、JICAが関わっているんです。そのパターンでいこうと考えて申請したんですが、インドネシアでの活動実績がないことから審査を通過できず、民間でスポンサーを集めることになりました。

 あとは甲子園という名前を使うのに苦労しました。「甲子園」という商標は阪神電鉄が持っているので、使用のお願いをと思ったのですが、簡単に承認されることはありませんでした。書道パフォーマンス甲子園や俳句甲子園とか、そういう文化活動に関しては厳しく取り締まることはないそうですが、野球のイベントに「甲子園」という名称を使うハードルは特別厳しいということを知ったのです。それでも柴田さんが諦めずに高野連をはじめとしたプロ・アマの各団体に足繁く通い詰めて、「この大会趣旨であれば」と、1年掛けてようやくオーケーをもらえたんです。

インドネシアの野球事情は?

ーー第2回大会は、インドネシアで行われ、国内のチームのみで行われました。インドネシアの子どもたちの野球事情を教えてください。

三田:野球人口はだいたい2万~3万人。少年野球のクラブチームはありますが、その上のクラスはなくて、ステップアップできる環境はありません。野球チームもお兄ちゃんがやっているから弟もやっているというような感じで、習い事のひとつという位置付けです。練習も週に1回ぐらい。大会も限られているので、近くのチームと練習試合をするぐらいです。

ーーだからこそ、実力を試す大会が必要なんですね。アジア甲子園は名前だけでなく、ルールも甲子園、高校野球に準じています。

三田:すべて日本の高校野球の方式を持ち込みました。試合前はホームベース前に整列して帽子を取って礼。終わったらまた整列して礼。開会式もやったんですけど、インドネシアではあの開会式セレモニーをしたことがないんですよ。入場行進の仕方もわからないので、運営の元高校球児の方々と一緒に前日リハーサルをして、甲子園のスタイルでやりました。応援も甲子園スタイルで、シンガポールとインドネシアから日系のブラスバンドグループとチアリーダーにも来てもらい、甲子園の応援を全部練習してやってもらいました。

インタビュー中はぶっちゃけた話も聞かせてくれた。

ーーまさに甲子園ですね。現地の反応はいかがでしたか?

三田:ものすごく盛り上がりました。選手がちゃんと行進している姿を見て、うちの子が礼儀正しくなっているって、親が喜ぶんですよ。ただ、試合は最初、選手がダラダラ歩いているし、攻撃のときも頻繁に監督が出てきたり、バッターボックスでも一球ごとに打席を外して監督のサインを確認したりで、なかなか進みませんでした。。7イニング2時間制にしたんですが、最初の試合は3回の裏までしかできないぐらいで。そのときは高野連が審判を3人、派遣してくれたので、「日本の甲子園が9回を2時間ぴったりで終わる理由はわかる? イニング間は走る、都度バッターボックスを外さないなど、細かいところで全員がスピードアップに努めているからだよ」と毎試合後に説明してくれたんです。向こうのコーチたちも納得してくれて、3回で終わっていた試合が4回になって5回になって、最後は7回までできたんです。その変化を見ていた現地の人たちも気づきがあったみたいで、野球の楽しさがだんだんわかってきたみたいです。

 高校野球には教育効果があるんです。礼儀面だけでなく、仲間を思いやる、みんなで頑張るというチームスピリット。楽しさだけでなく、すごくいい子に育つんだというのが親たちに伝わって、それが地域に広がっていけば、野球人口も少しずつ増えていくと思います。

ーー初めてということもありますが、得るものの多い第一回大会でした。

三田:やっぱり、子どもたちがものすごいスピードで変化していく、その過程が見られたのは、我々、運営側にとっても大きな成果でした。プレーもそうですが、大会が進むにつれて勝ちたいっていう気持ちが出てきて、真剣にやるようになっていくんです。決勝戦になると本当に白熱して、勝ったチームはものすごく喜ぶし、負けたチームはすごい悔しがって、みんな泣いているんです。その姿を見て親も我々も、見に来てくれたスポンサーさんも、みんなもらい泣きです。8チームだけの小さい大会でしたけど、感動するんです。

 大会が行われたのは、ジャカルタの中心街の公園の中にあって、東京で言うと、日比谷公園の中にあるような球場でした。散歩している人も多くて、球場から漏れてくるブラスバンドの音を聞いて、なにかやっているってどんどん入ってくるんです。入場無料なのもあって、最後は球場が満員になりました。その中で試合ができて、子どもたちもいい経験ができたと思います。

三田紀房

アジアで野球の裾野を広げるには

ーーいよいよ第2回大会が行われます。まだ小さい規模ではありますが、今後はどんな夢を描いているのでしょうか?

