週刊ザテレビジョン休刊は時代の潮目? 中川淳一郎に聞くテレビ雑誌の栄枯盛衰
KADOKAWAが発行し、1982年の創刊以来40年の歴史をもつ老舗のテレビ情報誌「週刊ザテレビジョン」が、3月1日発売号をもって休刊することが決まった。今後は「月刊ザテレビジョン」と統合を図り、3月24日からは新たにリニューアルされるという。
近年、テレビ雑誌の休刊が相次いでいる。マニアックな誌面で知られた「テレビブロス」が2020年に、大河ドラマの情報などに強みを持っていた「NHKウイークリー ステラ」も2022年3月30日発売の4月8日号をもって休刊になっている。
かつて「テレビブロス」でライターと編集を手掛けていたのが、ネットニュース編集者の中川淳一郎である。ネットの拡大を肌で感じてきた中川は、テレビとネットの関係についても一家言ある論客だ。相次ぐテレビ雑誌の休刊と、テレビの未来について話を聞いた。
テレビ雑誌の休刊に中川淳一郎が思うこと
――このところテレビ雑誌の休刊が相次いでいますが、中川さんはその理由は何だと思いますか。
中川:その問題を考える前に、オレが関わっていた「テレビブロス」(以下、「ブロス」)の購読者層を知れば、テレビ雑誌の有り様がわかると思います。あの雑誌を買っていたのは、サブカル好きと高齢者の二つの層なんですよ。
――なんと! 「ブロス」って若者向けの雑誌だと思っていました。
中川:オレも編集部に入ったとき、「ブロス」の顧客層の一つが高齢者と聞いて驚きました。でも、高齢者でお金がない人って新聞も取らないんですよ。新聞を取ると月3000円でしょ。1990年代後半から2000年代前半の「ブロス」は170円~200円くらいで他誌より割安でしたし、隔週発売なので月340円~400円で済みます。テレビ雑誌は、番組の情報だけを知るには手っ取り早いメディアなのです。
――なるほど。現存するテレビ雑誌も、番組の情報を知りたいという需要の受け皿になっているのでしょうね。
中川:だから、オレは今の高齢者が減っていったらテレビ雑誌は終わると思っています。番組表はテレビが存在する限りなくならないけれど、雑誌はもう……致し方ないだろうなと。
――今では番組表はスマホでも見れますし、それこそテレビでも見れますよね。むしろ雑誌が残っているのが奇跡といえます。
中川:それに、全体的にテレビの視聴率が落ちているでしょう。連動して雑誌の部数が落ちるのは必然だと思いますね。
コンプライアンス意識の高まりも休刊の要因?
――テレビ雑誌を久しぶりに買ってみたら、広告の出稿量が明らかに減っています。広告の売上が芳しくないのも、雑誌が存続できない要因なのかなと思いました。
中川:オレは、誌面や広告のコンプライアンス意識が高まったのも理由の一つだと思うんです。例えば、「ブロス」の広告だと、代表的な得意先が“開運グッズ”だったんですよ。
――開運グッズ、懐かしいですね! 今の若い世代は知らないかもしれませんが(笑)、女性を抱いた男性が札束の中に埋もれている広告とか、ありましたよね。
中川:「幸運の石を手にしたら宝くじで一等当選!」「ブレスレットを手にしたら彼女ができた!」とかね(笑)。その「科学の力が証明した魔法のパワー」の97.2%の効果の根拠を消費者庁が突っ込むようになってから、表現的にできなくなって、広告が入らないようになりました。ちなみに、「ブロス」では「面白かった記事」のアンケートに「開運グッズの広告」を挙げてくる読者がいたほどです。
――さすが「ブロス」読者ですね(笑)。それにしても、広告収入も見込めないとなると、他のテレビ雑誌も遅かれ早かれ休刊になるのではないでしょうか。
中川:全部なくなるでしょうね。今のテレビ雑誌は、もはや意地でやっているだけだと思いますよ。表紙に芸能人を使ったりしているけれど、今は芸能人自体のファンが減っているので、そこまで売上に繋がるとは思えない。芸能人やスポーツ選手くらいしか憧れの対象がなかった一昔前なら有効でしたが、今はインフルエンサーやユーチューバーなど、人々の好みも細分化されていますからね。
――確かに、かつて存在した絶対的なアイドルと比べると、インフルエンサーが表紙に出たところで購買意欲がそそられるかというと、微妙ですね。
中川:1980年代の聖子ちゃんとか、90年代のアムロちゃんとか、凄かったですよね。2000年代まではAKB48や嵐など、まだ絶対的な存在がいたと思うんですよ。今は、読者が表紙のために雑誌をわざわざ買うほどの影響力をもつ芸能人が、いなくなってしまったと感じます。
「テレビブロス」は自由な雑誌だった
