立花もも新刊レビュー 家族、恋人、仲間、他者……人との関係について改めて考えたくなる注目3選

王谷晶『他人屋のゆうれい』(朝日新聞出版)

王谷晶『他人屋のゆうれい』(朝日新聞出版)

 〈人権は思いやりの話ではない。それは間違いありません。でも、誰かに人権についての話をするとき、その人に対する思いやりを持たなくていいかというと、それは違いますよね〉というセリフが、胸のど真ん中に刺さって、今も抜けない。子どもの頃から、正論は暴力だと思っていた。でも、それ以上に、正しさのなかにきちんとおさまれない自分が苦しくてたまらなかったし、自分を守るために他人を正しさで殴りつけるようなことも、少なからずしてきた。そんな自分を、改めて突きつけられたような気がした。

  主人公の大夢(ひろむ)は派遣社員で、お金がなくて、友達と呼べる人もいない。気を抜けば私物を盗まれるのがあたりまえのシェアハウスで暮らしていた大夢は、急死した伯父の住まいを片づけるよう、家族に押しつけられたついでに、大家からその部屋を格安家賃で住まないかと提案される。さらには、伯父が営んでいたらしい謎の「他人屋」という仕事と、部屋に住んでいるらしい幽霊も一緒に引き継ぐことに。

  他人に心を開かず、寄せ付けず、心をかたくなにしていた大夢にとって、便利屋のような「他人屋」の仕事はいちばん面倒だ。けれど押し切られるようにして、地元の人たちの手伝いに駆り出され、成り行き上しかたなく幽霊の正体を探るうちに、大夢は少しずつ心を解きほぐしていく。他人と関わるということは、傷つけられたり不快にさせられたり、自分の愚かさを突きつけられたりすることでもある。でも同時に、冒頭のセリフのように、はっとさせられ視界を開ける機会も得ることができる。配慮も思いやりも、多様な人に接するほど面倒にはなっていくけれど、誰かの人権を守るためにほんの少し思いやりを言動に足すことは、自分の人権や居場所を守ることにもきっと繋がっていく。絆とか、仲間とか、そんな強固なものでなくてもいいから、みんなが少しずつ誰かの安心をはぐくむ一片になっていければいいよなあ、と思える小説だった。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる