「これは21世紀の『E.T.』になる」ワーナージャパン元社長が振り返る、総額2393億円超の仕事術


(ウィリアム・アイアトン/双葉社)
ワーナー エンターテイメント ジャパン元社長であり、『マトリックス』シリーズ、『ハリー・ポッター』シリーズ、『ラスト サムライ』など数々のメガヒット映画を手掛けたウィリアム・アイアトン氏の初の著書『日米映画の架け橋 ラストサムライ 2393億円の男』が、5月7日に出版された。
長年、ワーナーブラザース映画の日本代表として“日米映画の架け橋”を務めてきた伝説のヒットメーカーである同氏。洋画の配給統括に加え、社長就任以降は『るろうに剣心』シリーズなどの製作総指揮も担い、手掛けた作品の総興行収入は実に2393億円を超える。
本書は、同氏がいかにして作品をメガヒットへと導いたのか、その宣伝・製作の全貌を日米映画界の世界的スターや名監督たちとの貴重な交流エピソードを交えながら詳らかにした一冊だ。ワーナー伝説のトップが明かす「不可能を可能にする」流儀と、「限界を打ち破る」ボーダーレスな仕事術は、映画ファンはもちろん、世界での活躍を夢見るビジネスパーソンにとって人生を劇的に変換する大きなヒントになるだろう。
アナログからデジタルへの移行、シネコンの普及、そして「洋高邦低」から「邦高洋低」の時代へ。本書は、日米の映画スターとの知られざる宣伝秘話を交えながら、映画ビジネスの激動の歴史を当事者の視点から鮮明に描き出している。ワーナーの日本劇場配給事業終了という業界の大きな転換点を迎えた今、『A.I.』の宣伝の裏側や、邦画製作戦略の全貌まで、日米の映画産業を繋いできたトップランナーに業界の変遷とこれからの展望を聞いた。
不可能を可能にする映画宣伝の極意
――本書には、規格外とも言えるスケールの宣伝エピソードが数多く書かれています。宣伝で一番重視されることは何でしょうか。
ウィリアム・アイアトン(以下、アイアトン):一言で言えば「世間をざわつかせる」ことですね。映画館に足を運んでもらうためには、常識の枠に収まらない圧倒的な話題作りが必要です。たとえば『マトリックス リローデッド』では、東京タワーをマトリックス・カラーの緑色に点灯させました。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』のジャパンプレミアでは、六本木ヒルズの上空600メートルを貫く巨大な「光の塔」を出現させ、『トロイ』では高さ14メートルの巨大な木馬をわざわざベルリンから解体して空輸し、新宿・歌舞伎町のど真ん中に組み上げました。
――スケールが違いますね。スターの来日キャンペーンでも驚くような仕掛けがありました。
アイアトン:映画の枠を超えた社会的なインパクトを狙うことも大切です。たとえばアーノルド・シュワルツェネッガーさんが来日した際は、当時の橋本龍太郎総理大臣とのトークショーを実現させました。また、『硫黄島からの手紙』の撮影前には、クリント・イーストウッド監督に当時の石原慎太郎都知事を表敬訪問してもらいました。こうしたニュースはスポーツ紙だけでなく一般紙や報道番組でも大きく取り上げられ、映画の「格」と「認知度」を一気に引き上げる力がありました。
かつてはSNSも口コミサイトもなかったので、イベントや予告編でいかに興味を喚起するかが勝負でした。メディア展開としては、専門誌だけでなく一般誌まで巻き込み、公開が近づくとラジオやテレビへと展開する「ロングターム・パブリシティ」で熱を高めていきました。
以前は最大で10万人規模の全国試写会を行い、エモーショナルな「口コミの力」を最大化させていました。『ハムネット』という素晴らしい作品を観て、カフェの店員さんに思わず話してしまったことがあったのですが、翌日その方が「絶対観に行きます」と言ってくれたんです。こういう反応こそが口コミの原点ですね。ただ、今は作品の質が伴っていないと興味を持続させるのは難しくなっています。
『A.I.』の宣伝と直感
――アイアトンさんが手掛けた『A.I.』は、本国アメリカをも超える興行収入を日本で叩き出しましたね。
アイアトン:あの作品の脚本を読んだ瞬間、「これは21世紀の『E.T.』になる」と直感しました。宣伝プランも徹底的にこだわり、公開の3ヶ月も前から、スティーブン・スピルバーグ監督本人が登場する1分間のロングCMを大々的に放映しました。監督自ら「こんにちは、日本の皆さん」と呼びかけ、未来の物語を語る異例のCMは、日本の観客の期待感を極限まで高めることに成功しました。後に、スピルバーグ監督からサイン入りポスターが届きましたが、これは『マトリックス』のウォシャウスキー監督姉妹からのものと並んで、私の人生一番の宝物です。
印象に残った「超一流」の流儀、クリント・イーストウッド監督
――数多くのスターや監督とお仕事をされてきましたが、特に印象に残っているのは誰ですか?