――中川さんがライターと編集をやっていた「テレビブロス」は、雑誌の面白さが凝縮された誌面でした。ユーチューバーも到底できない自由な特集のオンパレードで、独特な雰囲気がありましたよね。
中川:編集長がリアリスティックな人で、「特集は読んでもらわなくていい」「番組表におまけがついていればいい」という感覚だったので、あんなバカな特集ができたんですよ(笑)。オレが「就職活動の特集をやりたい」と提案したら、「いいけれど、テレビと関連づけろ」と言われたので、リード(注:特集の冒頭にあるその特集の意味付けをするための数百文字の解説文)に「最近テレビのニュースに就職活動のニュースが出てきますので」と書いて、無理やりこじつけたんですよ(笑)。
――自由ですね(笑)。それこそニュースに結び付けたら、どんな特集だってできてしまう。
中川:編集長は、「好きな男、嫌いな男」の特集みたいに、個人的なこだわりがあるものについては凄く口を出してくるんです。でも、オレが在籍していた頃は、オレ自身は一度も編集会議に参加したことがなかったですね。他の社員編集者や常駐フリー編集者はたぶん会議をやっていたと思いますが、オレはやりたい企画をワードに書いて提出し、「これいいですね。進めてください」と指示されるだけ。チェック体制も厳しくありませんでした。雑誌の初校が出るのが月曜で、2校は大日本印刷で出張校正、最終校了日は水曜に大日本印刷で青焼で行います。青焼の段階ではほとんど修正ができないんだけれど、編集長はそのときはじめてその特集を見るんですよ(笑)。
――素晴らしい編集長です。当時の「ブロス」の編集長のように現場を信頼して自由な誌面を作れば、面白い雑誌ができるのではないでしょうか。
中川:ただ、コロナ騒ぎが3年間続き、雑誌作りの現場は変わったと思う。かつてのテレビ雑誌は、表紙に出た俳優やアイドルや新作ドラマのプロデューサーのインタビューがあり、制作現場の写真なども載っていました。しかし、この3年間で記者が取材をしにくい空気感が生まれたことも、誌面作りにマイナスだったとオレは思っています。
“テレビ最強の時代”はまだまだ続く!?
――中川さんの『ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言』(光文社新書)は2009年の本です。当時、ネットニュースの編集者でありながら、中川さんは「テレビが最強」と論じています。現状、テレビの影響力はどうなっていると思いますか。
中川:テレビの視聴率が落ちているとはいえ、テレビが最強のメディアであることには変わりありません。特に、一方向の論調に持っていくには最高のツールですよね。ネットは反論を書き込めるので、受け止める側が一歩立ち止まって考える余地がある。でも、テレビって、ネットの声を無視すれば好きなようにできるんですよ。プロデューサーは視聴率を気にはしているものの、そもそもスポットCM(番組と番組の間のCM)はかなり先の枠が買われているし、タイムCM(番組内のCM)は固定客として存在しているので、実際は視聴率が落ちてもそれほどのダメージってないんです。
――テレビはオワコンと言われて久しいですが、「テレビは見ない」「YouTubeの方が面白い」と言っている人でも、実際はテレビを見ているケースは多い。私も影響力は決して衰えてはいないと感じます。
中川:オレは3年間コロナ騒動を経験して、「令和の時代でもここまでテレビが凄かったのか!」と驚きました。だって、若い人がちゃんとテレビの専門家の論調と、同じことを話しているんですよ。科学や医学の問題は様々な意見から議論がなされるべきなのですが、テレビの情報をそのまま受け取っている人が少なくありません。
――大河ドラマが放送されると、Twitterでハッシュタグがつけられて、大量に感想がツイートされます。インターネットではテレビ番組の話題でいまだに盛り上がっていますよね。
中川:テレビでサッカー日本代表の試合をやると、Twitterでは長友佑都のハッシュタグが盛り上がる。あれは、テレビを見ているから書けるわけですよね。ワールドカップやWBCは、下手したら数千万人が見るわけです。驚くべき影響力ですよ。
――ネットがこれほど普及しても、テレビほどの影響力をもつメディアは未だに出ていません。日本人が比類ないテレビ好きという事実は揺らぎませんね。
中川:オレはこれまでニュース編集者としてネットに膨大なニュースをUPしてきたけれど、社会は変わらなかった。ネットニュースでもTwitterでも、社会を変えることはできないんです。それができるのが、テレビ(笑)。テレビ雑誌はなくなってもテレビ番組はなくならないし、テレビ最強の時代はしばらく続くとみています。