交通事故で右足を失ったダンサーがAI搭載の義足と出合って……2050年を舞台としたSF小説がスゴい
それを引き立てるのが、コンテンポラリーダンサーという主人公の設定だ。コンテンポラリーダンスを一口で説明するのは難しいのだが、振り付けや表現方法に決まりのない、自由なダンスだと思っていただきたい。したがって、ダンサーの表現そのものが、色濃く人間性や身体性と直結しているのである。
などと書くと、AIやコンテクポラリーダンスの知識がないと楽しめないと思う人がいるかもしれないが、そんなことはない。現役の舞踏家にして振付家の父親・護堂森を始めとする、家族とのやり取り。カンパニーの練習後の打ち上げ飲み会で出会った、川上永遠子との恋愛。いきなりの衝撃的な出来事。詳細は省くが、中盤からの展開には、作者自身の体験が投影されているのであろう。人間ドラマの部分もしっかりと書き込まれており、ダンスと分かちがたく絡まり合う。だからダンスシーンが、読者の胸を打つのである。
冒頭で触れた画像作成のようなAIを巡る騒動は、これからもさまざまな分野で起こるだろう。社会そのものが、大きく変化するかもしれない。そのような時代の流れの中で、人間はどこに行くのか。未来へと続く道を歩むための、ひとつの道しるべが、本書なのかもしれない。