令和ロマン、M-1グランプリ連覇の理由 高く評価されていた「劇場」と「漫才」への真摯な姿勢を識者が分析
「今回の『M-1グランプリ2024』(以下、M-1)は令和ロマンの高比良くるまさんが作った空気で始まり、思い描いたとおりに終わった。まさにネタで『制圧した』という感じがしました」今年のM-1を振り返り、そう総括するのはこれまで多くのお笑い芸人にインタビューしてきたライターの鈴木旭氏だ。
2023年にM-1優勝に輝いた令和ロマン・髙比良くるまが、番組終了間際に「来年も出ます!」と宣言し、その宣言通り、2024年の大会にもエントリーし、見事決勝ラウンドに進出。昨年に続き、1stラウンドで不利と言われるトップバッターに選ばれながらも2位で決勝ラウンドに進出。決勝ラウンドではトップ通過のバッテリィズ、真空ジェシカと争い、審査員から9票中5票を獲得し、文句なしの優勝となった。
🏆M-1グランプリ2024🏆
史上最多10,330組の頂点に輝いた
記念すべき20代目王者は…👑 #令和ロマン 👑https://t.co/tUeUNIjjt3#M1 #M1グランプリ pic.twitter.com/Y1IUk9XQSM
— M-1グランプリ (@M1GRANDPRIX) December 22, 2024
過去最多となる1万330組がエントリーし、近年最もハイレベルでありながら前代未聞の「M-1連覇」という結果となった令和ロマン。大会前には何が起きていたのか、その背景から紐解き、大会当日披露されたネタ2本を「分析」しながらともに振り返ろう。
出場枠を奪うことになっても嫌われなかった理由は?
前代未聞の「M-1連覇」だが、まず大会そのものよりも前に「昨年優勝したコンビが2年連続出場」したことが注目ポイントだ。
本大会のオープニングで、大会創設者である島田紳助氏が「いつまでもM−1が夢の入り口でありますように」というメッセージを綴ったように、M−1グランプリはこれまで多くの無名芸人が一気にスターダムをのしあがるための場でもあり、まさに「夢の入り口」。今年初めて審査員を務めたオードリー・若林正恭も2008年大会で敗者復活から這い上がり結果として2位に輝き、2024年2月には東京ドームライブを超満員で成功させるほどのスターになった。番組中でも若林が「M-1に人生救ってもらったんで一生懸命審査します」と発言していたように、多くの芸人が世間に発見してもらう最高の舞台としても、その役割は重要だ。
「M-1グランプリ」は今年で20回目という
大きな節目を迎えました。
先ほど始まった番組の冒頭にOAされたのは、
大会創設者の島田紳助さんから寄せられた
M-1、そして、漫才師の皆さんへのメッセージです。夢の舞台がいよいよ開幕します。
ぜひお楽しみください。 #島田紳助#M1 #M1グランプリ pic.twitter.com/Smu75Dkrxl— M-1グランプリ (@M1GRANDPRIX) December 22, 2024
そんな晴れ舞台に昨年チャンピオンになった令和ロマンが今年もエントリーし、結果として決勝に出場する枠を一つ奪うことになったわけだが、エントリーしたことに驚きはありつつも非難する声がほとんどなかったのも興味深いポイントだ。その理由には「令和ロマンは劇場に嫌われなかった」ことが大きかったという。
「くるまさんは昨年の優勝後に『自分が向いていないと思った番組には出ない』ということを公言していました。一年の中盤から後半にかけて結果的にはいろんなメディアに露出しましたが、それでも令和ロマンはM-1優勝イヤーとは思えないほど多くの劇場に出演しています。『2024年もM-1に出たい』という意向もあり、ネタをブラッシュアップする必要があったのでしょう。所属している吉本興業は劇場を中心とする事務所なので、双方にとってwin-winだったのだと思います。加えて、令和ロマンの選択は、劇場に足を運ぶような熱心なお笑いファンの心を掴んで離さなかった。なにより、『漫才』に真摯に向き合う姿勢がお客さんにも芸人側にも伝わっていたので、嫌われることはなかったんだと思います」(前出)
優勝することよりも「大会を盛り上げたい」
さて、次に注目すべきは決勝1stラウンド。大会恒例の「笑神籤(読み:えみくじ)」でネタを披露する順番が決まるルールで、そのくじを引く役割を担うゲストの一人として最初に登場したのが東京・パリ五輪で金メダル連覇を達成した柔道日本代表・阿部一二三。自分自身がオリンピック連覇を達成していることから、注目しているコンビの名前として「令和ロマン」をあげたが、その直後に引いたくじに書かれた名前は奇しくも令和ロマン。2年連続のトップバッターとなった。
🏆#M1アナザーストーリー🏆
📺12/29(日)よる10:30~放送!https://t.co/am3cBCuCyYM-1史上初の二連覇を果たした第20代王者 #令和ロマン をはじめ、ファイナリストや敗者復活組の姿を累計数百台のカメラが追いました。
4分間にすべてを注ぎ込んだM-1戦士たちのドキュメンタリー!#M1 #M1グランプリ pic.twitter.com/lALav0mlBZ— M-1グランプリ (@M1GRANDPRIX) December 27, 2024
M-1のトップバッターは点が伸び悩む、ということは定説であり、審査員のかまいたち・山内も「(裏では)トップバター、マジで引いてくれるなと思っていると思います」と芸人側の心境を代弁していた。
実際、過去の大会でもトップバッターで優勝したのは第一回大会のグランプリの中川家と昨年2023年グランプリの令和ロマンの二組のみ。どんなに良いパフォーマンスをしても後から出てくるコンビがそれ以上の笑いを生むことを想定して、点数は意識的に抑えられるというのは広く知られているところだ。そんな不利な状況でありながらも令和ロマンは圧倒的なパフォーマンスを披露。96点をつけた審査員のNONSTYLE・石田明は「この後まだまだ出てくるんで高得点は本来つけづらいんですけど(中略)これは点数入れざるを得なかったですね」と絶賛。終わってみれば、1stラウンドを2位通過となる高得点だった。
「本来なら、『トップバッターは優勝できない』という固定観念があるので、選ばれた後は少なからず気持ちに揺らぎが出ると思います。ただ、そもそも令和ロマンは自分たちが優勝する、ということは二の次で、何よりも『大会を盛り上げたい』という気持ちが強い。だから、順番はあまり関係なかったんだと思います」(前出)
どういうことだろうか。