心理占星術研究家 鏡リュウジ×料理研究家リュウジ 特別対談 「ホモサピエンスは占いをして料理をする動物」
料理研究家・リュウジは「革新的な現実主義者」
――では、実際にリュウジさんの星座の組み合わせを見ていきたいと思います。鏡さん、いかがでしょうか。
鏡:リュウジさんは太陽が牡牛座で月が水瓶座なので「革新的な現実主義者」です。ピッタリじゃないですか?
リュウジ:長所は「自信がある」、「独立心が強い」、「正直」とありますね。まさにその通りです(笑)。
鏡:最大の短所は「頑固で物事が思い通りにならないと無気力になる傾向がある」、「その瞬間に身を委ね、物事をなすことを嫌う」、「うぬぼれてるという印象を与えるほど自信過剰」。
リュウジ:これは完全に僕ですね(笑)。実は、僕は自分以上の現実主義者はいないと思っているほどのリアリストなんです。夢を追う人には「人の気持ちがわからないのか?」とよく言われます。そこに「理想はそうだけど、現実にどうするの?」と畳み掛けてしまうので、変な空気になるんです。
鏡:わかります(笑)。牡牛座は食と、水瓶座がテクノロジーと関連が深いんですよ。だから太陽が牡牛座で月が水瓶座というのはリュウジさんにぴったり。
――的中するところが多いですね。ちなみに、鏡さんにとってのチャールズ・ハーヴェイ先生のような感じで、リュウジさんにとって師匠筋にあたる方はいらっしゃいますか。
リュウジ:尊敬する人は少ないですが、世の中について教わった方はふたりいます。ひとりは叔父。頑固な人なんですけど、彼から世の中での生き方や義理人情を教わりました。あとはホテルマン時代に知り合った、バー経営もする革新的な方がいて、彼からはお酒の飲み方や人間的な面白み、コミュニケーションの仕方を教わりました。今の僕を構築してくれた方々ですね。
――料理を教わった方はいるのでしょうか?
リュウジ:料理の師匠はさまざまな人々です。例えばカレーはインド発祥というのは有名ですが、僕らが普段「カレー」と呼ぶ食べ物はイギリス生まれなんです。つまり、イギリスを経由して日本に伝えた人がいて、はじめて僕らはカレーを知ることができた。そういう風に捉えているので、今まで食べてきた料理のすべてが先生だと思っています。
今でも僕以外の人のレシピや動画を見たり、食べに行って着想を得るようにしています。今日は鏡さんと一緒にランチをいただいたのですが、そのときも「このメンチカツ、どうやって作ってるんだろう?」と考えていました。「胃がもたれないけど何の油だろう?」などと考えながら、また自分で実践して新しいものを発想したり。でもそれは完全に新しいことではなくて、誰かがやっていることの組み合わせなんですよね。
料理は基本的にそういうもので、もう何年も完全に新しいものは生み出されていません。だから料理に著作権とかはないんです。みんなが更新していけるようになっている。色々と組み合わせて更新していくという意味では音楽にも近いと思うんですが、音楽には著作権があって、そこが大きな違いだと思います。もしも料理に著作権があったら、お店でカルボナーラを販売できなくなってしまいますから。自由に何かを真似て自分の要素を入れていけるのが、料理の面白いところです。
鏡:文化ですよね。どこかから伝わって混ざったり、ときにはミスコピーがあったりしながら発展していく。それにしても面白いのは「決まった先生がいない」と言いつつも「リスペクトする」姿勢を持っているところ。縦関係ではなく、横のネットワークで考えるのはみずがめ座の特徴なんですよ。
リュウジ:そうですね、関係はフラットじゃないとダメなタイプです(笑)。上に立たれたり、下に立たれたりするとやりづらいんですよ。フラットに接することができる人じゃないと、一緒に仕事をしたくないです。
鏡:水瓶座はロジックで考えますが、実際に食べに行ったりするのは牡牛座らしい特徴です。その感覚をもとに水瓶座的な感覚で思考していくので、虹を単に美しいものとしてではなく、太陽光の分光であるとして論理的に考えつつも、冷静に処理せず「このように構築されるなんてすごい!」と考えられるタイプ。
リュウジ:まさに僕ですよ(笑)。星座でそこまでわかるとは、驚きです!
占いはなぜ普遍的に求められるのか?
