OKAMOTO’Sオカモトショウが推すSF漫画『バビロンまでは何光年?』 壮大で不条理な魅力を語る

オカモトショウが語る『バビロンまでは何光年?』

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品を月イチでご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回は『ヴォイニッチホテル』、『ニッケルオデオン』などで知られる道満晴明の『バビロンまでは何光年?』を紹介! ギャグ、エロ、さまざまなSF作品のオマージュを散りばめながら、壮大なストーリーが繰り広げられる本作の魅力を解説してもらいました。

SF好きが歓喜する密度の濃い作品

――『バビロンまでは何光年?』は、SF短編の名手として知られる道満晴明の2019年の作品。2020年に第51回星雲賞のコミック部門を受賞しました。

 同じ作者の『ヴォイニッチホテル』もよかったのですが、『バビロンまで~』はSF作品としてすごく密度が濃くて、グッときて。2021年のベスト5に入れようかとも思ったんですけど、作品単体でしっかり紹介したかったんですよね。ただ、あらすじを説明するのが難しくて(笑)。時代設定としては、地球はとっくに滅亡していて、唯一生き残った地球人の男がロボットと謎の生物と一緒に宇宙を旅してるんです。主人公のバブは記憶を失くしていて、地球のことは覚えてなくて。

――冒頭、バブが「一番いい女のいる星へ行きたい」と提案するなど、エロの要素もありますね。

 たった一人の生き残りだから、子どもを作ることが最大の目的なんですよ。「ヤングチャンピオン」で連載していたから、エッチな描写があってもおかしくないんですけどね(笑)。人気のためではなくて、ストーリー的に必然性があるのがいいなと。ただのエロじゃなくて、地球人としての使命感ですからね。

――その後、美女のカレルレンと子どもを作ることになり。

 「キミと私の交雑による受精の確率はおよそ48億分の1。でもゼロじゃないわ」というセリフもいいんですよね。しかも「地球人が一人になったことで、受精の確度が上がるというエントロピーが働いた」みたいなエピソードもあって。そういう細かいところがリアルに描かれているんです。主人公が交通ルール違反で3時間の禁固刑をくらうんだけど、「3時間でいいの?」なんて言ってたら、重力がものすごく強いところに入れられるんですよ。「解放されたら10年経ってた」というオチで、それってSFではよくあるロジックなんですけど、使い方が面白いなと。

――カレルレンというキャラクター名は、SFの古典的名作『幼年期の終わり』にも登場。いろいろな作品のオマージュがちりばめられているようですね。

 オタクのみなさんが歓喜する波動を感じますね。途中から4次元人が現われて、宇宙を作り直すという話だったり、じつはすべてが仕組まれていたという部分もあって、だんだんシリアスな要素が濃くなってくるんです。一つひとつの会話の情報量もすごいし、作品としてのレイヤーが深いんですよね。たとえば主人公がナノマシンを使って性別を変えるんですけど、途中で男に戻っちゃったりして、それが現在のジェンダー、人種などの区別や境界線に対して、SF的にユーモアのある表現で比喩してるのかな?と思ったり。表層的なストーリーだけでも面白いんだけど、深く掘っていくとどんどん違うレイヤーが出てて、読者によって共感する部分が違うというか。

――人によって反応するところが変化するわけですね。

 そう。最近の映画でいうと『ドライブ·マイ·カー』もそうですよね。基本的には奥さんに不倫された男が立ち直るストーリーなんですけど、レイヤーが深いから、いろんな楽しみ方できる。だから海外でも評価されたし、俺もすごく好きな作品ですね。もっとわかりやすくいうと“よくできた絵本”かな。子どもが読んでも面白いし、大人になってから読み直すと、いろんな発見ができる。しかもギャグもちりばめられているんですよ。回転寿司屋さん行って、「レーンがめちゃくちゃ長くて、職人さんが握った寿司が回ってくるまでに119万年かかる」とか(笑)。

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