加藤シゲアキの注目作や阿部智里の累計ミリオンセラーの最新作も……立花もも解説! 10月の文芸書週間ベストセラー

立花もも解説! 10月の文芸書週間ベストセラー

 文芸書の週間ベストセラーランキングの中から注目作品を立花ももが解説。10月はどんな作品が登場するのか。早速行ってみましょう!

 10月期【単行本 文芸書ランキング】 (10月12日トーハン調べ)

1位 伏瀬『転生したらスライムだった件 20』(マイクロマガジン
社) 
2位 池井戸潤『ハヤブサ消防団』(集英社)
3位 阿部智里『烏の緑羽』(文藝春秋)
4位 加藤シゲアキ『1と0と加藤シゲアキ』(KADOKAWA)
5位 中村颯希『ふつつかな悪女ではございますが5~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』(一迅社) 
6位 結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮社)
7位 又吉直樹/ヨシタケシンスケ『その本は』(ポプラ社) 
8位 『「十二国記」30周年記念ガイドブック』(新潮社)
9位 依空まつり『サイレント・ウィッチ Ⅳ -after沈黙の魔女の事件簿』(KADOKAWA)
10位 くまなの『くま クマ 熊 ベアー 19』(主婦と生活社)

 10月第二週の週間ベストセラー、注目は3位の阿部智里『烏の緑羽』。180万部を突破した八咫烏シリーズの最新作である。

 同シリーズは、2012年、早稲田大学在学中に松本清張賞を史上最年少で受賞した『烏に単は似合わない』から端を発するもので、山内(やまうち)と呼ばれる異世界を舞台に、人の姿に変化することのできる八咫烏の一族を描くファンタジー小説である。山内を統治する金烏(きんう)の座につく奈月彦に誰が嫁ぐかを懸け、姫君たちが闘志を燃やす後宮バトルかと思いきや、ある事件が起きてミステリ小説へと洋装を変えた『烏に単は似合わない』をはじめ、阿部は常に、読者の予想を裏切り続けている。

 シリーズが進むにつれて、読者である我々の生きる現実と八咫烏の世界は密接に繋がりを持っていることが発覚したり、上級武官養成所を舞台に学園青春小説が始まったかと思えば、八咫烏を食らう大猿の襲来で、山内の存在そのものを揺るがすような悲劇が幕を明けたり。展開は予測不可能、世界観の全容もいまだ把握困難。しかし1巻から読み返せばあちらこちらに伏線が張られており、新刊が出るまでのあいだに何度となく読み返してしまう魔力があるのである。

 第二部第三巻目にあたる今作もまた、いつもと様子が違う。奈月彦とは母違いの兄であり、奈月彦が生まれるまでは金烏の座に座ると目されてきた長束とその従者たちの物語。いわば外伝的な位置づけの作品だが、真の忠義とはなにか、権力をもつとはどういうことか、わかりやすい正解のない世界で人(八咫烏)はどう生きていくべきなのかを切々と問いかけてくる本作は、ある意味でシリーズの根幹のテーマを描いているといってもいい。シリーズ読者ならばいっそう胸打たれること間違いなしだが、未読の方もご安心を。第一部であろうと第二部であろうと、どの巻を最初に手にとっても物語に入っていける配慮が常にほどこされているのも、阿部智里の凄み。ぜひ今作をきっかけにしてみてほしい。

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