令和ロマン、M-1グランプリ連覇の理由 高く評価されていた「劇場」と「漫才」への真摯な姿勢を識者が分析
「くるまさんは、11月に発売された著書『漫才過剰考察』(辰巳出版)の中で、初めての決勝進出で『優勝してしまった』『まだ何も完成していないのに』と書いています。もっと芸歴を重ねて色々試したかったでしょうし、何より令和ロマンが優勝した2023年大会は決勝進出者の多くのコンビが言うように『大会があまり盛り上がらなかった』という認識があるようで、今年は自分たちがどうあれ大会をまず盛り上げたいという想いがあったと思います」(同・前)
そのスタンスは、7月に開催された漫才、コント、ピン芸などジャンルに制限のない、若手お笑い芸人の登竜門といわれる『第45回ABCお笑いグランプリ2024』でも垣間見えたという。
「令和ロマンは昨年のM-1優勝後に『ABCお笑いグランプリ』(以下、ABC)にも挑戦し、優勝しています。これまではABCで優勝してからM-1に挑むのが通例でしたが、彼らはあくまでもABCをとりにいった。すでにM-1チャンピオンの自分たちが大会に出れば周囲から煙たがられることをわかったうえで、ヒール役に徹して番組を盛り上げたんです」(前出)
もちろんそれだけが1stラウンドの高得点となった高いパフォーマンスの理由ではない。不利な状況を圧倒的手腕で自分たちの空気にするのは、令和ロマンにとってむしろ得意とする状況だという。
「歴代大会を見てもトップバッターは緊張しているし、ネタを披露するモチベーションにも影響していたはず。一方で、くるまさんは1stラウンドの登場シーンで『終わらせよう』と発言してから、一気に自分たちの空気にしてしまった。小さな頃、明石家さんまさんや島田紳助さんの圧倒的な司会ぶりにあこがれていたそうで、たびたびくるまさんは『制圧してる人が好き』と口にしていますが、まさに今回のM-1を『制圧』したという印象です。また、トップで貫禄のあるパフォーマンスを発揮できたのは、『テレビに出ない』といった物議を醸す発言やABCでの優勝など、一年かけてヒールっぽいキャラクターを作り上げていったことも大きいと思います」(前出)
明日12/14(土)17時からの
ゲストは #令和ロマン #髙比良くるま さん✨ルーツとなった”制圧お笑い”とは?
今後の #M1グランプリ はどうする!?など
くるまさんと1対1でじっくりトーク!#radiko で聴けます📻https://t.co/0GBEgxc8PR#TOKYOFM pic.twitter.com/UN0DYK7x5r— 川島明 そもそもの話 (@somosomo_no) December 13, 2024
「演じ分け」× 「設定」の巧みさ
最後に、令和ロマンのネタの内容に注目してみよう。トップバッターとして披露したのは、年齢を問わず誰しもが理解できる王道のしゃべくり漫才だった。
「どんな人にも伝わりやすいネタを披露したのも高得点につながったポイントだと思います。一本目は『クラスの座席で渡辺のように出席番号が後ろの人は余裕がありそう』というテーマのしゃべくり漫才を披露。配られたプリントが余ったら後ろの席の人が先生に届ける…など誰しもが体験したことがあるエピソードは想像しやすい。もともとはラジオ『令和ロマンのご様子』内のコーナー『松井さん、これって思うの私だけ?』でリスナーから送られてきたメールから着想したネタです。その回の配信日が10月28日。フレッシュなネタだったため、既視感もなかった。コアなファンにも新鮮に受け取られたと思います」(前出)
歴代の優勝コンビの例を見ると、これまで知られていないコンビが新鮮なネタで1stラウンドを爆発させ、2本目も同じスタイルの漫才を披露して王者となるケースがほとんどだった。2022年までの大会なら、1stラウンドで1位になったバッテリィズがその勢いのまま優勝していただろう。しかし、令和ロマンはそれを覆した。昨年、今年、ともに2本目に披露したのは、スタイルの異なる漫才コントだったのだ。
「2本目は『戦国時代にタイムスリップした現代人』という漫才コント。2023年大会で披露したクッキー工場に職人やトヨタ社員、吉本興業社員が出てきた2本目と同様に、殿や敵軍など何人ものキャラクターが出てくるネタでした。コントは登場人物が増えていくほどにお客さんに伝わらないリスクがあるので、多くの芸人は避けがちですが、くるまさんはキャラクターを演じ分けるのが本当に上手く、客にも伝わりやすい。また、今年話題になったドラマ『SHOGUN 将軍』を彷彿とさせる設定で、そもそもネタを見る人がイメージしやすいように作られている。自分たちの得意分野を見極めながら、設定などの準備を万全に整えていることも彼らが堂々として見える大きな理由の一つではないでしょうか」(前出)
このように大会全体を振り返ってみると、令和ロマンの連覇は必然だったようにも思える。流れを掴む度胸や精神力、どんな観客にも笑いを伝える実力と分析力。ハイレベルな今大会を圧倒的な結果で制圧したことで、令和ロマンの「新時代の王者感」をさらに知らしめた大会になったのではないだろうか。