ギャグ漫画界の奇才 おおひなたごう漫画家生活30周年「もっと社会に遊び心があったらいい」

ネームを販売するおおひなたごう。ファンとの触れ合いを大切にするのも、おおひなたの流儀だ。写真=おおひなたごう


 衝撃を与えた初の連載作『俺に血まなこ』シリーズから、少年漫画誌で初の連載作『おやつ』、そしてグルメ漫画に新境地を開拓した『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』まで、ギャグ漫画界に独自の地位を築いたおおひなたごうが、デビュー30周年を迎えた。その画業を振り返る過去最大級の原画展「画業30周年記念特別企画展 What A OHINATAful World ~この素晴らしきおおひなたごうの世界~」が「横手市増田まんが美術館」で開催中だ。

 今回、お盆に実家に帰省しようとしていたおおひなたに突撃インタビュー。バンドの結成から「ギャグ漫画家大喜利バトル!!」などのイベントの主催まで、漫画家の枠にとらわれない多彩な活動を続ける原動力を探ってみた。

漫画に囲まれた環境で育つ

――デビュー30周年おめでとうございます。おおひなた先生は秋田県羽後町の出身で、子どもの頃から漫画を描くのがお好きだったそうですね。

おおひなた:落書きのような漫画なら、幼稚園のころから描いていましたね。『オンボロ車』という、ボロボロのクルマに乗った主人公がいろいろな町を冒険して、最後はクルマが爆発して終わるという漫画で、60話くらい描いたかな?

――子どもの頃から漫画に触れていますね。ご家族の影響も大きかったのでしょうか。

おおひなた:そうですね。一番は兄の影響ですね。兄が漫画好きでたくさん漫画を買っていました。そのおかげで赤塚不二夫さん、藤子不二雄さんの漫画が小さい頃から身近にあったんですよ。あと、僕の実家は羽後町にある「マルマン」という酒屋なのですが、小学校高学年の頃に雑誌の取り扱いも始めたので、家で『ジャンプ』『サンデー』『マガジン』『チャンピオン』が読み放題だったのです。

――それは羨ましい! 夢のような空間ですね。

おおひなた:僕はたぶんクラスで一番漫画を持っていたんじゃないかな? 小学生の頃は友達がウチに遊びに来ると、みんな黙々と漫画を読み始めるんです。僕は別のことで遊びたいのに(笑)。学校ではクラスメイトをキャラクター化して、ドジッた話などを漫画にしてはみんなに読ませたりしてました。

――おおひなた先生は漫画をコミュニケーションに活用していたのですね。中学生になってからも、やはりクラスの中で漫画を描いていたのでしょうか。

おおひなた:羽後中学校という地元の中学校に進学しましたが、このときに運命的な出会いをしました。中学2年の時に仲良くなった安藤晃人くんと、お互いにどっちが面白い漫画を描けるか、競いはじめたのです。安藤くんがいたことで漫画を描く楽しさに目覚めたので、彼には感謝してもしきれないですね。クラスでわいわいやっていたあの頃は、本当に楽しかったです。

この夏、実家に帰省したおおひなたごう。秋田県羽後町にある実家「マルマン」は酒屋で、現在は兄が経営を行っている。写真=背尾文哉
店内には兄の集めたフィギュアが陳列され、カオスな状態になっている。写真=おおひなたごう
おおひなたの実家にある本棚のごくごく一部。漫画をたくさん持っているおおひなた少年はクラスでも人気者だった。写真=おおひなたごう


――中学卒業後は、地元でも有数の歴史をもつ湯沢高校に進学しています。あの菅義偉元総理の母校でもあり、おおひなた先生は後輩にあたりますね(笑)。

おおひなた:高校では他にもちらほら漫画を描いている人はいました。ただ、僕のように人に見せて楽しむというよりは、自分たちだけでひっそりと漫画を描いて楽しんでいる感じで、ちょっとスタンスが僕とは違ってましたね。僕は相変わらず、授業中に漫画を描いて友達に回して遊んだりしてましたが(笑)。

――おおひなた先生の漫画はジャンルも多彩ですし、絵柄も作品ごとに異なっています。多感な10代の頃に影響を受けた漫画家はいらっしゃいますか。

おおひなた:影響を受けたギャグ漫画家はこれまでに10人います。幼稚園時代に好きだったのが赤塚不二夫さん、藤子不二雄さん。私の絵柄は完全にお二人の影響です。小学生の頃は鴨川つばめさん、江口寿史さん、島本和彦さん。高校生ぐらいから、しりあがり寿さんの漫画を読むようになり、吉田戦車さん、榎本俊二さん、タナカカツキさん、天久聖一さんらの作品から多大な影響を受けています。

――小学生のころまでは王道の少年漫画家やギャグ漫画家が中心でしたが、高校生の頃から、個性的なギャグ漫画家の作品を読むようになったのですね。

おおひなた:高校生の時に出会った先輩に、マニアックな漫画を色々紹介してもらいました。しりあがり寿さんの『北斗の拳』と『ピノキオ』を合体させた『ピノキヲ』は衝撃でした。そこから一気に、シュールな漫画の世界にハマりました。

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