坂本龍一『Newsweek』から『芸術新潮』まで追悼企画続々 カルチャー史に残した大きな足跡

坂本龍一、追悼企画続々

 イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の世界的な成功や、映画『ラストエンペラー』のサウンドトラックで米アカデミー賞の作曲賞を受賞した音楽家の坂本龍一が、2023年3月28日に71歳で亡くなったことを悼み、多くの関連書籍/雑誌が刊行されている。本項では、その多大な功績を知るうえで最良の資料となりそうな近刊を紹介したい。

『芸術新潮 2023年5月号』

 『芸術新潮 2023年5月号』は坂本龍一を総力特集。表紙は画家の大竹伸朗が主に指による「千切り絵」の手法で描いたもの。昭和25年創刊の『芸術新潮』が、音楽家をメインの特集で取り上げるのは、武満徹以来ふたり目となる。アートの文脈で坂本龍一がどのように評されているのか、注目したい。

『Newsweek』2023年4/18号

 日本版『Newsweek』2023年4/18号では、「追悼・坂本龍一」と銘打ったスペシャルレポートを掲載。映画『MINAMATA―ミナマター』の監督であるアンドルー・レヴィタスによる「マエストロ坂本は私のヒーローだった」と題した追悼文をはじめ、坂本龍一の足跡を辿るレポートや、「YMO第4の男」と称されるシンセサイザープログラマーの松武秀樹のインタビューなどで構成される。坂本龍一がグローバルな視点ではどのように評されていたのかが、立体的に感じられる特集と言えそうだ。

『ミュージックマガジン増刊 坂本龍一 本当に聴きたい音を追い求めて』

 音楽雑誌『ミュージック・マガジン』の4月28日に緊急発売する増刊号。70年代から坂本龍一の活動を追ってきた同誌は、『ミュージック・マガジン』および姉妹誌『レコード・コレクターズ』の特集をすべて再録して一冊にまとめる。掲載時の体裁そのままに再録しているため、坂本龍一が生きてきた時代の空気感も感じられそうだ。

『音楽は自由にする』

 坂本龍一が、自らの言葉でその人生を克明に語った決定的自伝『音楽は自由にする』が文庫化され、4月19日に新潮社より発売される。三島由紀夫や野間宏といった作家による戦後文学の名作を世に送り出してきた伝説的な編集者である父・坂本一亀の影響や、学生運動に明け暮れた高校時代のエピソード、YMO世界展開の背景などが語られる。文化史的にも貴重な資料といえよう。

『新潮』2月号

 坂本龍一がガンのステージ4にあるという病状を明かし、大きな反響を受けた自伝連載「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」の最終回が掲載されたのが、2023年1月7日に発売された『新潮』2月号。前述の『音楽は自由にする』(2009年)以降の活動を自分の言葉でまとめたもので、余命宣告を受けた直後のピアノ・ソロ生配信のことや、哲学者・柄谷行人氏の著作に示唆を受けた団体の活動などについて書かれている。書籍化が待たれる。

『音楽と生命』

 1984年から1989年まで個人出版社「本本堂」を主宰し、作曲家・ピアニストの高橋悠治との対談集『長電話』の刊行や、村上龍と2人でホストを務めたの対談集『EV.Cafe 超進化論』の企画編集など、独自の出版活動を行っていた坂本龍一。アカデミズムとの接点を持ち、数多くの対談を行ってきた坂本龍一が、2023年3月に刊行された本書では分子生物学者の福岡伸一とその死生観を語っている。

『モンパルナス1934』

 YMOプロデューサーの村井邦彦と日本経済新聞編集委員の吉田俊宏が、国際文化交流プロデューサーとして活躍した川添浩史(紫郎、1913~70)の半生を描いたヒストリカル・フィクション。川添がパリのモンパルナスを拠点に活躍し始める1934年から、アヅマカブキ(日本舞踊)の一座を率いて欧米各地を回る中で梶子と出会って恋に落ち、夫婦で文化人が集うレストラン「キャンティ」を開業するまでを描いている。さらに川添の没後にアルファからデビューしたイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の世界進出は、川添の薫陶を受けた村井がアヅマカブキの欧米ツアーをモデルにしていたという事実もドラマチックに明かされ、日本のポップカルチャーの源流を知るうえでも貴重な読み物になっている。坂本龍一の活動も、戦前から脈々と続くグローバルな文化活動の系譜にあったことが改めて示された一冊といえよう。

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