【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 転生者の姉が主役の悪役令嬢ものや三十路魔法少女ものなど斬新な視点の新作続々

遠藤遼『とりかえばや陰陽師とはぐれ検非違使』(マイナビ出版ファン文庫)
時は平安。月蝕の夜に都を巡回していた検非違使・三浦貞頼は、百鬼夜行に遭遇して鬼たちに襲われる。部下を守ろうと奮闘するも絶体絶命の危機に瀕したその時、突如陰陽師が現れた。安倍菊月と名乗る美貌の青年は、見事な術で魔を祓った後、貞頼のなまぬるい仕事ぶりを責め立てる。百鬼夜行の正体は、鬼ではなく人間。あやかしに扮した盗賊に過ぎなかったのである。
稀代の陰陽師・安倍晴明の再来と言われている菊月だが、一方では「兄弟子殺し」という悪評もつきまとっていた。おまけに貞頼はとある偶然から、菊月が実は女性であると知ってしまう。この世の罪人を捕縛して都の治安を守る検非違使と、この世ならざるものたちを追捕する陰陽師。左大臣の命令によって立場が異なる二人が手を組み、協力して帝と都を護ることになった。己の秘密を知っているうえに、軽薄な性格の貞頼に対して菊月は反発を抱くが――。
本作は男装の陰陽師とはぐれ者の検非違使の異色のコンビが魅せる、平安バディ小説である。当初はいがみ合う菊月と貞頼だが、それぞれの特技をいかしてさまざまな事件を解決するなかで、少しずつ絆を深めていく。女の身でありながら陰陽師として天賦の才をもち、男社会の中で自らの力で居場所を切り拓いてきた菊月の鮮やかな活躍が痛快な本作。貞頼という相棒を得たことで、彼女にどのような変化が生じるのかにも注目だ。
氏家仮名子『わたしが魔法少女になっても』(集英社オレンジ文庫)
二年ほど前から「黒禍」と呼ばれる未知の怪物が出現するようになった社会。黒禍に対抗する存在として魔法少女に変身する者も現れ、彼女たちは日々黒禍と戦っている。玩具メーカーに勤める30歳のゆめりは、魔法少女作品をこよなく愛する生粋のオタク。だが入社以来ずっと在庫管理を任されており、大好きな魔法少女ものの企画に関わることが出来ない現状に内心では燻っていた。
ある日、会社の憧れの先輩・颯太が黒禍に襲われ、その場に居合わせたゆめりの目の前にミラと名乗る生き物が出現する。颯太を助けるためにゆめりは妖精界から来たミラと契約し、魔法少女ミーティアに変身して黒禍と戦うが……。
以後ゆめりは、人気アイドルでもある宵町かのん、正体不明のゴスロリ少女・アイギスら他の魔法少女たちと協力しながら黒禍に立ち向かっていく。魔法少女と黒禍との戦いを描くバトルファンタジーでありつつ、主人公の胸に去来するのは憧れの魔法少女になれた嬉しさと、その中身が三十路の冴えない自分だという葛藤。何者でもない私たち読者こそが、ゆめりの心情を最も理解し、共鳴できる存在なのかもしれない。魔法少女作品を愛するすべての者たちに贈る、一風変わった物語である。
























