【漫画】もしも忍者の末裔がOLだったら? 隠密お仕事ラブコメ『忍者だけど、OLやってます』が面白い

 講談社のマンガアプリPalcyで、『忍者だけど、OLやってます』(原作橘もも/漫画iko)のコミカライズがスタートした。本作の主人公・陽菜子は代々続く忍者の里の頭領娘だが、忍びの生き方に嫌気がさして里を抜け、丸の内でごく普通の会社員として働いている。秘密を抱えながらOL生活を送る中で巻き込まれるトラブルに、陽菜子は封印していた忍術を駆使して立ち向かっていく。意外性のある要素のマッチングにお仕事小説としてのリアリティ、多彩なキャラクターたちの関係性など、いくつもの魅力にあふれた「隠密お仕事ラブコメ」の本作。原作小説を手がける橘ももに、『忍者OL』シリーズについて話を聞いた。(嵯峨景子)

――『忍者だけど、OLやってます』はどのような経緯で着想されたのでしょうか。

橘もも(以下橘):かつて仕事で、外国の方に日本のマンガを紹介するサイト作りに関わっていたんです。そこの特集記事で、忍者がテーマの作品を持ち寄ることになりました。他の方は白土三平世代の忍者好きが多かったんですが、私は『NARUTO -ナルト-』くらいしか知らなくて。結局女性向けの現代ものを担当することになったのですが、探してみると意外と作品がなかったんですよね。そのとき「忍者の末裔がOLをやっている話があれば面白いのでは」と思いついたことを、編集者にぽろっと話したところ、それはいいねと書くことになりました。

――『忍者OL』はMF文庫ダ・ヴィンチMEWの創刊ラインナップの一冊としてスタートします。

橘:新レーベル立ち上げのために急遽刊行することになったので、執筆時間が1ヶ月半くらいしかなかったんです。元々、忍者ものに詳しいわけでもないし、どうしようと困っていたところ、マンガ紹介サイトで一緒に仕事をしていた男性編集者たちがアイディア出しを手伝ってくれました。陽菜子の勤め先も、当初は自分が知っている出版業界にしていたのですが、話があまり動かなかったんですよ。そんな時に彼らが、今の時代はエネルギー業界だよと助言してくれて、現在の設定になりました。キャラクターの面でも、いかにも忍者的な人を一人は出した方がいいとアドバイスがあり、そこで生まれたのがエリートの惣真だったんです。ラブコメだからといって、主従の枠を越えたり情に流されたりしない、冷徹な「THE忍者」な性格に設定しました。

――お仕事描写のリアリティも本作の魅力の一つです。

橘:働いている人が読んだ時にリアリティがないのは嫌だなと思いました。なので、会社勤めをしている友達から話を聞いたり、エネルギー会社の組織図や就活サイトなども参考にして……。あと、大学時代は商学部に所属していて、経営・組織論を中心に勉強していた時期もあったんですよ。受かった学部がそこだけだった、というだけの理由で、向いてないなと思うことばかりでしたが、資料を集めるときになんだか懐かしい気持ちになって、人生、何が役に立つかわからないなと思いました(笑)。

――主人公の陽菜子は落ちこぼれの元忍び。けれども変身術だけは誰にも見破れないという設定です。その陽菜子の同期で社長の息子、彼女の元にさまざまなトラブルを持ち込むのが和泉沢創。二人はどのようにして生まれましたか?

橘:主人公のキャラを練る時間的な余裕がなかったこともあり、陽菜子に関しては「もう、私でいいや!」と思いきりました。元々ティーンズハートというレーベルでデビューしたのですが、小説の主人公と自分を同一視されることが多くて、内心それが嫌でした。でも『忍者OL』の陽菜子でやむをえず自分と近いキャラクターを書いてみたら、逆に、同一視されることがあまりなく、親でさえ「言われてみれば」という感じだったのが意外でしたね。和泉沢は惣真との対比から生まれたキャラです。惣真とは異なり、めちゃくちゃ情に流される性格になりました。

――陽菜子の同僚の森川も含め、『忍者OL』の男性キャラは人気が高いですよね。

橘:もともとプロットを細かく立てないタイプですが、1巻については時間がなさすぎて、とにかく書くしかなくて。森川もなんとなく登場させてみたら、意外に重要なキャラクターとして育っていきました。若い人や胸キュンしたい人は惣真が好きで、現実的な目線で見る人は和泉沢派が多い印象ですね。森川はこの二人に比べると数は少ないけど、熱心なファンがついています。

――現代に生きる忍びを描くうえで意識されたことや、こだわった点があれば教えてください。

橘:忍者をファンタジーの存在にはしたくなくて、現実にあり得ないことは書かないようにしました。忍者といえばドロンと消えたり、手裏剣を投げたりするイメージが一般的にはあります。けれども実際の諜報活動は、もっと地味なものじゃないかなと。

――『忍者OL』のコミカライズはどのような経緯で始まったのでしょうか。

橘:コミカライズ担当の編集さんから依頼があり、企画がスタートしました。コミカライズされるといいなとずっと思っていたので、シンプルに嬉しかったですね。

――コミカライズにあたって、橘さんの方からお願いしたことなどはありますか?

橘:惣真をあまりわかりやすいツンデレにはしないでほしいとリクエストしました。マンガ的な表現でツンデレになるのは別におかしくはないのですが、『忍者OL』では惣真の存在が忍者らしさを体現していて、そこだけは消してほしくないとお願いしました。それ以外はすべてお任せですが、ネームがあがってくるたびに歓喜しています。4話の森川がどえろくて最高なのではやく読んでほしい……。

――第一話を読んだ感想をお聞かせください。

橘:私、こんなに面白いもの書いたっけと思いました(笑)。ikoさんのマンガが本当に上手で、原作の順番をうまく入れ替えたり、内容を的確に補完してくださっています。

――一話の中で特に気に入っている場面はありますか?

橘:陽菜子が和泉沢に絞め技をかけるシーンが好きですね。小説では絶対にできないコミカルな表現で、こういうのを見たかったと思いました。セーラームーンのような陽菜子のキラキラした変身シーンもよかったです。

――コミカライズで初めて『忍者OL』に触れた方に、作品の見どころやおすすめポイントを教えてください。

橘:この物語に登場する忍者は、皆さんが想像する黒装束で手裏剣を投げてという典型的なイメージとは異なるかもしれません。その分、意外に身近なところに忍者がいるかもしれないというリアリティを意識して書いています。ikoさんが作品の大事なところを丁寧にすくいあげて、原作以上に面白く描いてくださっているので、ぜひ読んでください。

――原作小説は双葉社から4巻まで出ています。今後何らかの展開の予定はありますか?

橘:現時点では決まっていませんが、4巻でもまだ解決してない謎を散らしているので、シリーズとしては続けていきたいです。マンガが読まれて原作も動けば、5巻を出せるかもしれないので、コミカライズをきっかけにぜひ小説の方も読んでもらいたいですね。

――橘さんは2000年にデビューし、これまでさまざまな作品を手がけられてきました。今後の新作などの予定などがあれば教えてください。

橘:12月18日に同じ双葉社から初めての単行本『恋じゃなくても』が出ます。結婚相談所が舞台で、恋愛ではない結婚の形を模索する人々の話です。今までは『忍者OL』が私の代表作でしたが、個人的にはより広い層に読んでいただける名刺代わりになる小説が書けたと思っています。ぜひ、たくさんの方に読んでもらえたら嬉しいです。

『忍者だけど、OLやってます』連載はこちら:https://palcy.kodansha.co.jp/c/2298.html

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