令和ロマン・髙比良くるま、M-1優勝後の1年「すさまじい密度」振り返る 初著書『漫才過剰考察』インタビュー
そんな令和ロマンの髙比良くるまが、11月8日に初の著書『漫才過剰考察』(辰巳出版)を刊行した。著者が「現状M-1に向けて考えられるすべてのこと、現在地から分かる漫才の景色、誰よりも自分のために整理させてほしい」と語る本著。漫才にかける思いを聞いた。
相手が泣くぐらい喋っちゃうんです(笑)
ーーまずは、初の著書刊行おめでとうございます。東西南北のお笑いの違いについてや、予選から見るファンによる「ネタバレ」の問題についてなど、今年のM-1のガイドブックにもなりそうな濃密な考察が詰まった1冊ですね。くるま:ありがとうございます。もともとは『コレカラ』というWebマガジンでの連載だったのですが、そのときとは状況や考え方に変化があったので、元の原稿を9か月かけて加筆修正したんです。M-1についてと寄席について、あえて理路整然とさせずにしようと、頭から終わりまでバーっと書いてそれで見えてくるものを目指そうと思いました。俺が喋っているのを聞くように読んでくれたら嬉しいですね。
ーー『漫才過剰考察』は2023年のM-1グランプリ決勝10日前のインタビューから始まっています。どのような1年でしたか?
くるま:年々1年が長くなっているんですが、今年はとにかく長かったですね……。「まだ10月……?」って。今年が残り2か月以上もあることに本気で驚いてます。
ーー世間では「もう10月?」といった言い方をすることが多いですが、くるまさんの場合は逆なんですね?
くるま:逆にみんなどうやって生きてるんですかね? 同じことを繰り返していくと、おそらくそれに慣れてしまって時間が短く感じるんですけど、新しいことが増えたら体感時間もその分長くなるじゃないですか。
ーーたしかにそうですね。
くるま:俺の場合は20代後半ぐらいからやることがどんどん増えてきていて、時間の流れがすごく長くなっているんです。今年はそれが特に顕著で、M-1優勝してからの毎日がまったく読めなくて1日1日がとにかく長い。長すぎて濃すぎて俺どうなっちゃうんだろうって思ってます。もうここからあと2か月もあるのかよって。来年がまじで遠い……。
ーー今回の本でも、あらゆることに準備をして対策を練り、考察を重ねている様子が書かれていますが、それが“濃い”1年に繋がっているんでしょうか。
くるま:考えちゃうんですよね。ぼーっとする時間がすごく苦手で、何に対しても真剣に考えてしまう。人と会っているときもそれは同じで、すっごく本気で喋っちゃう。相手が泣くぐらい喋っちゃうんです(笑)。
ーー泣くぐらい! それはお酒の席の話ですか?
くるま:そうなんですよ。今よりもさらに大きな声でさらにスピードを上げて喋ってしまって、初めて飲む相手なのに一緒に泣いたこともありました。自分でも信じられないんですけど、それだけ本気で相手と向き合うし、思ったことを全部喋っちゃうから。
ーーめちゃくちゃ熱い話ですね。くるま:2年前の「ABCグランプリ」でも、ダウ90000の蓮見(翔)と中島(百依子)とれなちょ(吉原怜那)と4人で打ち上げをしたんですが、気づいたら2人が泣き出し、3人が泣き出し……。「おまえ何泣いてんだよ!」って言ったら中島に「くるまさんも泣いてるじゃないですか~」って指をさされて、自分が泣いてたことにも気づかなかった(笑)。『勝男』っていう大阪で一番安いプレモル180円の居酒屋だったんですが、4人とも大泣きで自分で驚きました。
ーー昨年の『M-1グランプリ』優勝時も涙を見せなかった令和ロマンとしては意外な姿です。
くるま:そうかもしれません。でも、それだけ真剣に喋りたいんですよね。今、永野さんとやっている『永野&くるまのひっかかりニーチェ』(テレビ朝日系)でも1回の収録で1度も休憩を挟まず、2人で延々と喋ってるんです。15分の番組なのに4本撮りで収録は4時間ぐらいかかるんですが、その間マジで! 一回も休憩してないんです! 周りのスタッフは休憩してカメラも完全に止まってるのに俺ら2人だけ席からも離れず、ずーっと喋ってる。トイレに行くときも2人で喋りながら歩いてというぐらいで、スタッフに「もうやめてください……」って制止されるという(笑)。
ーーくるまさんの「テレビは基本的には出ない」という発言が優勝後に注目を集めましたが、出演されている番組ではどれも活き活きした姿が印象的です。
くるま:テレビに関しては、優勝後に番組を全部回ってうまく行った人もいる。回ったけどうまく行かなかった人もいる。回ったけど「実は辛かったんです」みたいなあるあるもある。そういうのを色々聞いた後で、じゃあどうしようと。視聴者の気持ちになったときに同じことをやるのは飽きただろうと思って、それまでのチャンピオンとは違うことをやってみたかったんです。
ーーなるほど。
くるま:あとは、こんなことを言ったら元も子もないですけど、大事だなと思うポイントとして、おそらく自分たちが歴代チャンピオンの中で一番稼いでるんじゃないかと。
ーーおお!
くるま:それだけ仕事をしたという自負があるんです。だからよく「テレビに出ない」と言ったことで吉本から恨まれているだろうと思われることがあるんですが、まったくそんなことはないんです。劇場も今年は600ステージぐらいは立って、グッズも売って、単価も上げたうえでサボらず効率的にやってるから。広告にだって出演して、こうやって本まで出させてもらってる。賞金も取ってる。テレビ回ってた人よりも俺らのほうが絶対に吉本に貢献してると思ってます。ダントツだと思いますよ!
ーーお金の事情を正直に話すのもそれまでのチャンピオンとは違う点ですね。
くるま:ここがまた皆さんに共感されないところなんですが、それはまあしょうがない。でも、一年を通して、やって見せた意味はあったかなと思ってます。