田家秀樹の『モンパルナス1934』レビュー 「志」や「願い」がバトンリレーのように受け継がれていく

田家秀樹の『モンパルナス1934』評

 川添紫郎は同じ1954年、日本舞踊を「アヅマカブキ」として海外公演を成功させたプロデューサーとしても知られている。彼はキャパに再会するために公演中のニューヨークから帰国した。

 「アヅマカブキ」のイタリア公演のナレーターとして出会ったイタリア語と英語の堪能な彫刻家が川添梶子だ。結婚したイタリア人の画家の暴力に耐えかねて家を出た彼女が巡り合ったのが紫郎だった。最後の「エピソード14・YMO・1971年1月」でユーミンの二枚目のアルバム『MISSLIM』のジャケットが彼女のアパートで撮影されたものだと知った。

 それぞれのエピソードで登場する人物が連なっている。「志」や「願い」がバトンリレーのように受け継がれていく。村井邦彦がYMOのワールドツアーで思い描いたのが「アヅマカブキ」だった。

 村井邦彦と共著の吉田俊宏は日本経済新聞の編集委員。ポピュラー音楽を中心に文化・芸術全般を担当する業界屈指の知識人だ。

 本書は小説であり文化評論であり歴史フィクションでもある。登場する人物の作品の解説や時代背景の歴史考証は彼の手によるところも多いのだろう。なぜ敗戦国日本が国体を維持することが出来たのか。目から鱗の想いだった。

 1945年8月15日、山中湖に疎開していた紫郎は4歳半の象郎の頭をなでながらこう言う。

 「自由だ。何よりも大切なのは自由だ。僕たちはこの自由を守られなければいけない。なあ、象ちゃん。君たちが大きくなる頃には、きっと何でも自由にやれる世の中になっているぞ」

 そのための「拠点」として始まったのがレストラン、キャンティだったのだ。

■書籍詳細
タイトル:『モンパルナス1934』
村井邦彦 吉田俊宏 著
発売日:2023年4月30日
※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:3,080円(税込価格/本体2,800円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:四六判ハードカバー/384頁
ISBN:978-4-909852-38-0

モンパルナス1934特設サイト:https://blueprint.co.jp/lp/montparnasse1934/
blueprint bookstore:https://blueprintbookstore.com/items/64366f9e427a88002f502e94

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