【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 歴史ミステリから珠玉の恋愛青春小説まで、注目の新刊をピックアップ

【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー

 『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介。今月は5タイトルをセレクト。(編集部)

桑原水菜『遺跡発掘師は笑わない マルロの刀剣』(角川文庫)

 「鬼の手」を持つと言われる、天才的な宝物発掘師(トレジャー・ディガー)の西原無量。亀石発掘派遣事務所(通称カメケン)に所属する無量が、各地の調査先で事件に遭遇する大人気ご当地発掘ミステリの最新刊は、名古屋市大須を舞台にした愛知編だ。

 無量は試掘発掘に出かけた寺院で、防空壕の中に埋められた正体不明の陶管を発掘する。調査をしたところ、陶製の土管の中には謎の刀剣が隠されていた。その後、土管の所有者を名乗る板垣辰五郎なる人物が現れ、保管庫に不審者が侵入する騒ぎも起きてしまう。旧陸軍の将校服を身にまとった不審者は、煙のように消え失せた。そして土管の調査を進める無量たちは、昭和19年頃から進められていた「マルロ」なる軍事機密に行き当たる。

 尾張徳川にまつわる史実と、戦時中の日本軍の動きが絡みながら進むストーリーはスリリングで、本作の醍醐味である歴史ミステリ要素を贅沢に味わえる一冊だ。シリーズとしても大きな動きがあり、無量の兄的存在の幼馴染で同僚でもある相楽忍が、突然カメケンを辞めてしまう。相棒が突如いなくなった無量は驚き憔悴するが、この巻を最後まで読んだ読者はさらなる衝撃を受けるだろう。

 今巻からは、韓国人青年のシム・ソンジュという新キャラも登場する。有名インスタグラマーであるソンジュは発掘の手伝いに加わるが、彼の手つきは素人ではなかった。新たに登場した無量のライバルは、今後も物語に刺激を与えていくに違いない。

近江泉美『深夜0時の司書見習い2』(メディアワークス文庫)

 札幌郊外に佇む私設図書館の〈図書屋敷〉。昼間は市民が憩うこの場所は、夜になるともう一つの恐ろしい顔をみせる。魔力をもった書物の見る夢が生み出した、異界の“図書迷宮”。図書迷宮は人間の想像力を糧に広がり、呪われたこの場所を歴代の図書屋敷の館長たちが守ってきた。

 物語の主人公は、家庭の事情で夏休み中に東京から図書屋敷の館長·セージの家にホームステイすることになった高校1年生のアン。図書迷宮の秘密を知ってしまったアンは、迷宮を管理する司書見習いとなり、セージを手助けしながらさまざまな本と人とを繋いでいる。

 札幌を舞台に繰り広げられるビブリオファンタジー第2弾では、太宰治の『走れメロス』、『国際版 少年少女世界童話全集』、そして『グリム童話集』の3作が物語の核になる。童話が関わるストーリーでは、図書屋敷の本が切り抜かれる事件をめぐる謎解きと、アンと義理の母親である千冬の家族の問題が交差しつつ進む。本作の大きな魅力である、本好きの心をくすぐる書物にまつわる描写と、ファンタジックで悪夢的でもある図書迷宮の世界はこの巻でも健在だ。

 2巻ではストーリーが図書屋敷の外にまで広がり、札幌の観光案内書としても楽しめる。都心にありながら別世界のように自然が広がる北大植物園や、本好きにはたまらないスポットである旧北海道庁立図書館をリノベした北菓楼のカフェなど、物語に登場する場所にも心が踊るだろう。

佐野晶『小説 きみの色』(宝島社文庫)

 『映画 けいおん!』や『映画 聲の形』などで人気の山田尚子監督の新作アニメ映画『きみの色』の公開に先駆けて、完全ノベライズが刊行された。

 カトリック系の虹光女子高等学校に通うトツ子は、子どもの頃から人の「色」が見える体質だった。彼女が最も心を惹かれるのは青色で、深みのある冴えたコバルトブルーをまとう同学年のきみに心酔している。成績もよく聖歌隊の部長を務める優等生のきみとトツ子は接点がなかったが、ドッジボールの大会で彼女のボールを顔面で受けてしまう。トツ子は内心喜ぶが、翌日きみは学校に退学届を出した。

 トツ子はきみを捜し回り、彼女がアルバイトする古書店のしろねこ堂に行き着く。そこでトツ子ときみは影平ルイという少年に声をかけられ、一緒にバンドを組むことになった。三人は離島の古教会で練習を始め、オリジナル曲作りにも取り組んでいくが……。

 幼い頃に習っていた大好きなバレエで挫折を味わい、「色」という他人には理解できないものを抱えているトツ子。周囲の評価や期待が重荷で、学校から逃げ出したきみ。県内トップの進学校に通って医者を目指しているが、音楽への憧憬を抑えきれないルイ。それぞれの悩みを抱えた三人が、バンドを通じて心を通わせていく音楽×青春小説の中でもとりわけ印象的なのが、トツ子の視点で描写される世界の独特の色彩だ。物語の舞台となる長崎の教会やステンドグラスとあわせて、読者をさながら万華鏡のような色の世界へと誘う。

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