ラブコメはどのように発展してきた? 少女マンガ好きの必読書『恋愛少女マンガ全史』

評論家として多彩な活動をしている長山靖生は、近年、『萩尾望都がいる』『SF少女マンガ全史 昭和黄金期を中心に』と、少女マンガ関係の著書を上梓している。そしてついに、少女マンガの王道である恋愛ものに取り組んだ。『恋愛少女マンガ全史 ラブコメと若者文化の変遷を探る』である。恋愛ものやラブコメの流れを俯瞰した意欲作だ。少女マンガ好きなら、必読といっていい。
著者はまず、日本のマンガの歴史を簡潔に述べながら、手塚治虫の『リボンの騎士』や、ちばてつやの『島っ子』『ユカを呼ぶ海』などに触れていく。そして“恋愛少女マンガを語るうえで、最も重要な人物のひとり”だという水野英子の作品とマンガ家としての軌跡に筆を伸ばしていく。それと同時に、神話・伝説や歴史(架空の国や異世界のファンタジーを含む)に材を取った壮大なドラマーー著者のいうところの「大ロマン」が、いかにロマンチック・コメディになり、さらにロマコメへと変わっていったかを検証。ハリウッド映画のロマンチック・コメディである、『ローマの休日』の同名コミカライズと、『麗しのサブリナ』のコミカライズである『すてきなコーラ』を“原作自体がロマンチック・コメディだったので、当然ながら水野作品もそうしたものになっています。つまりロマコメの始まりです”といっている。著者は映画や服装といった文化や、戦後の時代の動きを踏まえながら、恋愛マンガの流れを追っているのだ。なお、本書の刊行と踵を接するように、水野英子の聞き書き『水野英子のすてきな冒険』が中央公論新社から出版された。こちらも興味深い話が満載なので、併せてお薦めしておきたい。
と、この調子で取り上げているマンガ家と作品を詳しく見ていると、いつまでたっても終わらないので、少し絞ってみよう。個人的にもっとも楽しく読んだのが、第3章「ラブコメは何を描いたか――西谷祥子・忠津陽子」である。いや、西谷祥子と忠津陽子が、どちらも大好きなマンガ家だからである。ロマコメがラブコメへと変化した瞬間を、著者はマンガ評論の泰斗であった米沢嘉博が、西谷祥子の『マリイ・ルウ』と『レモンとサクランボ』の間にあると指摘しているといい、米沢の文章を引用しながら、より深く掘り下げている。詳しいことを知りたい人は、是非とも本書を手にしてほしい。また、『高円寺あたり』など、恋愛要素の薄い作品にも目配りしており、西谷作品の特徴が、しっかり捉えられているのだ。
一方、忠津陽子は、『お金ためます!』『美人はいかが?』『ハロー!王子さま』など、これぞラブコメといいたくなる、明るく楽しい作品を、次々と発表して大きな人気を獲得した。著者は、忠津作品のヒロインについて“ちゃっかりかわいいがキーワードになるでしょう”といっているが、同意するしかない。なお、2021年に立東舎から、図書の家編集の『ザ・少女マンガ! 忠津陽子の世界 ラブコメディのスペシャリスト』という本が刊行されている。収録された絵と短篇もよかったが、ロングインタビューと作品リストが有難かった。
その他、第5章「恋愛と欲望をめぐるラディカルな探求――大島弓子・山岸涼子」の、大島弓子について書かれた部分は、圧巻の読みごたえだ(もちろん山岸涼子のパートも凄い)。しかも最初に“特に大島ファンには「大島作品は男には分からない」”といわれているという文章をあえて置くことで、これが男性視線による大島弓子論であることを表明していると思われる。
以後も著者は、重要なマンガ家とその作品に注目しながら、現代まで恋愛少女マンガの歴史を書き切っている。ただ、恋愛少女マンガはあまりにも膨大であり、どうしても点と点を繋ぐ形にならざるを得ない。また、「あとがき」で“どうしても自分が十代の頃にドキドキしながら読んだ作品に比重が行ってしまうのは如何ともし難いところがありました。すみません”といっているように、作品にいささかの偏りを感じないでもない。個人的には「なかよし」で活躍していた原ちえこや曽祢まさこといった作家の作品も論じてほしかった。しかしそれは贅沢な文句である。本書によって、恋愛少女マンガの世界は、すこぶる見通しがよくなった。今後、恋愛少女マンガについて語ろうとしたとき、欠かすことのできない貴重な一冊なのだ。

























