生首とともに繰り広げる珍道中 世にも怪奇な時代小説『首ざむらい』がおもしろい

小説『首ざむらい』がおもしろい

 小説の新人賞には、長篇を対象にしたものと、短篇を対象にしたものがある。オール讀物新人賞は、短篇の新人賞だ。1952年のオール新人杯から始まり、その後、オール讀物新人賞に名称を変え、多数の作家を輩出した。2021年の第101回から、広義の歴史時代小説を対象にしたオール讀物歴史時代小説新人賞へとリニューアル。しかしそれ以前から、歴史時代小説でデビューした人は多い。2019年に「首侍」で第九九回オール讀物新人賞を受賞した由原かのんも、その一人である。

 本書『首ざむらい 世にも快奇な江戸物語』は、受賞作に三作を加えた短篇集だ。冒頭は「首侍」を改題した「首ざむらい」。物語は、慶安元年の東海道藤沢宿から始まる。江戸の湯屋の隠居だという池山洞春は、母の納骨のために伊勢の菩提寺に向かっていたが、訳あって知己の誼で借りた宿に留まっていた。そこで知り合ったのが、膳所城主・石川主殿頭の嫡孫の宗一郎だ。若い頃に〝首〟と一緒に旅をしたという洞春に興味を覚えた宗一郎は、詳しい話を聞こうと彼を宿に招いた。石川家の家士の雲井主馬が気になった洞春は、数十年前の奇譚を披露するのだった。

 というプロローグを経て、ストーリーは慶長二十年に遡る。洞春は、池山小平太という名の若者だ。かつて池山家は、伊勢亀山城主に仕える武士だった。しかし、関ヶ原の戦で御家が改易され、池田家は浪々の身になった。その後、父親は死に、母親は湯屋の湯女になり小平太を育てる。小平太の身分は、一応、浪人ということになろう。

 そんな母子のもとに、大坂夏の陣に参加した叔父の消息が伝わる。これを聞いた母親は、小平太が大坂に行って、叔父を連れ戻すよう命じた。実は、小平太の本当の父親は叔父だというのだ。なにやら事情があるらしい。しかたなく旅立った小平太だが、伊勢西街道で道連れになった男に襲われる。そのとき現れたのが、若い男の首だ。なぜか生きている首と共に、旅を続けることになった小平太。やがて出会った、なゆという巫女の力により、首と話をすることができるようになる。首の名前は斎之助。かくして二人(といっていいのか)は、珍道中を繰り広げるのだった。

 いささか粗筋が長くなってしまったが、さまざまなジャンルが盛り込まれており、要約が難しいからである。まずベースになっているのがホラーだ。しかし首だけの斎之助は、あまり怖くない。ユーモア・ホラーというべきだろう。

 次に、前半の二人の道中は、ロード・ノベルになっている。さらに、喧嘩をして互いの胸中をさらけ出し、小平太と斎之助が仲良くなるのは、バディ・ノベルの味わいだ。そして大坂に到着する後半で、大坂冬の陣に遭遇。二人で協力して、敵中突破をすることになる。ここには戦国小説の醍醐味があった。これほどのジャンル・ミックスを新人がすると、作品が散漫になってしまうのだが、本作は綺麗にまとまっている。話を現在に戻してから明らかになる事実は、予想の範囲内だが、それが気持ちいいラストに繋がっているのだからOKである。なにより本作は読んでいて楽しい。受賞も納得の良作だ。

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