連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2025年1月のベスト国内ミステリ小説

2025年1月のベスト国内ミステリ小説

梅原いずみの一冊:新川帆立『目には目を』(KADOKAWA)

 少年院を出所した殺人犯の少年Aが被害者遺族に殺害された。引き金はAと少年院で過ごした少年Bの密告。少年Bは誰だ?ライターの〈私〉は同時期に少年院にいた元少年たちへの取材から、真相に迫ってゆく。物語全体が〈私〉によるルポの形になっていて、〈私〉は冷静な筆致で元少年たちの罪、過去と現在を綴る。この構成が素晴らしい。語り口が冷静だからこそ、読者も〈私〉自身も「復讐と贖罪」というテーマから逃れることが許されないのだ。物語から目をそらした瞬間に新川帆立との鍔迫り合いに負ける。そんな気迫に満ちた傑作である。

藤田香織の一冊:新川帆立『目には目を』(KADOKAWA)

 <いくら十五歳だからといって、人を殺しておいて、少年院に一年三カ月入っただけで許されるのはおかしい>と少年Aを殺めた女はその動機を主張した。彼女はAに我が子を殺された母親だった。名前も居場所も法に守られていたはずのAの殺害が可能だったのは、同時期に院にいた少年Bの密告によるものだという。誰が誰を、なぜ「さした」のか。同室だった五人の少年たちの証言から立ちのぼる「今の子どもたち」生々しさもさることながら、そうきたかー! という真相に唸る。新川帆立の人物描写ってなおざり感がない。容赦もないけど救いがある奇跡!

杉江松恋の一冊:新川帆立『目には目を』(KADOKAWA)

 今月は本作と佐々木譲『遥かな夏に』の二択だろう。『遥かな夏』も一人称私立探偵小説の形式を使った、佐々木版『A型の女』と言うべき内容で素晴らしい。迷ったが、技巧の手数が多い『目には目を』を採った。複数の証言により事件の真相を浮かび上がらせていく叙述形式は、湊かなえ『告白』以降使用の機会が増えた。本作もそうした形で進んでいくのだが、フーダニットの趣向が明らかになる中盤で変化が生じ、物語の真の姿が判明する終盤までの盛り上がりが半端ではない。倫理の揺らぎを人質に使って読者の心を掴む技巧に舌を巻かされた。

 全員の意見がばらけた前月から一転して六人が同じ作品を挙げるという結果となりました。この予想のつかなさがおもしろいですね。さて、次月はどんなことになりますか。またお付き合いください。

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