中川淳一郎に聞く雑誌の未来「ネットより雑誌のほうが自由な表現の場になっていく」

ネットは自由な表現ができない

 中川淳一郎の『ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言』(光文社新書)は、当時現役のネットニュース編集者だった著者が、ネットを取り巻く様々な問題点を述べた本として大きな話題になった。

『ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言』の中で、ネットニュース編集者でありながらテレビ最強論を唱えていた中川。その考えは今も変わることがないという。

 発売から約14年。この本を読み返してみると、あまりに内容が現代にそのまま当てはまるので驚かされる。例えば、本書ではネット炎上やバイトテロについて触れられているが、現在のネット界隈を見るとどうだろう。回転寿司店でいたずらをする動画が大炎上し、社会問題化している。依然として炎上は繰り返されおり、約14年前と何一つとして変わっていないのだ。

 この本で中川がネットに感じていた違和感も、ことごとく現実のものになっている。筆者が痛感するのが、「ネットには自由な言論などない」という指摘だ。筆者もネットニュースで記事を書いているが、表現に関しては不自由になっていると感じる。炎上を恐れるあまり、奇抜で、ぶっとんだ表現ができないのだ。

 そうした兆候は、2009年の段階で既にみられていたようである。中川は当時、「雑誌では自由なことを書けない」というライターが、ネットニュースに多く参画してきたものの、次第に読者からのツッコミや謝罪要求などを怖れ、萎縮していったことを書いている。

雑誌が自由な表現の場になり得る!?

 では、中川は現在のネットと雑誌をどのように見ているのか。

 「ネットよりも雑誌のほうが自由な表現の場になっている印象です。今は雑誌の仕事こそが、ライターにとって一番楽しい仕事場だと思いますよ」

 中川はこうも話す。

 「雑誌は紙になって残るとはいえ、一定の期間、書店に置かれたら消えていく運命にある。対するネットニュースは、読み捨てられる一過性のものと思いきや、実はそうではないんです。ニュースサイトにUPされた記事は、何年もネット上に残り続けます。簡単にスクショやコピペがされて、5ちゃんねるに残る可能性もあります。これはライターにとって大きなリスクなんですよ」

 ネットがマニアックな人々のツールだった時代は、確かに自由があった。しかし、世界中の不特定多数がアクセスできるようになった今、ライターや記者が過去に書いた記事が炎上するケースが相次ぐ。

 そうしたリスクは個人や企業にもある。Twitterでは著名人の過去のツイートが掘り起され、炎上が繰り返されている。特定の人物に対する誹謗中傷や犯罪自慢などは論外だが、ちょっとした言葉遣いで謝罪を要求される事例など、首をかしげてしまう事例も少なくない。ネット上に発言を残すリスクは高まっているのである。

マニアックな雑誌は生き残る

 雑誌の方がネットよりもクリエイティブな一面が多いと、中川は指摘する。

 「ネットはライターが書いた原稿をそのまま載せて終わりだけれど、雑誌は写真の位置やデザインを工夫していくらでも面白くできる。オレが在籍したころの『テレビブロス』は天才的なデザイナーが写真やイラストをうまくレイアウトして、誌面を面白く見せていた。レイアウトと相乗効果で文章が引き立つ楽しさって、ネットニュースしかやったことがないライターは知らないんですよね」

 雑誌にはネットニュースのような速報性こそないものの、じっくりと時間をかけて誌面を作る、職人の手仕事のような魅力が残っているのだ。しかし、雑誌の部数下落は続き、顕著な伸びを見せているのは定期購読会員向け雑誌の「ハルメク」くらいで、他は厳しい状況が続く。雑誌が生き残る道はあるのだろうか。

 「雑誌はラジオと同じ運命になる気がします。ラジオは熱狂的なファンやタクシードライバーなどのコア層がいるじゃないですか。ああいう人たちが支えているのです。もはや万人に受ける雑誌を編集するのは難しいのなら、一定のマニアックな需要に向けて、とことんマニアックに作るべきでしょう。それが、今度の雑誌が生き残る道ではないでしょうか」と中川は一定数の雑誌は生き残ると語る。その筆頭に挙げるのが、専門誌だ。

 「『月刊住職』のような特定の職業からニーズのある雑誌や、医学や科学の専門誌は紙が強い。専門誌は8000部が定期購読され、それで儲かるようなシステムを構築していくのがいいと思いますね」

雑誌をムック本化していく

  中川は、「雑誌のコレクショングッズ化」も提案する。

 「例えば雑誌そのものをムック化して、毎号ごとに特集のテーマを変えるんです。この人を出すとみんなが興味を持つという人を選んで、木村拓哉のすべて、西島秀俊のすべて、辻希美のすべてみたいな本を作る。本人にTwitterやブログで宣伝して、連動して広めてもらうんです」

 これはかつて見城徹が編集長を務めていた時代の『月刊カドカワ』がとっていた手法ともいえるが、近年の声優アイドルなど、ネットと親和性の高い人物であれば有効かもしれない。

 さらに、毎号ワンテーマに絞り、とことんマニアックな誌面にするのも一つの案だ。「俺は『国産ビールのすべて』みたいな本が出たら買いますよ(笑)」と、中川は言う。そうした誌面作りをする雑誌といえば、現状では「Pen」などが該当するかもしれないが、せっかくならコレクターズアイテムとして本の作りを紙質からこだわり、体裁も含めてコレクション性の高いものにするべきだろう。

 嗜好品を扱う雑誌で気がかりなのは、広告上の配慮なのか、メーカー寄りの記述が目立つ点だ。また、あるムック本がコストカットのために印刷代を削減した結果、写真が汚く印刷されてせっかくの魅力ある誌面が台無しになった例もあった。これではネットに対抗できないだろう。

 雑誌がネットといかに差別化を図るか。結局のところ、それは丁寧な取材を行い、こだわりの誌面をとことん追求するのが一番なのではないだろうか。

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