三田:まずは大会規模を大きくして、アジア甲子園に出たいって動機で、野球を始めるアジアの子どもたちを増やしたい、野球の裾野を広げたいです。あと、出場年齢を14歳~18歳にしているのですが、この14歳というのは、アジアじゃなくて本物の、日本の甲子園に出たいって子があらわれてくれることを期待しているんです。前回大会のあるチームで、ものすごくうまい、日本の高校野球レベルのプレーをしている選手がひとりいました。聞いてみたら日本の高校野球に憧れて、福岡県の強豪校に野球留学していたんです。高校時代はベンチには入れなかったんですが、引退して地元に戻って、アジア甲子園に参加していたんです。彼は今年、卒業して有名私大に入学しました。彼が今後、日本の企業に就職して、インドネシアと日本をつなぐビジネスマンになってくれれば、より密接な国際交流ができるんじゃないかと思うんです。

 日本の野球選手がなぜMLBを目指すかというと、やっぱり野球の本場でやりたいんです。同じように、アジア甲子園に出て、日本の甲子園を目指したいって子が出てきてくれれば、日本の高校野球のスカウトも見に来てくれるでしょう。そんな道筋を我々、大人が作っていけば夢も広がりますし、高校野球の部員不足にも、一定の効果もあるんじゃないかと思っています。

ーー現地の子たちの野球選手としてのポテンシャルはどうでしょう?

三田:技術的には中学生と高校生の間ぐらいですが、ポテンシャルはすごく高いです。手足が長くて、中南米の選手のようなしなやかな動きをする子が多いです。第1回では東京ヤクルトスワローズと福岡ソフトバンクホークスの職員の方も来ていただいたんですが、練習環境が整えばいい選手がたくさん出てきそうだと言っていました。

ーー最後に、三田さんにとって甲子園とは、なんなのでしょうか?

三田:甲子園大会は2025年で107回目でした。そもそも100回以上やっているスポーツイベントは、世界を見ても、本当に数えるぐらいしかないんです。さらに15歳から18歳の子どもたちのイベントです。それをテレビで全国中継して、大会中は70万人も観にいっている。これはジャパンオリジナルで、圧倒的な魅力を持つコンテンツなんです。これを110年ぐらい続けているのですから、今からよそが始めても、絶対に追いつけるものではありません。この価値にもっと多くの日本の人たちが気づいて、いろいろな知恵を加えたり投資をして、魅力を発信する。世界中がそれに気づいて、アメリカとか色々な地域から日本で野球をやりたいっていう子が集まるようになれば、すごく面白いなと思います。

 そのためにも、協力していただけるスポンサーを増やしたいです。今はなにもお返しできませんけれど、とりあえず感動することだけはお約束できるので。リターンの準備があるクラウドファンディングも、2025年12月26日まで実施しているので、もしよろしかったら個人の方でもご協力いただけるとありがたいです。

三田紀房 手には大谷翔平のサイン入りイラストが。

■「アジア甲子園」大会概要

「アジア甲子園2025」ロゴ

日程:2025年12月13日~20日(8日間)
開催場所:インドネシア・ジャカルタ
参加年齢:14歳~18歳(2025年12月末時点)
対象/参加数:3カ国対抗戦 × 14チーム
試合形式:トーナメント制、全36試合
試合時間:7イニング制 or 2時間打ち切り
大会HP:https://event.nbacademy.jp/asiakoshien2025

「アジア甲子園大会 in ジャカルタ」クラウドファンディング(CAMPFIRE):https://camp-fire.jp/projects/891598/view

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