「68歳児」みうらじゅんのロッケンロールな老い方とは? 叫べ「老い~~るショック!!」

老いを笑いに変える「アウト老」の極意

 「老いるショックがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」

 そんな愉快な書きだしではじまる、みうらじゅんの新刊『老いるショック大賞』が筑摩書房から刊行された。読者から大量に寄せられる「老いるショック」報告にMJ(みうらじゅん)がつぎつぎ答えていく、『通販生活』ミニマガジン「益軒さん」の人気連載が待望の単行本化。加齢とともにやって来る、シワ、タルミ、もの忘れ……そんなマイナスと思われてきた要素を、「老い~~るショック!!」の一語で笑いに転化し、明日を生き抜く活力に変えていく、MJによる新たな試みが堪能できる一冊だ。今回のインタヴューでは、「耳毛はロッケンロール」、「鼻毛はフレッシュ」など毛(け)ったいな話から、果てはお釈迦さまの説く「真理」まで、老化現象との愉快な付き合い方について、「アウト老」みうらに様々な角度から聞いた。

68歳児みうらじゅんが深夜放送のノリで開く、老いるショック大賞

みうらじゅん氏

——「老いるショック」という言葉を思いついたきっかけは?

みうらじゅん(以下、みうら):早い段階で思いついてはいたけど、還暦の時は「まだ使うのは早い」と思ってました。僕の身体に老いるショックが来ないと説得力がないから、タイミングを待っていたと言っても過言ではありません(笑)。製品と同じで人間もガタが来るのは当然だし、それに反発したくないとは思ってましたから。あと、若い頃から僕は「老けづくり」のファンだったのもありますよ。

——「老けづくり」の代表として、本書にはザ・バンドの名前も出てきますね。

みうら:そう、ザ・バンドのメンバーは、当時はイギリスでデヴィッド・ボウイやT・レックスがグラムロックで派手にやってる一方で、老けづくりを始めてましたからね。ロックってそもそも「人と同じことはやらない」というアンチの精神がありますからね。そこにグッときました。

——本書でラジオDJがリスナーのハガキに答える形式をとったのはなぜですか?

みうら:単行本化の際にそうしました。僕はいま「68歳児」なんですけど、バリバリの深夜放送世代で、いわばハガキ職人第1号だったもんで。みなさんの老いるショック報告に僕がDJとして答える体裁が面白いかなと思ったわけです。きっと投稿側も深夜放送のノリで送ってくださるんじゃないかとね。採用されると商品がもらえることもあって、毎月すごい数のハガキが届く。連載も5年を超えると、「こういうネタが選ばれやすい」っていう傾向と対策まで考えておられるのでは?

——「スマホで通話中にスマホを探す」といった、似た傾向のネタも多いですね。

みうら:老いはシリアスになりがちだけど、「大賞」という場があれば、自分の老いを面白く脚色しようとされるのではと思ってます。「どうすれば採用されるか」と考える段階で、すでにエンタメが始まっているとも言えますね。

——80代女性の「目尻のシワで蚊の足をキャッチした」という報告も、笑えるけど「本当か?」と(笑)。

みうら:面白さ優先に頭が切り替われば、蚊をキャッチしたほうが断然いいと思われたのでしょう(笑)。こうした工夫が、どうしようもない老化を面白がる力に繋がりますからね。

意味より勢い! 痛み出したら「老い~~るショック!!」

——書き出しの「老いるショックがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」も衝撃的です。

みうら:もちろんビートルズの映画の邦題をもじっただけですが(笑)別に意味なんてなくていい、勢いなんですよ。今は何にでも意味を求めがちだけど、響きがおかしいだけでいいのでは。投稿者も同世代なら、「老い~~るショック!!」の元ネタがクイズ番組の「タイムショック」だと分かってらっしゃると思います。病院で「老化だから仕方ない」と言われたとき、深刻になるか、笑いに転じるか。その後者が「老いるショック」なんですよ。

——ダジャレの響きに救われることはありますよね。以前みうらさんが、網タイツの質感を確かめるなかで生まれた現象を「膜張(まくはり)メッセ」と名づけていたのが忘れられません(笑)。

みうら:『タモリ倶楽部』の特集で、タモリさんと二人で美脚を披露しながら、ストッキングを深く追求した時に出た言葉だと思います(笑)。実際に身をもって体験していないと、こういう造語は出てこないでしょ? 僕の造語はダジャレだけじゃなくかなり実体験に基づいているというか、やっぱりリアリティが欲しいじゃないですか。

——生活に根ざしたリアリティがないと、笑いには繋がらないと。

みうら:ですね。実際にやってみた時のおかしさ、対象そのものよりも「そんなことをしている自分がおかしい」という視点が、笑いに繋がるんじゃないかと。

鼻毛は「フレッシュ」角を立てずに可愛く言うセンス

みうらじゅん『老いるショック大賞』(筑摩書房)

——37歳の僕ですが、先日ついに耳毛を見つけてしまって……。

みうら:やったじゃないですか。それ、立派な「老いるショッカー」の仲間入りですよ(笑)。加齢による変化をマイナスではなく、プラスに転化するのが「老いるショック」。僕も耳鳴りがひどいけど、「耳にセミを飼ってるんだ、年中夏休みだぞ」と思い込むことで少しは楽しくなる。耳毛はむしろ伸ばしましょうよ。

——本の中では、黒澤明監督の耳毛についても触れられていましたね。

みうら:黒澤明さんや川内康範さんの耳毛は、風格があっていいなと思ったものです。それは「人の意見に左右されない」という信念の象徴とも言えるんじゃないですかね。そんな耳毛を生やしてる人に、外から余計な口出しなんてできないじゃないですか(笑)。

——耳毛はロッケンロールだと(笑)。

みうら:ですね、ロッケンロールです。かつてのロン毛がロックの象徴だったように、耳毛も長いほうがいいに決ってます。伊勢エビの髭と同じで、実はとても縁起がいいんじゃないですかね。

——ほかにも、目元のたるみが出たオイルショッカーの方に、「タルミン」と名づければいい、というセンスには脱帽しました。

みうら:加藤一二三さんの「ひふみん」現象と同じですからね(笑)。

——耳毛や鼻毛も、可愛く呼べますか?

