ライターが選ぶ「2023年に読んだ漫画BEST5」たかなし亜妖編『ジャンケットバンク』など“王道で斬新”傾向変わらず

ライターが選ぶ「2023年に読んだ漫画BEST5」たかなし亜妖編

 コロナウイルスが猛威を振るったあの時から、早くも3年が経過する。突如訪れた閉鎖的な世界で、娯楽の一つとして「漫画」に救いを求めた人も多かったことだろう。これまでは関心がなかったのに、現在はすっかりアニメや漫画にハマり中……なんて話もよく聞いた。そのおかげか、2020年以降は界隈の勢いがより一層増したように感じる。素晴らしい作品が続々生み出されるこの日本で、マイベストランキングを決めるのは容易でない。

 しかし、“面白いもの”は数多くの人と共有したいと思うのがオタクの性。今回は布教活動として2023年のコミックBEST5を厳選したので、新規開拓をしたい人や、最近しっくりくる出会いがない人はぜひ参考にしてほしい。なお、ランキングの基準は、ただ単に“私が本年でおすすめしたいと心から感じる作品”。2023年に連載が始まったとか、今年ようやく単行本が発刊された等を細かく縛っていないため、連載歴が数年以上経過する作品もランクインさせた部分はご了承いただきたい。

1.『ジャンケットバンク』高橋一行
2.『放課後ひみつクラブ』福島鉄平
3.『光が死んだ夏』モクモクれん
4.『裏バイト:逃亡禁止』田口翔太郎
5.『WIND BREAKER』にいさとる(講談社)

勢いを増し続ける『ジャンケットバンク』

 様々な作品に目を通すなか、堂々の1位を飾るのは『ジャンケットバンク』。リアルサウンドブックでも何本か記事を書かせてもらったが、該当記事のSNSポストのRTが多く回るなど世間の注目度もかなり大きいようだ。

 ギャンブラーがゲームに参加して命を差し出したり、多額の賞金を手に入れたり、勝負師としてめざましく成長を遂げる物語は、正直なところもう珍しくない。本作にも王道要素は含まれるが、賭場の開催元となる銀行員同士の争いに加え、独自のゲームが次々と登場する点が目新しい。ギャンブラーの友情や主人公・真経津の謎に加え、歪みゆく“元”常識人の御手洗と登場人物を色濃く描く部分には、つい心を奪われてしまった。

 延々と賭け事が続く単調な展開はゼロであり、『ジャンケットバンク』はテンポの良さが何よりも心地良い。

 ゲームの決め台詞となる「鏡の中に君を助ける答えはない」と、敗北者のピカソ顔(ピカソの絵を真似たイラストのこと)も読み進めるとたまらなく思えるはず。丁寧な作り込みと画力の高さなど、全てがパーフェクトといっても過言ではない漫画なので、筆者はアニメ化を今か今かと心待ちにしている。

独特の雰囲気がクセになる『放課後ひみつクラブ』

 少年誌(少年ジャンプ+)らしからぬふわふわしたタイトルに、『りぼん』に連載されているような4コマを彷彿させるデフォルメチックなイラスト。2022年より連載が始まった『放課後ひみつクラブ』だが、これはびっくりするくらい掴みどころがないギャグ漫画。可愛い絵からは想像がつかぬシュールっぷりが病みつきになり、気づくとページをめくっている不思議な中毒性を持つ。

 本作は天然な美少女・蟻ケ崎(あねがさき)とマトモな常識人の猫田、2名の主人公が学園のヒミツを暴いていく物語。あらすじだけを読めばちょっとしたミステリーを想像するものの、ジャンルはあくまでコメディだ。緊張感が皆無のまま謎解きが進んでいくのも本作の個性と言えよう。

 蟻ケ崎のユルいボケと猫田のツッコミにクスリとさせられ、時折毒をはらんだスパイシーなギャグについハートを掴まれてしまう。絵柄と内容のギャップがいい意味でなんとも言えず、1ページに詰め込まれたセリフと書き込み具合にも魅力を覚えることだろう。

 彼女たちが紐解く“ひみつ”も様々なもので、身近な題材を大きく広げる作者の創造力には思わず関心するはず。とにかく不思議な雰囲気が流れる作品なので読み手を選ぶ点は否めない。ただハマる人にはハマること間違いなしの、読み応えたっぷりのギャグ漫画だ。

昨年から引き続き大人気の『光が死んだ夏』は3位

 2022年に大注目を浴びた『光が死んだ夏』。繊細なタッチのイラストに緊迫感溢れるストーリー。ジャンルはホラーに分類されるようだが、サスペンス、ミステリー、スリラーといえるほど、読み手の首をじわじわと絞め上げる恐怖がたまらない。

 本作の恐ろしいポイントを解説したらキリがないが、最大にゾッとするポイントを挙げるとすれば「光」の存在。一度行方不明となったあと無事に帰還した少年だが、彼は正体不明の「ナニカ」にすり替わっていた。つまり、帰還後のヒカルと呼ばれる“モノ”は本人ではなく、あくまで過去の記憶を受け継いだ別の存在なのだ。

 光が「ナニカ」に変貌を遂げてから、身の周りでは奇妙な出来事が次々と起こり始める。それなのに幼馴染のよしきは葛藤しながらも、親友へ寄り添うことを決意するが……。普通の感覚であれば得体のしれない化け物と共存する発想にはならない。よしきは既に光へ侵食されているかのよう。全てが狂ったまま物語が続く異色さは、こちらの心をひどくざわつかせる。

 バン!と激しく驚かすホラーではないが、全身に絡みつく嫌味たっぷりのおぞましさが溢れた作品。終始流れる陰鬱な雰囲気に、あなたは耐えられるだろうか?

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