アイアトン:それはぜひ本書を読んで確認していただきたいのですが、あえて一人を挙げるとすれば、やはりクリント・イーストウッド監督ですね。彼の仕事の流儀には、世界基準のプロフェッショナリズムが詰まっていました。最も驚かされたのは、『硫黄島からの手紙』におけるキャスティングです。当時、ある国民的人気グループのメンバーがオーディションを受けましたが、アイドルとしてのイメージが非常に強く、周囲にはその演技力に懐疑的な見方をする人も少なくありませんでした。しかし監督は、肩書きや先入観を一切排除し、カメラテストの映像だけを見て「彼だ!」と即決したのです。超一流の監督は、俳優を肩書きではなく「演技」という本質で判断するのだと教えられました。
宣伝への考え方も独特でした。予告編に過剰に感動を煽るような音楽をつけようとしたら、「それは俺の映画ではない」と却下されました。今の予告編やCMは過度に感情を煽る演出が多すぎるように感じますので、監督の揺るぎない美学に、私自身も改めて学ばされる思いでした。
また、現場での忘れられないエピソードがあります。主演の渡辺謙さんは、自らが演じる栗林中将への深い敬意から、中将の故郷である長野から汲んできた「故郷の水」を硫黄島へ持参されました。硫黄島は川も湧き水も一切ない、水のない島です。そんな乾いた地に、中将の魂のために水を捧げたいという謙さんの心遣い、そしてそれをしっかりと覚えていた監督の想いが献水という形で結実した際、現場は非常に厳かな空気に包まれました。名優と巨匠の間に通い合う深いリスペクトを感じた瞬間でした。
『デスノート』から始まった邦画製作と「和」の尊重
――洋画の宣伝だけでなく、ローカル・プロダクション(邦画製作)を立ち上げられたことも大きな転換点でした。
アイアトン:そうですね。洋画の勢いが落ち着いていく中で、新たな収益の柱を模索する必要がありました。その足がかりとなったのが『デスノート』です。
この作品では、日本映画界初の試みに挑戦しました。前編を劇場公開し、その半年後の後編公開直前に、前編の特別版を地上波で放送するという戦略です。外資系企業としてのフットワークを活かしたこの大胆なプロモーションが功を奏し、後編は52億円という驚異的な大ヒットとなりました。
――その後、邦画製作へ本格的に参入される際、業界の反発などはありましたか?
アイアトン:日本の映画産業は、長年の信頼関係に基づく横のつながりが非常に重要です。そこで私は、外資である我々が利益を独占するのではなく、業界全体の「和」を尊重し、共生する道を選びました。日本のマーケットで長期的な信頼を築くためには、共に歩む姿勢が不可欠だったのです。
シネコン化と「邦高洋低」の目撃者
――アイアトンさんの映画業界への入り口についても伺いたいのですが、お父様の影響も大きかったのでしょうか。
アイアトン:そうですね。父は英文の映画業界誌を発行しており、子どもの頃からその仕事を手伝っていました。1963年にはアカプルコの映画祭で名作を観るなど、幼い頃から業界の空気に触れて育ちました。
――業界の変遷も間近で見てこられましたね。
アイアトン:大きな変化の一つはシネコン(複合映画館)の普及です。1993年に国内1号店をオープンさせた際、当時は大都市を中心に伝統的な興行網がしっかりと確立されていました。私たちはあえて既存の市場と直接競合するのではなく、パートナー企業の拠点が多かった郊外の商業施設を中心に展開するというアプローチをとりました。これが観客の選択肢を増やし、それまで映画館から足が遠のいていた層を掘り起こすことにつながったのです。
ワーナーの日本劇場配給事業の終了と、未来への架け橋
――ワーナーが日本での劇場配給事業を終了し、東宝東和へ移行するというニュースがありました。
アイアトン:ハリウッド全体が激動の再編期にあります。ストリーミングサービスの台頭もあり、映画産業の仕組み自体が相当変わってきている。私の古巣でもある東宝東和なら、作品への深い愛情を持って、これからも素晴らしい映画を届けてくれると信じています。
――最後に、本書を執筆された思い、そして読者に伝えたいメッセージをお聞かせください。
アイアトン:これまでの実績は、決して私一人の力ではなく、日米の多くの仲間たちとの信頼関係によって生まれたものです。
本書の核にあるのは、この「関係性」の物語です。華やかなスクリーンの裏側は、誰かを信じ、夢を託し、共にリスクを負う相互の信頼によって成り立っています。これから新しい道を切り拓いていく若い読者の皆様やビジネスパーソンには、業界の表層的なきらびやかさだけでなく、その背後にある「人と人とのつながり」から、ご自身の人生を変換するヒントを受け取っていただけたらと願っています。
現在は自身の会社を立ち上げ、マーティン・スコセッシ監督も関心を寄せていた『東京アンダーワールド』の映像化プロジェクトを進めています。時代が変わっても、人と人とを繋ぎ、最高のエンターテインメントを世界に届ける私の挑戦は続きます。

■書誌情報
『日米映画の架け橋 ラストサムライ 2393億円の男』
著者:ウィリアム・アイアトン
価格:1,870円(税込)
出版社:双葉社
発売日:2026年5月7日(木)



























