杉江松恋×千街晶之×若林踏、2023年度 国内ミステリーベスト10選定会議 栄えある第1位の作品は?
恒例となりましたリアルサウンド認定国内ミステリーベスト10。投票ではなく、千街晶之・若林踏・杉江松恋という3人の書評家がすべてを読んだ上で議論で順位を決定する唯一のミステリー・ランキングです。2023年度についても2023年12月23日に選定会議が開かれ、以下の11作が最終候補として挙げられました(奥付2022年11月1日〜2023年10月31日)。この中から議論により1位の作品が選ばれました。選考の模様をお届けします。
『11文字の檻』青崎有吾(創元推理文庫)
『魔女の原罪』五十嵐律人(文藝春秋)
『鈍色幻視行』恩田陸(集英社)
『鵼の碑』京極夏彦(講談社ノベルス)
『悪逆』黒川博行(朝日新聞出版)
『幽玄F』佐藤究(河出書房新社)
『エレファントヘッド』白井智之(角川書店)
『あなたが誰かを殺した』東野圭吾(講談社)
『アミュレット・ホテル』方丈貴恵(光文社)
『化石少女と七つの冒険』麻耶雄嵩(徳間書店)
『可燃物』米澤穂信(文藝春秋)
まずは短篇集の順位から
杉江松恋(以下、杉江):まず、『化石少女と七つの冒険』の順位を決めましょうか。
千街晶之(以下、千街):はい。私は『本格ミステリ・ベスト10』(原書房)などで1位に投票し、2023年最大の収穫と評価しているのですが、残念ながら前作『化石少女』(徳間文庫)のネタばらしを盛大にやっていて、そっちを先に読まないといけないというハンデがあるんですね。なので推しづらい面があります。暫定的に8位ということでいかがでしょうか。
若林踏(以下、若林):11作の中に短篇集が『化石少女と七つの冒険』を含めて4作ありますね。その中の順位を決めてはいかがでしょうか。『可燃物』が、その中ではいちばん上だろうと思いますね。
杉江:新鋭の初短篇集である『アミュレット・ホテル』はちょっと分が悪いでしょうか。
若林:残る2作では、『11文字の檻』は『化石少女』より上にしてもいいと思います。ノンシリーズならではのバリエーションの多さがあり、アクションが素晴らしい「恋澤姉妹」から謎解き要素の濃い表題作まで、娯楽小説の振れ幅のようなものを体現した一冊です。
杉江:今回、呉勝浩『素敵な圧迫』(講談社)など、ノンシリーズ短篇集が他にもありましたが選外となったので、それらの友情パワーも『11文字の檻』は背負ってるんですよ(笑)。
千街:なんですか、その理屈は(笑)。では暫定7位ということでいいです。短篇集は『可燃物』『11文字の檻』『化石少女と七つの冒険』『アミュレット・ホテル』の順ということですね。
犯罪小説はミステリーの1ジャンル
若林:次は『鈍色幻視行』の処遇を考えたいと思います。恩田陸さんが長い年月をかけて完成させた新たな代表作で、作中作で大きな鍵を握る『夜果つるところ』(集英社)が独立した作品として刊行されたことでも話題になりましたが、同作と票が割れたのか、思ったよりも各種ランキングでは上位に来なかった。
千街:良作ですが、ミステリーとして見た場合は『化石少女と七つの冒険』より上ということにはならないのではないでしょうか。
杉江:『鈍色幻視行』はミステリー以外の要素でも評価すべき作品ですしね。諸要素を兼ね備えている。ミステリーの純粋さで麻耶作品が上ということでいいと思います。
千街:そうなると杉江さんが推している『幽玄F』ですよ。私も非常におもしろく読みましたが、犯罪や謎をメインとする描き方をしていない小説なので、ミステリーのランキングに入れるとなるとカテゴリーエラーではないかという気もします。
杉江:いや、ミステリーの1ジャンルである犯罪小説じゃないですか。
若林:同じ犯罪小説である『悪逆』と比べてはどうなんですか。犯罪小説の濃度としては『悪逆』を取るべきではないかと思いますよ。
杉江:それを言いますか(笑)。じゃあ、『悪逆』が上でいいですよ。でも『幽玄F』もすばらしい「犯罪者小説」ですからね。ミステリーはいろいろな要素を包含して発達したジャンルですから、この作品を入れることには意味があると私は思います。