――先ほどレシピのルーツの話題になりましたが、長い歴史を持つ星占いが、テクノロジーや文明が発達した現代でも人々に求められるというのがすごいと思います。
鏡:占星術はもともと、古代バビロニアの星の神様への信仰として始まりました。今は金星をヴィーナス、木星をジュピターと呼びますが、バビロニアでは金星を女神イシュタル、木星を主神マルドゥクと呼んでいたのがその起源です。今なお色々なところにその痕跡は残っているんです。
リュウジ:僕の好きなゲーム『女神転生』に出てきました(笑)。
鏡:星の配置が神からのメッセージとされていたので、日食が起きたり火星が目立った動きを見せたときには畏れた神官たちがさまざまな儀式をしていたんでしょう。それから段々と規則性や法則性が見出されて、ギリシャの数学や自然学と結び付きました。現在の科学的な思考の基盤と、星の宗教的な考えが混ざっているところが占星術の興味深いところです。今では天文学者として知られるガリレオ・ガリレイやヨハネス・ケプラーも、実はれっきとした占星術師だったんです。技法は時代とともに変わっています。でも、もともとは「星の動きと人間の性質には何かしらの関連があるはずだ」という直感が基にあったのではないでしょうか。だからこそ、今でも多くの日本人が「なんだかわからないけれど、当たりそうな気がする」と考えているのだと思います。
「世界は“兆し”に満ちている」という考え方は、人間の深い部分にあると思うんです。先日エリザベス女王のお葬式で虹が出たというニュースがありましたが、あれもサイエンスに即せば意味なんてないはず。でも、そこに意味をこじつけるのが我々人間の性なんです。
――コロナ禍を経て、リモートワークやステイホームなどで人々の環境が変わり、占いと料理も発信の方法や内容が変わってきたと思います。それについて思うことなどはありますか?
リュウジ:僕自身はレシピ本やネットの記事を見て料理を覚えたので、なぜみんなが動画を見てくれるのか、実は理解できていないところがあります(笑)。最初はTwitterやInstagramで発信していたのですが、気がつけばYouTubeの方が人気になっていました。おそらくそれは、ステイホームで動画を見る時間が増えたというのもあると思いますが、大きくはネット環境の変化が関係しているのかなと。回線が4Gになって、動画の方が情報を得やすくなっていった。近い将来、5Gが当たり前になったら、僕がレシピ本以外の本が読めないように、静止画を観ていられないという人が現れるかもしれません。
ただ僕はこんなにYouTubeで動画を出していますが、レシピ本の文化が失われてほしくないので、いまも出版し続けています。ページをパッと開いて、そのまま調理の参考にできるのがレシピ本のいいところです。料理を作るペースは人それぞれですし、動画のスピードに追い付けなかったりするじゃないですか。だから、動画で細かいところを一度見て、2回目以降は本を読んで自分のものにしていくという感じで、どちらも楽しんでいただけると嬉しいですね。
鏡:なるほど。占星術でいえば、コロナ禍でタロットカードの売上が倍増しました。世界的に売れているみたいなんですよ。ただ多くの人に「不安な時代だから占いが人気なんですね」と言われますが、この業界に何十年もいて「こんな時代だから占いが人気なんですね」と言われなかった年はありません。つまり、いつの時代も占いは求められ続けてきたんです。
70年代はオイルショックとオカルトブームがありましたし、高度成長期が終わってからは「こんな時代だから占いが人気」と言われました。80年代半ばからはバブルで心理テストが流行ったり、臨床心理学の人気で「心の時代」とされて「物質的に満たされたから目に見えない世界にみんな関心があるんですね」と言われました。バブルが崩壊し、オウム事件が起きても「こんな時代だから占いが人気なんですね」と、ずっと言われ続けてきたんです。そういう意味では料理と同じで、スタイルや表現が変わりつつも、人間社会におけるインフラのようなものとして存在し続けてきたのが、占いなんだと思います。
リュウジ:確かに。料理と同じで「常にそこにあるもの」なんでしょうね。
鏡:僕がいつも言うのは「ホモサピエンスは占いをする動物」だということ。過去と現在、未来と長いスパンの時系列で考えるのは人間ならではの思考で、そういう思考を持ったときに自動的に生まれたのが占いなんだと思います。加えて人間は「料理する動物」でもありますよね。調理によって消化吸収の時間が節約されたことが、結果として文化を発達させたという説もありますから。
――占いも料理も、普遍的な人の営みなんですね。では最後に対談を踏まえて、リュウジさんの著書『リュウジ式至高のレシピ 人生でいちばん美味しい! 基本の料理100』から、鏡さんへのおすすめのレシピをお願いします。
リュウジ:鏡さんも割と料理されますから、どうしようかな。
鏡:レシピに忠実ではなく、少しアレンジしてしまうんですよ。
リュウジ:プロの方はアレンジを嫌がりますが、僕のレシピ本はむしろそういう使い方をしてほしいです。
鏡:年齢的には味を薄め、野菜多めにしたいというのはありますね(笑)。
リュウジ:では「至高のコールスロー」がおすすめです。味の濃さは塩で調整していただければ大丈夫かと。
鏡:コーンは入れなくも大丈夫? 苦手なんですよ(笑)。
リュウジ:大丈夫です(笑)。ニンジン多めにしてください。