【若林踏の文庫時評】シリーズ8年ぶり『粘膜大戦』に注目! 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』や井上ひさし短篇選も

若林踏の文庫時評

2026年1月後半(1/16~1/31)刊行の文庫新刊におけるメディア化関連の話題作と言えば、アンディ・ウィアー・著/小野田和子・訳の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(ハヤカワ文庫SF、上・下巻)だろう。
同書を原作としたライアン・ゴズリング主演の映画が3月20日に公開予定だが、「ネタばらしされる前に読んで!」という声がネット上で盛り上がっていた。確かに同書は事前情報を全く入れずに読んだ方が楽しめる物語構造になっており、原作小説を先に読みたい方は早く手に取っておくことをお勧めする。小説を読み終えた後に「これをどのような形で映画化するのか」と映画も観たくなることは保証しておく。

文庫オリジナル作品の刊行では、やはり飴村行の『粘膜大戦』(角川ホラー文庫)に注目しておきたい。第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した『粘膜人間』に始まる<粘膜>シリーズ最新作で、前作『粘膜探偵』(2018年刊行)より約8年ぶりの作品となる。かつてホラーファンを沸かせた怪作が、2020年代のホラーブームの最中に堂々たる復活を遂げた。太平洋戦争の時代と思しき日本を舞台にしながらも、河童や東南アジアの小国ナムールに生息する「爬虫人」など奇怪な存在が跋扈する陰惨怪奇な物語世界と、「グッチョネ」など独特の響きを持つ造語の数々が強烈な印象を残すのが<粘膜>シリーズの特徴だった。
第6作の『粘膜大戦』はシリーズの総決算というべき内容で、過去作品における重要な要素が全て詰め込まれた上で途方もないカタルシスが待っている。なお、『粘膜大戦』と同時に作者唯一の自伝的エッセイである『粘膜黙示録』も文庫化された。なぜ<粘膜>シリーズのような異形の作品が生まれたのか、という理由の一端が垣間見える様なエッセイになっているので、『粘膜大戦』で初めてシリーズ作品や飴村行という作家に興味を持った方は必読だろう。

3冊目は井上ひさし・著/井上恒・編『盗む男 ミステリ短篇選』(中公文庫)を紹介する。井上は書簡形式の連作短編ミステリである『十二人の手紙』(同)が書店での平積み展開などで著者の没後10年に当たる2020年ごろにヒットし、井上のミステリ作家としての一面が脚光を浴びた。
『盗む男』は数ある井上の短編からミステリの要素が極めて強いものを精選した文庫オリジナルの作品集である。暗号解読の趣向を取り入れた「ドラ王女の失踪」をはじめ、何かしらのミステリ的な興趣を組み込みながら巧みに物語へと読者を引き込む短編が揃う。同書には小説だけではなくミステリにまつわるエッセイも収録されており、こちらも井上のミステリ観を伺う上で読み逃せない。
■書誌情報
『プロジェクト・ヘイル・メアリー(上)』
著者:アンディ・ウィアー
翻訳:小野田和子
価格:1,650円
発売日:2026年1月22日
出版社:早川書房
レーベル:ハヤカワ文庫SF
『プロジェクト・ヘイル・メアリー(下)』
著者:アンディ・ウィアー
翻訳:小野田和子
価格:1,650円
発売日:2026年1月22日
出版社:早川書房
レーベル:ハヤカワ文庫SF
『粘膜大戦』
著者:飴村行
価格:1,012円
発売日:2026年1月23日
出版社:KADOKAWA
レーベル:角川ホラー文庫
『盗む男 ミステリ短篇選』
著者:井上ひさし・著/井上恒・編
価格:1,210円
発売日:2026年1月22日
出版社:中央公論新社
レーベル:中公文庫























