漫画雑誌も苦境の時代? 漫画編集者に聞くそれでも出版社が雑誌を重視する理由

秋田県羽後町にある書店ミケーネの雑誌コーナー。写真=背尾文哉

年々発行部数が激減する雑誌

 漫画業界が盛り上がっている。近年立て続けに『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』などのヒット作が連発し、爆発的に単行本が売れているのだ。コロナの巣ごもり需要などもあって電子書籍が浸透したため、漫画が読まれる機会は増え、海外にもファンを獲得しつつある。漫画発祥のコンテンツは世間に浸透しており、現代の日本文化を牽引していると言っていい。

 対して、雑誌はどうか。部数を順調に伸ばしているのはシニア向け女性誌の「ハルメク」くらいであり、全体的に厳しい現実と言っても過言ではないだろう。特に漫画雑誌の発行部数は減少の一途である。日本雑誌協会が発表した最新のデータによれば、「週刊少年ジャンプ」の印刷証明付き発行部数は128万2500部(2022年7月〜2022年9月の3ヶ月毎の平均印刷部数)で、絶頂期の653万部には遠く及ばない数字だ。このままでは数年後には100万部を割る可能性もあるかもしれない。

 しかし、それでも出版社にとって雑誌は重要な資源である。現役の漫画雑誌の編集者がこう語る。

「雑誌がもつ大きな役割のひとつが、新人の漫画家を認知してもらうことなのです」

雑誌ほど新人の宣伝に有効なメディアはない

 いったいどういうことか。

 「雑誌は一冊の中に超売れっ子から新人まで、幅広く様々な漫画が載っています。おそらく雑誌を買う人のほとんどは、人気漫画が目当てでしょう。けれども、目当ての漫画を読んだついでに他の漫画も読んでくれる可能性があるのです。理想は、何気なく読んだ漫画のファンになってくれること。それが新人の漫画なら、なおさらありがたいのです」

 筆者は、1990年代に『ドラゴンボール』目当てにジャンプを買い、新人だった漫☆画太郎の漫画を知った……というパターンだ。同じような体験をしたジャンプ読者も多いのではないだろうか。雑誌は出版社に定期的な安定収入をもたらすだけの存在ではなかったのだ。雑誌が数百万部単位で売れていた時代は、ヒット漫画と合わせて新人の宣伝も行うことができ、極めてコスパが良かったという。

 「新人の宣伝と育成の場として、雑誌ほど使えるメディアはないんですよ。現在は漫画を単行本で購入する人が増えていますが、それだとお目当ての漫画以外を知ってもらう機会が限られてしまう。雑誌はとにかく一度は手元に置いてもらえるので、まったく無名の新人の漫画でもふらっと読んでもらえる可能性は極めて高いのです」

電子書籍にはない紙の強み

 とはいえ、様々な宣伝の場はあるのではないか。例えば、TwitterやInstagram、YouTubeなどは効果的なように思うのだが。

 「それでも、雑誌の方が宣伝に効果があると思います。Twitterに漫画を載せて見てもらうことはできますが、それは無料ですよね? 雑誌はお金を払って手にするものです。人はお金を払ったものは丁寧に読むんですよ。お小遣いを握りしめて雑誌を買っていた時代は、隅々まで何度も読んだ子どもは少なくなかったと思います」

 編集者によると、漫画の単行本を読むには電子書籍は有効だが、どうも雑誌は電子書籍向きではないのだという。それは紙のような、ながら読みができる手軽さがないためなのだ。

 筆者が子どものころは、雑誌をめくり、無名の新人漫画家を発掘する楽しみがあった。アイドルを発掘する楽しさに似ているかもしれない。また、雑誌が未知のジャンルの漫画との出会いの場を作ってくれた点も大きい。

 「これは私の肌感覚ですが、雑誌で人気のあるものは単行本でもかなりの確率で売れるけれど、Twitterで人気のものを単行本化して爆発的にヒットするかというと、そうとも限らないんですよ。Twitterでバズる漫画に関しては『無料だったら読むけれど、有料になったら買わない』人は多いとみています」

 もちろん、ネットにもいい点はいくらでもあるし、少なくとも誰でも漫画を発表できるようになったことは大きなメリットであろう。確実に言えるのは、現在の漫画界はその売り方に関しても試行錯誤している段階で、過渡期にあるということだ。今後の雑誌の在り方、そして新人の発掘の仕方などを含め、どう変化していくのか。見守っていきたいと思う。

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