ギャグ漫画界の奇才 おおひなたごう漫画家生活30周年「もっと社会に遊び心があったらいい」
異色のグルメ漫画、誕生秘話
――『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』は、グルメ漫画の新境地を拓いた作品だと思います。
おおひなた:『欽ちゃんのどこまでやるの!』という番組に、ゲストが食事をどの順番で食べていくかを当てるコーナーがあって、子どものころから好きで見ていたんです。人によって食べ方が違うことへの興味は、僕の中に潜在意識としてあったのかもしれません。
――潜在意識が形になったきっかけは何だったのでしょうか。
おおひなた:2010年頃、自分の漫画にマンネリを感じていました。何かヒット作を出さなければいけないと必死に考えていたときに、嫁と食事の仕方で議論になった出来事があったんです。嫁はおかずを飲み込んでからご飯を食べる。僕は口の中におかずが残っているうちに、ご飯を入れて混ぜて食べる“口内調味”をしていました。僕はそれが当たり前だと思っていたので、嫁の食べ方が衝撃だったんです。(笑)。
――家庭での出来事がきっかけなのですね。
おおひなた:さすがにこのときは「俺が少数派なのか!?」と気になってしまい、ミクシイでアンケートをとりました。すると、口内調味が多数派だった(笑)。ほっとしましたよ。しかも、このアンケートは反響が大きかったんですよね。それで食べ方の違いを漫画にしたらネット上でも話題になるんじゃないかと思って、企画を練ったんですよ。
――そして、見事に狙いが的中したわけですね。
おおひなた:すべての人に共通する食をテーマに選んだのが、共感を呼んだ理由だと思います。おかげさまで、僕の漫画を読んでいなかった人にも手に取ってもらえました。絵のタッチも変えているので、読み進めてから「これ、おおひなたごうだったの!?」と驚かれるケースもあるんですよ。まさかグルメ漫画を描くとは思わなかったので、自分が一番驚いているんですけれどね。
――ちなみに、おおひなた先生は目玉焼きの黄身を、いつつぶすんですか?
おおひなた:僕は主人公の二郎と一緒で、途中で黄身を潰して付け合わせを絡めて食べます。嫁は白身を先に食べて最後に黄身を食べますね。ちなみに、みふゆのモデルは嫁なんです(笑)。
秋田のために活動をしていきたい
――『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』の二郎は秋田県出身ですし、先生の秋田県に対する思い入れの強さは、ツイッターなどでも伺えます。故郷のために今後行いたい活動などはございますでしょうか。
おおひなた:僕は故郷の秋田県羽後町から、羽後町観光宣伝大使に任命されています。何かあれば地元のことを宣伝しなきゃと思っていますが、ここ数年はコロナ禍で帰れない日々が続いていました。今年は友人が亡くなったときや、お盆のタイミングにようやく秋田に帰れましたが、帰るたびに過疎化が進み、人が少なくなっているのが気がかりです。
――人口減少は全国的な社会問題ですが、秋田県は特にその進行が早まっていると言われますよね……。
おおひなた:今の秋田県って、僕が子どものころに思い描いていた未来の町と違うんですよ。例えば、羽後町の中心部の西馬音内はもっと賑やかに、隣の湯沢市のサンロード商店街のように発展していると思っていたのですが、今はその湯沢のサンロードもシャッターの閉まっている店が多くなってしまった。なんとか、故郷に活気を取り戻したいという願いがありますね。
――秋田県横手市の『横手市増田まんが美術館』では、「画業30周年記念特別企画展 What A OHINATAful World ~この素晴らしきおおひなたごうの世界~」が開催されています。おおひなた先生も会場にたびたび足を運ぶ予定とのことですが。
おおひなた:館長の大石卓くんは、高校時代の同級生なんですよ(笑)。そんな縁もあって展示会が実現しました。なんと、「おおひなたごう展」と同時に「BLEACH展」も開催されています! 「BLEACH展」目当てに来た人も、ぜひついでに「おおひなたごう展」に足を延ばしていただけますと幸いです(笑)!
――展示会では自身の漫画のネームや愛用のGペンを販売したりと、相変わらずおおひなた先生らしい独創的な企画が目白押しですね。
おおひなた:僕はこういうご時世だからこそ、もっと社会に遊び心があったらいいと思っています。ギャグ漫画家として、こうすれば面白いんじゃないか、楽しんでもらえるんじゃないかということを、これからも追求していきたいと思っています。
■展示会情報
画業30周年を記念した特別展「画業30周年記念特別企画展 What A OHINATAful World ~この素晴らしきおおひなたごうの世界~」が、秋田県横手市の横手市増田まんが美術館で開催中! 10月9日にはおおひなたごうが来館して特別マンガスクールを実施。そしてなんと、翌10日にはトークイベント「おおひなたごう×和田ラヂヲ×うすた京介トークイベント『1991年とはどんな年だったのか』」を開催! 現代ギャグ漫画界の巨人たちの姿を目に焼き付けよう。なお、トークイベントの会場は「増田地区多目的研修センター」であり、横手市増田まんが美術館ではないので要注意! 若干トラップのようだが、こうした仕掛けもおおひなたワールドの神髄なのか!?
■イベント情報
画業30周年記念特別企画展 What A OHINATAful World ~この素晴らしきおおひなたごうの世界~
https://manga-museum.com/