ゾンビ、なぜ100年以上も色褪せない? ポップカルチャーアイコンとしての歴史と魅力
アニメと実写映画がほぼ同時に公開された『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』が好評だ。
実写映画は記事執筆時点でNETFLIXの「今日の映画(日本)」部門1位、アニメも「今日のTV番組(日本)」部門でトップ10内にランクインしている。
原作者の麻生羽呂氏にとっては『今際の国のアリス』に続く二本目の映像化、原作マンガで作画を担当した高田康太郎氏にとっては初の映像化である。高田氏は『ハレルヤオーバードライブ!』が6年を超える長期連載、単行本全15巻を数えたにもかかわらずメディアミックス展開がされていない。喜びもひとしおだろう。
さて、同作はタイトル通りゾンビが出てくる。
ゾンビは映画、漫画、アニメ、ゲームなどで100年近く前から題材になっている手垢まみれのネタである。だが、「ゾンビとは何か?」について明確な定義を言えるものは少数派だろう。今回は、ポップカルチャーの王様とも言うべきゾンビについて綴っていきたい。
■そもそもゾンビとは?
ゾンビについて説明するにはまず、ハイチの民間伝承である「ブードゥ教」について説明しなければならない。
16-19世紀にかけて、アフリカのあらゆる場所から黒人がハイチに集められ、奴隷として強制労働を強いられていた。そういった黒人たちが他宗教の要素を取り入れて作ったのがブードゥ教である。西アフリカのフォン族が最初の信仰者とも言われており、「ブードゥ」はフォン族の精霊を意味する「ヴードォン」に由来すると考えられている。
ブードゥは宗教と解釈されることもあるが、教義や教典が存在しない。宗教法人として認可された団体も皆無であり、「教」と銘打たれているが民間信仰と言った方が適切である。ブードゥの司祭は魔術による怪我や病気の治療など医者のような役割を担っていたほか、政治にも活躍した。ハイチからは多くがアメリカに移民したため、アメリカにはブードゥの文化が根強く残る地域がある。ハイチ移民の多い南部ルイジアナ州最大の都市ニューオリンズがその例である。ちなみにジャズも黒人たち生み出した文化だが、ジャズ発祥の地もニューオリンズとする説が有力である。
さて、肝心のゾンビだが、ブードゥにおけるゾンビは社会秩序を守るための罰である。ブードゥの教えには仏教の輪廻転生に似た考えがあり、人が死ぬと精霊へ昇華される、または生まれ変わるとされている。ゾンビになってしまうと死ぬことができないため、精霊になることも生まれ変わることも出来ない。信仰者にとっては死ぬよりも恐ろしい罰なのだ。ゾンビはキンブンド語で「死者の魂」を意味する「ンズムベ」に由来する。
ゾンビは生者にゾンビパウダーを含ませることで生み出すことができる。このゾンビパウダーはいかにも胡散臭い代物だが、ヒキガエル、トカゲなどと複数種類の毒を原料として精製することができるという。科学的にパウダーの成分で目を引くのがわが国ではフグ毒の成分として知られるテトロドトキシンである。神経毒の一種であるテトロドトキシンは時に人を仮死状態にすることがあり、ゾンビパウダーを含まされた人が埋葬された後、仮死状態から蘇り、その後、棺桶の中で酸欠状態にさらされたことででしばらく記憶喪失状態になって数年後に家族や親族の元に帰ってきたとの例が存在する。
フランク・スウェイン(著)『ゾンビの科学 よみがえりとマインドコントロールの探求』では1980年、ハイチでクレルヴィウ・ナルシスという男がゾンビパウダーと思われる毒薬を含まされて仮死状態に陥ったものの、意識を取り戻して親族の元に帰ってきたという驚きのエピソードが紹介されている。家族や親族からしたら墓場から戻ってきた彼はまさにゾンビに見えたことだろう。ナルシスのエピソードはNHKの「ダークサイドミステリー」でも紹介されている。
なお、拙記事ではお馴染みの引用元なのだが、ゾンビとブードゥ教についてはレッカ社『中二病大辞典』の「ブードゥ教」の項目に簡潔にまとまっている。本稿でも大いに参考にさせていただいた。