大沢在昌「新宿鮫」シリーズや人気ミステリ作家の作品も……立花もも解説! 12月の文芸書週間ベストセラー
柚月裕子『教誨』(小学館)
3位は『孤狼の血』などで知られる柚月裕子の『教誨』(きょうかい)。「善悪の境はいったいどこにあるのだろう、というのは昔からずっと考えてきたことで、きっといつまでも答えは見つからないのだろうなと思います」というのは柚月が以前、リアルサウンドブックでのインタビューで語っていたことだが、柚月作品の魅力はこの境目の曖昧さにあるのではないかと思う。今作で主軸となる事件は、閉鎖的な田舎町で起きた女児二名の殺害事件。犯人は、殺害された一名の母親だった。その十年後、死刑が執行されたその母親が残した言葉は「約束は守ったよ、褒めて」――。それはいったい、どういう意味だったのか。そもそもなぜ犯人は我が子を殺すことになったのか。身柄引受人に指定された母娘の視点を通じて、謎は解き明かされていくのだが……。
事件が事件である。真相がつまびらかになってすっきりする、なんてことがあるはずもなく、読後もやるせなさが漂う。いったいどう受け止めればいいのか、戸惑う読者もいるかもしれない。けれどその感情こそが、柚月の投げかけたかった問いかもしれない。
柚月は2008年に第7回「このミステリーがすごい!」大賞の大賞を受賞して小説家デビューを果たしているが、この1年〝すご〟かったミステリー小説を総括した『このミステリーがすごい!2023年版」が4位に。国内編の1位は呉勝浩『爆弾』。7位には週刊ベストセラーに何度も名を連ねた逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』、9位には直木賞にノミネートされたばかりの小川哲『地図と拳』がランクイン。こちらの結果も、次月以降、ランキングに影響するかも?
なお、10位には同じ宝島社が刊行している『このライトノベルがすごい! 2023』。今月ランクインしている『無職転生』も5位に名を連ねている。
神永学『心霊探偵八雲 INITIAL FILE幽霊の定理 神永学』(講談社)
戻って8位は、神永学『心霊探偵八雲 INITIAL FILE幽霊の定理 神永学』。赤い左眼で死者の魂を見ることのできる大学生・斉藤八雲が数々の怪事件に遭遇する、累計700万部突破の人気シリーズ最新作……ではあるのだが、今作で八雲がバディを組むのは、美貌の数学者・御子柴岳人。同じ著者の「確率捜査官 御子柴岳人」シリーズの主人公である。電脳空間を舞台に、心霊透視と数学解析の異能を駆使して繰り広げられる謎解きの物語。設定を聞いただけで、わくわくしてくる。どちらのシリーズも読んだことがない、という人にこそ、おすすめかも。読めばきっと、神永学の世界に浸らずにはいられなくなるはずだ。
年末はさまざまな媒体で、今年一年をふりかえったランキングが発表される。売れているからといって必ずしも好みに合致するとは限らないが、それほど多くの人たちが支持しているということは、やはりその作品には強く読者を魅了する〝何か〟があるということである。物語は、舞台が現実のものであれ、ファンタジー設定であれ、つかのま、目の前の些事を忘れてここではないどこかへ連れていってくれるもの。自分ではない誰かの人生に想いを寄せることで、悩んでいたことがふと解消されることもあるだろう。年末年始、ちょっと本でも読んでみようかな、と思った人の一助に、ランキングが役立てば幸いである。