森健の『BiS研究員』評:推し活なんて、生ぬるいーーカオスなエピソードに滲む、喪失感と感傷

森健の『BiS研究員』評

 というより正確に言えば、BiSの活動に合わせて、各会場で“現場”をつくっていたのが研究員たちだった。そんな状態をBiSのメンバーも認識していた。元メンバーのミチバヤシリオはこう語っている。

「自分の中では、BiSがBiSであるためには、メンバーの私よりTumaちゃん(注・研究員)のほうがカーストが上なんです。(略)地下のアイドル現場って、オタクありきみたいなところがあるじゃないですか」

 祝祭の空間をアイドルとファンが相互に、そして創造的につくっていたのがBiSの現場だった。

 ただ、本書はそんなカオスな活動、カオスな現場だけを描いているわけではない。

 むしろ本書の筆致は全編を通じてどこか哀しみに彩られている。大きく影を落としているのは研究員の死だ。しかも一人ではない。まだ40代、50代という現役世代であり、本来ならばありうべき生を全うすべき年齢でありながら早逝していった仲間たち。

 そんな研究員の横顔を知ろうと著者は遺族や他の研究員のもとへ足を運ぶ。彼がどんな人で、どこでどんなことをしたのか。誰もがなくなった研究員の横顔を振り返る。

 語られる話にはカオスなエピソードが交じっているが、そこに滲むのは笑いだけではない。いまはなき研究員、現場、十数年という時間。そうしたものへの喪失感や感傷が苦みとともに綴られている。そして、誰もが語りながら、あの頃の自分自身についても内省的に振り返っている。それらはすべて取り戻すことのない輝きであることは読む者にも伝わってくる。そして、そんな筆致の妙に本書を読んでいく醍醐味がある。

 読み終えたとき、読者自身も問い返すだろう。自分はこれだけ狂ったことがあったろうか、大事な瞬間を得たときがあったろうかと。そんなカオスな輝きを本書は乱反射している。

■書誌情報
『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』
著者:宗像明将
四六判/268ページ(口絵20ページ)
ISBN:978-4-909852-58-8 C0073
定価:2,750円(本体2,500円+税)

発売日:2025年1月7日

■目次
はじめに
BiS研究員 ごっちん
BiS研究員 越田修
2011年のBiSと研究員
BiS研究員 みぎちゃん
BiS研究員 Kん
2012年のBiSと研究員
BiS関係者 高橋正樹
便器の男
BiS研究員 Kたそ
2013年のBiSと研究員
BiS研究員 がすぴ〜
BiS研究員 Tumapai、あるいは田中友二へ
Tumapaiの母
2014年のBiSと研究員
BiS関係者 ギュウゾウ(電撃ネットワーク )
BiS元メンバー ミチバヤシリオ
2014年7月8日の横浜アリーナ
BiS解散後の研究員
BiS元メンバー プー・ルイ
2024年7月8日の歌舞伎町シネシティ広場
BiS年表2010-2024
あとがき
BiSオフィシャル&ブートTシャツとBiS研究員

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