杉江松恋の新鋭作家ハンティング まずい食事の連作短編集、オルタナ旧市街『お口に合いませんでした』

 料理が不味いということから、その人の暮らしや他人との関係が浮かび上がる。連作としての趣向として、「ゴースト・レストラン」の語り手がいるマンションの、他の住人が次々に登場してくる構成になっている。各話にゆるやかなつながりが持たされているのだ。その中で、この話とあれがそういう風に結びつくのか、という発見があるように配慮されている。最後から二つ目の「完璧な調理法」は、中学生の語り手が料理に目覚めて自分で厨房に立つようになるということから始まるが、ある話との対称関係になるように書かれていて、二つの間で起きる共鳴が物語の余韻を深めるのである。料理の味とは体質であり文化であり、そして人間関係であるということを改めて感じさせられた。

 最終話が本の題名である「お口に合いませんでした」となっているのもよく、贈答品のお菓子のように詰め合わされているという印象だ。気がついてみればあっという間に読み終えてしまっていた。もっと読んでいたかった、と物足りなく思ったくらいである。不味い、を書いた小説だが、これは美味しかったということだろう。

 オルタナ旧市街、変わった筆名だが作者紹介によれば「個人で営む架空の文芸クラブ。2019年より、ネットプリントや文学フリマを中心に創作活動を行う」とのことで、すでに柏書房からデビュー・エッセイ集『踊る幽霊』を出しているそうだ。知らなかった。すぐ読もう。これは楽しみな書き手を見つけたものである。自分だけの隠れ家にしたい、なんてけちなことを言わない。行列ができる繁盛店になってもらいたい。みなさん、読むといいですよ。

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