ミステリ界の寵児・潮谷験はなにが凄いのか? 新作『エンドロール』の仰天すべき展開

潮谷験『エンドロール』のすごさ

 エンターテインメント・ジャンルの新人デビュー作は、なるべく読むようにしている。だが時間には限りがあり、出版される本はいつも膨大だ。したがって、つい読み忘れてしまい、後から頭を抱えることもある。近年だと、メフィスト賞を受賞した潮谷験の『スイッチ 悪意の実験』がそれに当たる。いや、メフィスト賞だから読まなきゃと思いながら、忙しさに追われているうちに、本が見当たらなくなって、そのままになってしまったのである。

 だが、第二長篇『時空犯』は、評判がよかったのですぐに読んだ。なにこれ、凄く面白い。時間ループと殺人事件を組み合わせた特殊設定ミステリーなのだが、ストーリー展開がぶっ飛んでいる。時間ループに関する部分は完全にSFであり、途中ですべてが明らかになる。それを踏まえて後半は、純粋な本格ミステリーになってしまうのである。

 最近、特殊設定ミステリーが多いが、ほとんど物語世界の特殊な設定を、前提として読者に受け入れさせるという形になっている。しかし『時空犯』は、特殊設定をSFとして鮮やかに処理し、斬新な物語として成立させたのだ。なお、リアルサウンド認定2021年度国内ミステリーベスト10の一位に輝いている。

 この作品に驚いた私は、慌てて本の山を崩して『スイッチ 悪意の実験』を発掘。「純粋な悪」の存在を証明するという、風変わりなアルバイトに参加した学生たち。ある一家を破滅させるアプリをスマホにインストールされる。スイッチを押しても押さなくても、一ヶ月後には百万以上の報酬が貰えるとのこと。ならば押す人はいないのではないか。しかし、誰かが押してしまった……。

 発想の原点は、リチャード・マシスンの短篇「運命のボタン」(これを原作にした、キャメロン・ディアス主演の映画『運命のボタン』をご覧になった人もいるだろう)だと思うが、ストーリーはやはり独創的。ボタンを押した犯人捜しから、物語は予想外の方向に転がっていく。こちらも凄い。といったように二冊読んで、注目すべき才能だと確信できたので、今回取り上げる第三長篇『エンドロール』が出版されると、すぐさま手に取ったのである。

 で、『エンドロール』なのだが、私のような書評でも粗筋を書いておきたい派にとっては、非常に困った作品である。ちょっとでも内容に踏み込むと、ネタバレになったり、読者の興味を削ぐことになってしまうからだ。だから、さわりの部分だけ触れておこう。

 物語の舞台は、新型コロナウィルスによるバンデミックが過ぎ去った、ポスト・コロナの時代。コロナ禍直撃の若者世代は、自分たちの被った不利益を顧みない世間を怨み自殺が相次いでいる。それを助長しているのが、陰橋冬という哲学者だ。自殺を肯定する自伝を残して若者たちと共に、集団自殺を遂げた陰橋。若者たちの自伝も手伝い、それは国会図書館に収められている。これに従うように、若者たちが次々と自殺。最初は十一冊だった国会図書館の自伝は、今では二百冊になっている。

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