『不器用のかたち』『漫才過剰考察』『ミスター・チームリーダー』……新しく何かを始めたい人にオススメの3冊

ボディビルに勤しむサラリーマン
何かを始めるにあたっては、限られた時間や労力をどう配分するか、バランス感覚も重要となる。11月20日に発売された石田夏穂『ミスター・チームリーダー』(新潮社)は、まじめな社会人が趣味に仕事に全力投球しすぎた顛末を描く、コミカルでありながらどこか不穏な雰囲気も漂う小説である。
主人公の後藤は、大手リース会社に勤める31歳の会社員。取引先からのウケも良く、所属する部署の係長に抜擢されたばかりだ。そんなデキる男のもう一つの顔が、ボディビルの〈そこそこ中堅の選手〉である。開催の近づく大会で、これまでより階級を落とした75キロ以下級へ出場するために減量中の後藤。だが会社の慣習や余計な仕事が邪魔をしてきては、彼を苛立たせる。
減量時の誘惑となる、同僚から配られる土産のお菓子。トレーニングの予定を崩す、昼休み中の突然の来客。身体づくりに大敵なアルコールを摂取することになる、得意先との断れない飲み会。筋トレ代わりになるだろうと気軽に頼まれる力仕事は、すでに鍛えた筋肉が分解されてしまい迷惑でしかない。さらにストレスなのが、指示出しされるまで動こうとしない、怠惰な部下たちの存在だった。
ある日後藤は、打ち合わせをすっぽかした部下の配置換えを部長に進言してみる。どうやら通りそうな感触を得た翌朝体重計に乗ると、なかなか動かなかった体重が見事に減っていた。結局配置換えは実現し、一人減った部署では残りのメンバーがせっせと働くようになる。〈それは、何て気持ちいいのだろう。要するに無駄が削減されたということ。この気持ちよさは、減量が上手くいっているときの体感と同じ。昨日より体重が減っているときの感動と同じ〉。組織と身体、仕事と身体作りが不思議とシンクロし出し、心身ともに余裕を失っていく後藤。彼の限界を試すかのように、人減らしのチャンスと業務上のトラブルを次々と用意し負荷をかけていく作者は、まさに陰の鬼トレーナーである。
このようにバリバリ体育会系な本書で一服の清涼剤となる、トイレの洗面台で〈後藤はそのときだけ、飲み会のことを忘れた。トレーニングのことも食事のことも、体重のことも大会のことも忘れた。自分、いい身体してんなーと思ったのだ。自分の立ち姿にしげしげと見入った〉状態で、正気を取り戻す場面。いい趣味持ってんなーと、この時ばかりは主人公が羨ましくなってくる。

























