「この世には不思議なことなど何もない?」ツタンカーメンの呪い、古代技術、超能力者……”超常現象”を考察する

ツタンカーメンの呪い 誇張と作り話から生まれた伝説

  1922年11月4日、ハワード・カーター率いる考古学調査隊は、エジプトの「王家の谷」で古代エジプト第18王朝のファラオ、ツタンカーメンの墓の入口を発見する考古学の歴史に残る偉業を達成した。ところが、以後、発掘関係者を次々と不幸が襲う。1930年までにツタンカーメンの墓の発掘に関わった22人が死亡。1930年まで生き残ったのはわずかに1人だけであった。墓を暴かれたツタンカーメンの呪いが発掘チームに襲いかかったのだ……というのが伝説である。

  まず退屈な事実を提示しなければならない。墓の調査に深く関わった23人の死亡時平均年齢は73歳だったという事実だ。

  ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(著)『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』によると、今日の世界平均寿命は70歳なので発掘関係者の大半は天寿を全うしたと考えるべきだろう。発掘は1922年なので当時の世界平均寿命はもっと短かったはず。むしろ平均より長生きしていた可能性すらある。

 発掘の中心人物だったハワード・カーター(1874-1939)など、仮に呪いだったら真っ先に亡くなっていなければおかしいが、カーターが亡くなったのは発掘の17年後である。呪いだとしたらあまりにも悠長すぎる。また、この伝説には「変死した関係者」とされている人物に発掘の直接の関係者だけでなく、発掘関係者の家族や知人が多数含まれている。マスコミによる話題作りの数の水増しや誇張が含まれていると考えるべきだろう。

  ツタンカーメンの王墓には「偉大なるファラオの墓にふれた者に、死はその素早き翼をもって飛びかかるであろう」という碑文があったとのエピソードが語られているが、これも何の根拠もないガセネタである。事実として、発掘のパトロンだったカーナヴォン卿が発掘の翌年に亡くなっているが、交通事故と蚊に刺されて熱病にかかったことから彼は発掘前からすでに弱っていた。死亡時、カーナヴォン卿は56歳で当時としては高齢であり、亡くなってもさして不思議ではない。
 なんともロマンのない話だが、「ツタンカーメンの呪い」の主な構成要素はガセネタと誇張であると考えた方が自然である。

  バミューダ・トライアングルの伝説も同じようなパターンである。フロリダ半島の先端と、プエルトリコ、バミューダ諸島を結んだ三角形の海域は船や航空機が忽然と姿を消すことで世界的に知られており、「魔の海域、バミューダ・トライアングル」として恐れられている……という伝説である。

  船舶には保険が掛けられるので、イギリスのテレビ局、チャンネル4が大手保険マーケットのロイズに取材したところ、バミューダ海域で多くの船が沈められている事実はないとの回答を得たという。危険な海域を通る船は保険料が高額になるはずだが、バミューダ海域の保険料は特に高額でもない。この伝説もかなりの誇張や作り話で構成されていると考えた方が良さそうである。

  このように話が捏造される構造は、情報の伝達速度が早くなった現代ではより顕著である。
 2009年ごろからインターネット上で噂になった"This Man"はその有名な一例である。2千人を超える世界中の人々の夢の中に同じ男が現れたというこの有名なインターネット・ミームは、アンドレ・ナテッラというイタリアの広告代理店社長がマーケティング手段の実験で流した作り話であることが判明している。実に現代的な「伝説」である。


  すでに満腹かもしれないが、最後にもう一つだけ「フィラデルフィア実験」の伝説を紹介したい。フィラデルフィア実験は1943年10月、アメリカのペンシルベニア州フィラデルフィアにある海軍の工廠で行われた実験中、護衛駆逐艦エルドリッジが瞬間移動したという伝説だ。伝説ではこの実験にはテスラコイルの発明で知られるニコラ・テスラ(1856-1943)と原子爆弾やコンピュータの開発に関与したことで知られるフォン・ノイマン(1903-1957)も関わっていたと言われている。

  が、例によってこの伝説はソース元や、実験に関わったとされる人物の身分が極めて怪しく、作り話である可能性が高い。

  ただし、この怪しい伝説にはロマンがある。

  フィラデルフィア実験が行われたとされる1940年代、フィラデルフィア海軍工廠には3人のSF作家が在籍していた。ロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフ、L・スプレイグ・ディ・キャンプだ。もし、フィラデルフィア実験が作り話で、作り話がSFの大家3人の他愛もない雑談から生まれたとしたら……実にロマンのある話ではないだろうか。

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