ギャグ漫画界の奇才 おおひなたごう漫画家生活30周年「もっと社会に遊び心があったらいい」

砲丸投げの球が頭を直撃!?

――おおひなた先生は、ご自身の体験も積極的に単行本でネタにしています(笑)。なかでも衝撃なのが、高校時代、体育の授業中に砲丸投げの球が当たったという事件です。地元の新聞で大きく取り上げられたそうですね。

おおひなた:高校時代にはいろいろな出来事がありました。まず、1年生のころに敗血症で重体になって、体内の血液を3分の2くらい入れ替えたんですね。これを機に、性格が変わったと言われるようになりました。それまでは誰にでも話しかけるような天真爛漫な性格だったのですが、人見知りするようになって、内向的になりましたね。そして、砲丸投げの球が頭部を直撃したのは高校2年生の時です。地元の新聞はもちろんですが、全国ニュースにもなりました。

――当たった時の痛さって、激痛なんてもんじゃないですよね?

おおひなた:いえ、僕自身は当たった瞬間をまったく覚えていなくて、気がついたらベッドの上にいた感じです。鏡を見たら右目が充血で真っ赤で、「本当に当たったんだ」と自覚しました。幸い頭蓋骨にも問題はなくて、手術もせずに退院できたんですよ。ただ、この事件は波紋を呼び、体育の授業から砲丸投げがなくなってしまいましたが。

――砲丸を当てた同級生との関係が気になりますが……?

おおひなた:いえいえ、僕に当てた奴は親友で、一緒にバンドをやっていた仲なんです。いまも年賀状をやりとりしていますよ。あと、彼とは「笑っていいとも!」の「私、新聞・雑誌に載ったことがあります」というコーナーの第1回に一緒に出たりしたので、もはやいい思い出です(笑)。

――おおひなた先生は不幸な出来事も笑いに変えておられますね。そして、同級生との深い友情を感じるお話で、感動的です。波乱万丈の高校生活を終えたおおひなた先生ですが、漫画家としてデビューされたのは21歳と、かなり早かったですね。

おおひなた:専門学校を卒業して、20歳で一度会社に就職したのですが、社長と揉めて5ヶ月で辞めました。親にも半年ぐらい内緒にしていたのですが、だんだんやることがなくなってきたので、本格的に漫画家を目指し始めたのです。25歳までにデビューすると宣言して描き始めたら、21歳でデビューできました。

――有言実行ですね! 短期間でデビューできた要因は何だったのでしょうか。

おおひなた:ギャグを自分なりに理解できたことだと思います。当時、吉田戦車さんの『伝染るんです。』が流行っていて、僕も形だけを真似したようなエセ不条理漫画ばかり描いていましたが、さっぱり面白くなかったんです。編集者にも「いつまで持ち込みを続ける気だ?」とハッパをかけられて自分なりに分析した結果、僕の漫画は前フリをオチに活かしていないことに気が付きました。それから前フリをオチに活かすようになって、少しずつ面白いものが描けるようになっていった感じです。

デジタルをいち早く導入

――おおひなた先生は、90年代後半に、当時はまだ珍しかったデジタル機器を使って漫画を描いています。

おおひなた:パソコンは、当時CGに詳しいタナカカツキさんに揃えるべきものをリストアップしてもらって、一緒に秋葉原に買いに行った思い出があります(笑)。そして、簡単なアニメを作りたいと思ったのがMacを購入した動機です。1997年にはホームページも立ち上げました。それが縁でコンピューター雑誌の仕事もしていましたし、CD-ROMで読む漫画雑誌『ねぎ』という媒体では、『LAST FAULT』というストーリーが分岐していくアドベンチャーゲームタイプの作品を発表しました。

――新しい文化に敏感なのがおおひなた先生らしいと思います。当時のデジタルの作画は、今とはやり方がぜんぜん違いますよね。

おおひなた:そうですね。最初は線画をペンで紙に描き、それをスキャンして、フォトショップで色を着けていました。ただ、今のようなデータ入稿ができなかったので、コピー用紙にプリントして原稿用紙に貼りつけて渡していました。

――アナログとデジタルの過渡期らしいエピソードですね。

おおひなた:当時はプリンターの解像度が低くて、『おやつ』の単行本を読み返すと、キャラクターの輪郭がガタガタしているんです。まるで、和田ラヂヲさんのFAX漫画に近い雰囲気ですね。コミックスタジオというソフトが出た頃からデジタルを使う漫画家が増え、クリップスタジオで一気に普及した印象があります。

――デジタルを使って20年以上のおおひなた先生が思うに、デジタルの最大のメリットって、何でしょうか。

おおひなた:画面上で絵をいくらでも拡大できることです。最近、歳をとって感じたことですが、年配の人ほどデジタルを導入したほうが絶対にいいですね(笑)。

おおひなたごう『おやつ』(秋田書店)

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