ギャグ漫画家・藤岡拓太郎が語る、絵本の“笑い”と“かわいさ” 「誰にでも分かる言葉で、誰よりも笑えるものを描きたい」
SNSの1ページ漫画などで注目を集める、ギャグ漫画家の藤岡拓太郎氏が4月に196ページの絵本『ぞうのマメパオ』(ナナロク社)を上梓した。同作は小さな女の子・ジュンちゃんと、小さな象・マメパオの物語。ある冬の日に、たまごのおつかいを頼まれたジュンちゃんは、その道中で迷い子らしきマメパオに出会った。ジュンちゃんはマメパオと仲良くなって、お母さんとお父さんを見つけてあげることができるのだろうかーー。
そんなかわいらしさとシュールなおかしさが融合した同作は、手垢のついた表現ながら「子供も大人も楽しめる」傑作絵本だ。一体、物語はどのように生まれたのか? 藤岡氏にとっての「かわいさ」「笑い」とはどういうものなのか? メールインタビューで詳しく話を聞いた。(篠原諄也)
『パンダコパンダ』に大笑いしてしまった
――今回のお話はどのように生まれましたか? きっかけだったというアニメ映画『パンダコパンダ』を見たエピソードを教えてください。
藤岡拓太郎(以下、藤岡):『パンダコパンダ』は4~5年前にも一度観たことがあって、その時はあまりピンとこなかったのですが、去年(2021年)、なんとなくもう一回観てみたら、かわいすぎて大笑いしてしまって。なにか自分の中の新しい笑いのツボを突かれた感じがあり、自分でも「かわいすぎて笑えるもの」を作ってみたくなって、それが『ぞうのマメパオ』という絵本になりました。
子供の頃から宮崎駿さんや高畑勲さんの作品は大好きではあったのですが、『パンダコパンダ』に影響を受けて何かを作ることになるとは、自分でも思っていませんでした。
――「かわいすぎて大笑い」してしまったとは、どういうことなのでしょう?
藤岡:全編にわたってかわいいんですが、特にパンちゃん(コパンダ)の登場シーンがめちゃくちゃかわいくて。パンちゃんが映った最初のカットから大笑いしてしまって、そのあとミミちゃん(主人公の女の子)とのやりとりが終わるまで、ずっと笑ってました。キャラクターデザインはもちろんのこと、演出が本当に上手くて、虜になりました。
高校生の頃からずっとギャグ漫画や笑いのことばかり考えてきて、自分の笑いのツボぐらいは分かってるつもりだったのですが、『パンダコパンダ』で大笑いしてしまって、「笑いってほんとにわからんな」と妙な嬉しさと興奮がありました。
――「マメパオ」の存在がかわいくてユニークでした。小さなぞうとの出会いを物語にしたのはなぜでしょう? 名前はどのように思いつきましたか?
藤岡:象にしたのは特に理由はなくて、象のビジュアルが好きだったのと、「小っちゃい象がいたらかわいいだろうな」ぐらいの感じでキャラクターデザインやストーリーを作り始めていきました。名前はわりとすぐに思いついて、語感もいいし、なんかわくわくする響きだなと思ったので、「マメパオ」に決めました。
当初のラフでは冒頭からマメパオが登場して、普通に言葉も喋っていました。『パンダコパンダ』や『となりのトトロ』を参考にしたのもあるのですが、マメパオと出会うことになる誰かの目線から始めるほうがスムーズに描けるかもしれないなと思って、「ジュンちゃん」の日常から考えていきました。
「かわいい」とは何か?
――藤岡さんからみて「ジュンちゃん」はどのような子だと思いますか?
藤岡:どこにでもいるような子供だと思います。ちょっと物怖じしなさすぎだとは思いますが…。
――藤岡さんにとって、かわいいとは何でしょう? トムとジェリー、ダンボがかわいいと思うとのことですが、それらの共通点は何でしょう? 他にかわいいと思うものはありますか?
藤岡:造形やしぐさがかわいいということ以外で共通点を見つけるとすると、言葉を持たず本能のままに生きていて、その体の動きをずっと見ていたくなるということでしょうか。
他にかわいいと思うものは……先日、原画展の選書企画のため「かわいい本」を選んでいる時、写真集『うめめ』や漫画『あたしンち』をチョイスしながら思ったのですが、子供も大人も含めて人間の、あるいは動物の、本能がむき出しになっている瞬間とか、不意にほころびが出てしまった瞬間を「かわいい」と感じます。
――かわいいもいきすぎるとイライラしてくるとはどういうことですか?
藤岡:「かわいいと思われたい」という気持ちが大きくなりすぎると、「あざとい」「媚びてる」と思われたり、反感を買ったりしてしまうことがあると思います。絵でいうと、そういう意識は描線1本にも表れるので、『ぞうのマメパオ』を描く際にも気をつけました。気をつけたというか、自分がかわいいと思うことだけを、自分がかわいいと思う絵で描くようにしました。