みうら:以前「フレッシュ」と呼ぼうと提案したことがあったんですけどね。身近な人に「鼻毛出てるよ」とは言いづらいけど、「フレッシュ出てますよ」なら角が立たないかなと。関西ではコーヒーフレッシュを単に「フレッシュ」とはしょりますが、大事な部分をはしょって台無しにするセンスが大切なんですよ。

——その「はしょり」が造語の鍵なんですね。

みうら:そうとも言えます。どんな偉い方でもはしょってみれば、「ケンイコスギ(権威濃すぎ)」な感じが消えて面白くなるもんですよ。結局、「プライド」と書いて「しょうもない」と読む、あの自尊心が問題なんです。それをいかに削ぎ落とせるかで、老いるショックをいかに楽しめるかが決まるんです。

人生に早送りはいらない、「焦らし才能」こそが贅沢の極み

——ドラマの内容がわからず何度も巻き戻す読者に、「人生で一番いらないものは早送りです」と断言されていましたね。

みうら:昔、ビデオデッキを使い始めた時、なぜ早送りなんて機能があるのか疑問だったんです。でも、娯楽作品で「見たい場面」だけを急いで見ようとする風潮に気づいて合点がいきました。かつての名作にあった、結末に向けてじわじわと気持ちを高めていく「焦らし」の美学が、早送りのせいで損なわれてしまったわけです。大切なプロセスを省くのは、人間にとって大きな損失ですよ。

——今の倍速視聴世代に対する、鋭いアンチテーゼにも聞こえます。

みうら:いや、焦らされる時間こそが、実は一番贅沢なんですって。今は効率ばかりが優先されて、日本人の「焦らし才能」が欠損してしまったように感じてます。

——焦らし才能、ですか!

みうら:それがないと、年を取ってから困りますからねぇ。何でもすぐに結果を求めず、焦らして、焦らして、楽しみを長引かせていかないと、すぐに飽きが来ちゃいますからね。

——『あさりちゃん』全100巻以上を、一冊ずつ買って集めるという「焦らしプレイ」を実践されていますが、読んでいるんですか?

みうら:少しは(笑)。

——やっぱり(笑)。以前、あるレコードを紹介された際も、キャプションに「もちろん聞いてない」と書かれていました。

みうら:いや、集めるのに夢中な者にとっては当然なことですよ(笑)。目的はやっぱり一つに絞るべきなんだと思うんですが。本の場合、読んじゃったりすると、満足しちゃう可能性あるでしょ。人間には「飽きる」っていう才能が備わっていて、普通にしていれば4年で次に移っちゃうように仕込まれてるんです。それをいかに遠回りするか、どれだけ長く引き延ばせるか。それが目的だと思っているんですよね。

しょーがないことには、しょーもないことをぶつける、それがアウト老の道

——世間ではアンチエイジングが主流ですが、自分を貫く「アウト老」の方がかっこいいと感じます。

みうら:「アウト老」にはかっこいいとか、かっこわるいはありませんからね。「真理」を言っているだけなんですよ。流行に乗っているだけだと、いつかその流行に放り出されてしまいますから。

——これはやっぱり、みうらさんの仏教の諸行無常とかにも関わってるんですかね。

みうら:仏教中学・高校に行ったけど、本当は仏像が好きだっただけで、「教」がつくものはあんまり好きじゃないんですよ。ただ、仏陀ファンではあるかもしれないですね。仏教というか、哲学なんじゃないですかね。やっぱ、「空」の発想はすごいと思うんです。見えているだけで実体はないんだから、きっと老いや若さで悩むのは変だって言っておられる気がします。

 そもそも、老いや死への恐怖を広めているのは、世の中の「不安商売」だと思うんです。不安を煽らないと、ものは売れない。でもよく考えたら「安定」なんてものも存在しないじゃないですか。結局、老いはしょーがない。お釈迦さんも未来のことを聞かれて何も答えなかったそうですが、老化も考えても仕方のないことなんです。そこに反発して「どうにかしたい」と考えるから悩みが発生する。だったら、しょーがないことには「しょーもないこと」で対処する。それが『老いるショック大賞』を始めた理由です。

——ビートルズ的に言うと、老いは「レット・イット・ビー(なすがままに)」なんですかね。

みうら:ビートルズも真理を歌ってますからね(笑)。でも、『老いるショック大賞』に応募して、「あれ面白かったね」と言われたら嬉しいっていう、マイナスなことでも、褒められると嬉しいみたいな。そこを「大賞」と呼ぶことで、ちょっと気持ち良くなれるんじゃないかなっていう企画なわけです。世の中には、しょーがないことをだらだら考え悩む人もいるけれど、そこは割り切って「老い~~るショック!!」っていう言葉で少し解消できれば、また前に進めるのになぁと思うんですよね。

■書誌情報
『老いるショック大賞』
著者:みうらじゅん
価格:1,540円
発売日:2026年5月9日
出版社:筑摩書房

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